管理者権限Lv3、都市建設を本格的に始めます
俺は建設メニューを開き、新たに解放された施設一覧へ視線を走らせた。
――多い。
以前とは、比べものにならない。
管理者権限がLv3へ上がったことで、本格的な都市機能が一気に解禁されたらしい。
――施設一覧――
【生活施設】
・共同住宅
・厨房付き大食堂
・診療所
・公衆浴場
・共同倉庫
・共同井戸
・貯水施設
・交易馬車発着場
【生産施設】
・農場
・製粉設備
・養殖池・養殖生簀
・食品工房
・革工房
・繊維工房
・製材所
・木工工房
・採石場
・石工房
・レンガ工房
・精錬所
・鍛冶工房
・大型倉庫
【軍事・防衛施設】
・監視塔
・内部防壁
・外部防壁
・門楼
・訓練場
・兵舎
・軍事指令所
・軍医所
・バリスタ砲台
【特殊施設】
・研究所
・学舎
・図書館
・住民保護シェルター
・資源保護シェルター
「……すごいな」
思わず呟く。
生活。
生産。
医療。
教育。
軍事。
研究。
都市として必要になる機能が、ようやく見えてきた。
だが――。
「全部建てるのは無理だな」
必要資材の欄を確認して、苦笑する。
解禁されたからといって、すべてが建設可能になったわけではない。
現在の資材状況では、建てられる施設は限られていた。
木材だけで建設できるのは、製粉設備、食品工房、監視塔、共同倉庫、学舎、図書館、研究所、採石場、石工房。
石材が必要になるのは、公衆浴場、共同井戸、診療所。
つまり――。
「まず、石が必要か」
採石場の項目へ視線を戻す。
石がなければ、井戸も作れない。
浴場も作れない。
診療所も作れない。
都市を発展させるための選択肢が、石材によって塞がれている。
「……なら、答えは決まってるな」
採石場。
これが最優先だ。
もちろん、製粉設備も重要だ。
今は収穫した雑穀を、そのまま煮て食べることが多い。
粉にできれば、パンや麺も作れる。
保存性も上がるし、遠征時の携行食にもなる。
住民の生活水準も、一段階上がるだろう。
だが、それは今すぐでなくてもいい。
医療も同じだ。
診療所は絶対に必要になる。
人口が増えれば、怪我だけではなく病気も増える。
この世界では、飢餓だけが人を殺すわけではない。
疫病だって、都市を滅ぼす。
俺はゲーム時代の記憶を思い返した。
医療施設の建設を後回しにしたプレイヤーが、疫病イベントで都市人口の半分を失う。
そんな光景を何度も見てきた。
「……あれだけは避けたいな」
俺は小さく息を吐いた。
そして、特殊施設へ目を向ける。
「研究所……学舎……図書館……」
どれも魅力的だ。
文明を復興するなら、いずれ必ず必要になる。
今の俺は、旧文明の知識を持っている。
だが、俺一人が知識を抱えているだけでは文明にはならない。
知識は共有されなければ意味がない。
技術は継承されなければ途絶える。
一人の天才より、百人の職人。
一冊の知識より、それを理解する百人の学徒。
文明を本当に再建するなら、人を育てなければならない。
そして最後に、防衛施設へ視線を移す。
「監視塔……外部防壁……」
こちらも重要だ。
ベヒモスは倒した。
だが、あれが最後の脅威だとは限らない。
大型魔物。
盗賊。
そして、この世界に潜む未知の存在。
都市が発展すればするほど、俺たちが持つ資源も人口も増える。
つまり――狙われる価値も増える。
守るべきものが増える以上、防衛力も必要になる。
「……やることが多すぎるな」
思わず苦笑した。
けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
以前は違った。
建てたい施設があっても、そもそも選択肢がなかった。
今は違う。
選べる。
迷える。
未来を、自分たちの手で決められる。
それだけの力を、俺たちはようやく手に入れたのだ。
そのとき――。
都市管理システムが淡く輝いた。
【推奨建設順を表示しますか?】
「……そんな機能まであるのか」
思わず笑う。
俺が開発していた頃には、こんな機能は存在しなかった。
おそらく、リリィから文明継承者としての権限を受け継いだことで、都市管理システムそのものが拡張されたのだろう。
俺はしばらく画面を眺めた。
どれも必要だ。
どれも、いつかは建てなければならない。
だが――。
「今、必要なのは『いつか』じゃない」
俺は画面を見つめる。
「今、生き延びるために必要なものだ」
そう考えれば、答えは簡単だった。
「まずは採石場」
石がなければ、次の施設へ進めない。
「その次に石工房」
採掘した石を加工できれば、建設効率も上がる。
「そして診療所」
人口が増える前に、医療体制を整えておく。
製粉設備は、その後だ。
食料事情を改善し、住民の暮らしを豊かにする。
教育や研究も重要だ。
だが、それはもう少し先でいい。
文明は、一日では築けない。
一つずつ。
確実に。
積み上げていけばいい。
俺は採石場の項目を選択した。
【施設:採石場】
【建設条件を確認】
【木材:○】
【石材:――】
【労働力:○】
【建設可能】
「よし」
俺は迷わず、建設開始のボタンへ指を伸ばした。
「まずは――石からだ」
指先が、画面に触れる。
次の瞬間。
【採石場の建設を開始します】
【都市開発フェーズ:第一次基盤整備】
【新たな建設目標が設定されました】
黄金色の文字が、俺の目の前に浮かび上がった。
そして――。
【連動施設の解放条件を確認】
【石工房】
【共同井戸】
【診療所】
【公衆浴場】
その文字を見た瞬間、俺は思わず笑った。
「……そういうことか」
石を手に入れる。
石を加工する。
水を確保する。
医療を整える。
そして――。
「風呂を作る」
文明再建の第一歩は、思った以上に地味だった。
だが、俺は知っている。
文明というものは、こういう小さな積み重ねから始まる。
俺たちの都市は今――。
ようやく、本当の意味で動き始めた。




