ガーディアンを倒せない? なら都市の管理権限を奪い取る
その頃――。
叡智の塔、遥か地下深く。
数百年もの間、完全に停止していた区画で、一つの照明が灯った。
続いて、もう一つ。
さらに、もう一つ。
暗闇に沈んでいた巨大な制御室が、黄金色の光に照らされていく。
水晶柱の内部を光が走り、眠っていた魔導機構が次々と起動を始めた。
【共同認証対象を確認】
【都市管理者――ハーシス】
【オペレーター――リリィ】
【認証率――68%】
【最終管理権限継承準備を開始】
制御室の最奥。
そこには、一脚の白銀の玉座があった。
そして、その前に跪く一体の騎士。
数百年もの間、微動だにしなかった巨体が――。
ゆっくりと震え始める。
【最終守護者――待機解除】
【管理者の帰還を確認】
カッ。
黄金の瞳に、光が灯った。
【新たな都市管理者へ――】
【忠誠を誓います】
◇
「とはいえ……具体的には、どうすればいいんだ?」
俺は腕を組み、唸った。
ガーディアン。
あれを正面から倒すのは、現実的じゃない。
剣で斬る。
魔法を撃つ。
そんな程度でどうにかなる相手ではない。
なら、別の方法を探すしかない。
俺はもう一度、都市管理画面を開いた。
すると――。
「……ん?」
これまで灰色だった項目の一つが、白く輝いている。
【管理権限】
俺は迷わず選択した。
瞬間。
目の前に新たなウィンドウが展開される。
【都市管理者権限 Lv1】
【権限変更】
【認証管理】
【アクセスログ】
【管理者権限は解析率の上昇に応じて拡張されます】
「やっぱり、そういうことか……」
思わず笑みがこぼれた。
旧文明の施設は、ただの建造物じゃない。
都市そのものが、一つの巨大なシステムなのだ。
結界も。
ガーディアンも。
発電施設も。
すべてが都市管理システムによって統括されている。
なら――。
「管理者権限を上げれば、ガーディアンの認証そのものを書き換えられるかもしれない」
「えっ?」
隣にいたリリィが目を見開いた。
「ガーディアンは都市を守るための兵器なんだろ?」
「うん……」
「だったら、本来の管理者の命令に逆らうようには作られていないはずだ」
俺は画面を見つめる。
「問題は、今の俺にそこまでの権限があるかどうかだ」
その瞬間――。
ピコン。
【権限不足】
【現在の管理者権限では旧文明管理兵器への命令を実行できません】
【必要権限――Lv3】
【現在――Lv1】
「……あと二つか」
思わず苦笑する。
簡単な道ではない。
だが――。
不思議と、落胆はなかった。
必要な条件が分かったからだ。
今までは、何をすればいいのかすら分からなかった。
それに比べれば、ずっといい。
「まだ、勝ち目はある」
俺が呟くと、リリィも胸元に手を当てた。
「じゃあ……ガーディアンを止められる可能性は、まだあるんだね?」
「ああ」
俺は頷いた。
「一パーセントでも可能性があるなら、そこに賭ける」
その時だった。
肩の上にいたナンシーが、突然ぴくりと身を震わせた。
『マスター』
「どうした?」
『地下より、高濃度のレイキ反応を検知しました』
「地下?」
『はい。叡智の塔――さらに下です』
直後。
都市管理画面が、俺の操作とは無関係に切り替わった。
【未探索エリアを検出】
【施設名――《中央管理区画》】
【状態――封鎖】
【解放条件】
【解析率 70%】
【または――】
【『オペレーター』との共同認証】
「……共同認証?」
その文字を見た瞬間だった。
隣にいたリリィの表情が変わった。
「……知ってる」
「何を?」
リリィは画面を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「中央管理区画……」
その声には、明らかな恐怖が混じっていた。
「そこは……都市の心臓部」
俺は黙って聞く。
「すべての都市機能を統括する中枢施設。都市を動かすための、最後の管理区画……」
そして。
リリィは、震える声で続けた。
「もし、そこがまだ生きているなら――」
一瞬、言葉を失う。
やがて、決意を込めて告げた。
「ガーディアンの命令系統そのものを書き換えられるかもしれない」
静寂が落ちた。
俺は画面を見つめる。
ここまで来て、ようやく分かった。
俺たちが戦うべき相手は、ガーディアンそのものじゃない。
逃げる必要もない。
正面から倒す必要もない。
奪えばいい。
旧文明が残した、この都市の支配権を。
そのために必要なのが――。
「中央管理区画、か」
俺は静かに拳を握った。
ここを制することができれば。
ガーディアンを敵ではなく、味方に変えられる。
そうなれば、この村を守るための力は一気に増す。
俺はリリィを見る。
「行けるか?」
リリィは少しだけ俯いた。
「……怖い」
小さな声だった。
けれど――。
次に顔を上げた時。
その青い瞳には、もう迷いはなかった。
「でも……行かなきゃ」
リリィが頷く。
「わたしが案内する」
「ああ」
俺も頷いた。
「じゃあ、決まりだ」
中央管理区画へ向かう。
そして――。
管理者権限を、Lv3まで引き上げる。
それが、この都市を取り戻すための最初の一歩だ。
だが。
俺たちは、まだ知らなかった。
その地下最深部では――。
すでに、一体の騎士が目を覚ましていることを。
数百年もの眠りから。
都市最後の守護者が。
新たな主を迎えるために――。




