世界樹を救ったら、古代文明の林業機械が目覚めました
世界樹を救った。
守護竜ユグドラを蝕んでいた汚染も消えた。
これで――終わり。
そう思っていた。
だが。
俺の目の前には、消えることなく残っているシステムメッセージがあった。
【汚染核は一つではありません】
【世界各地で同型反応を確認】
「……世界各地、か」
俺は小さく息を吐いた。
やはり、あの黒い結晶は偶然そこにあったものではない。
誰かが。
何かが。
世界樹を狙っている。
「ハーシス」
隣から声がした。
リューネだ。
彼女は今も世界樹の幹に手を当てている。
その顔には、深い安堵が浮かんでいた。
「世界樹は……本当に助かったのか?」
「ああ」
俺は頷く。
「システム上では、損傷率ゼロだ」
「そうか……」
リューネは目を閉じた。
そして、長く息を吐く。
「よかった……」
その声には、長い年月をかけて背負ってきた重荷から、ようやく解放されたような響きがあった。
そんな彼女を見ていると、俺まで少しだけ肩の力が抜ける。
――これで、一つの問題は終わった。
少なくとも。
今だけは、そう思っていた。
「一度、リューネの住処へ戻るぞ」
俺は仲間たちを見回した。
「その後、俺たちの村へ戻る」
「え?」
リューネが目を丸くする。
「私も……?」
「ああ」
俺は頷いた。
「世界樹を救った今なら、ここに一人で残る必要はないだろ」
リューネは答えなかった。
ただ、静かに世界樹を見上げる。
「それに――」
俺は巨大な竜へ視線を向けた。
「こいつも連れていく」
『……我を?』
「もちろん」
俺が笑うと、ユグドラはしばらく沈黙した。
『我は竜だぞ』
「知ってる」
『巨大だぞ』
「それも知ってる」
『村へ行けば、混乱するだろう』
「……まあ、それは確実だな」
俺が腕を組んで考えていると、ユグドラが続けた。
『ならば、連れていく意味がないのではないか?』
「いや、ある」
俺はユグドラを見上げた。
「お前には、これから世界樹だけじゃなく、俺たちの仲間も守ってもらいたい」
そして、ふと思いついた。
「……ちなみに、人の姿を取ることはできないか?」
翡翠色の瞳が細くなる。
『……人化の術か』
「ああ」
『使ったことはない』
「ないのか?」
『だが、術式そのものは知っている』
「なら、頼む」
しばらく沈黙が続いた。
やがて――。
ユグドラはゆっくりと目を閉じた。
『承知した』
次の瞬間。
巨竜の身体から、淡い緑色の光が溢れ出した。
「……!」
光が全身を包み込む。
巨大な身体が、ゆっくりと縮んでいく。
翼が消え。
四本の脚が、人の手足へ変わる。
鱗に覆われていた身体が、徐々に人の姿へと変わっていく。
そして――。
そこに立っていたのは。
長い髪を持つ、壮年の男性だった。
ただし。
その瞳だけは、先ほどまでのユグドラと同じ。
深い翡翠色をしている。
『これでよいか?』
「……」
俺は言葉を失った。
ガードナーも口を開けたまま固まっている。
シャーリスですら、珍しく目を丸くしていた。
「……すげぇ」
ようやくガードナーが呟いた。
「本当に人になりやがった……」
「竜だからな」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ」
ごもっともだった。
『我はこれでも守護竜だ』
ユグドラが僅かに眉を寄せる。
『竜を便利な生き物のように扱うな』
「悪い悪い」
俺は苦笑した。
だが。
これなら村へ連れていっても、少なくとも竜騒ぎにはならないだろう。
――その時だった。
『ならば、我もお前たちの戦いに加わろう』
黄金のウィンドウが目の前に出現した。
【新規契約候補を確認】
対象:緑守竜ユグドラ
種族:世界樹守護竜
契約条件:世界樹との共生関係を維持
契約可能性:――
「……契約候補?」
俺は眉をひそめた。
だが。
肝心の契約可能性だけが空白になっている。
『パッチワーク』
『はい』
「契約可能性のところが空白なんだけど?」
『現在、解析中です』
「……嫌な予感しかしないな」
『同意します』
「そこは否定してくれよ」
相変わらず容赦がない。
そんなやり取りをしていた時だった。
ユグドラの身体から、再び淡い緑色の光が溢れ出した。
光は空へ昇り――。
世界樹の枝へ吸い込まれていく。
「……?」
直後。
森の奥で、何かが光った。
俺は目を細める。
世界樹から伸びた一本の太い根。
その先端に、見慣れない紋章が浮かび上がっていた。
円形の紋章。
中央には、四つの枝を持つ樹。
そして、その周囲には――。
四つの黒い点。
「これは……」
リューネの顔から血の気が引いた。
「まさか……」
「知ってるのか?」
彼女は震える指で紋章を指した。
「古い記録にあった」
「何て書いてあった?」
リューネは一度、息を呑む。
「四つの世界樹」
そして。
「それを繋ぐ――始まりの樹」
俺は世界樹を見上げた。
巨大な樹冠。
無数の枝。
その向こうへ伸びていく、淡い緑色の光。
もし。
世界樹同士が繋がっているのなら。
この汚染は――。
単なる一つの事件ではない。
世界そのものを覆う計画なのかもしれない。
そして。
黒い結晶を生み出した何者かは、今もどこかで動いている。
「まずは……帰るぞ」
俺は剣を腰へ戻した。
「村に戻って、準備を始める」
「何の準備だ?」
ガードナーが尋ねる。
俺は笑った。
「決まってるだろ」
世界樹の向こうへ視線を向ける。
そこには、まだ見ぬ土地が広がっている。
「世界を救うための準備だ」
森の風が吹き抜けた。
その風に乗って――。
どこか遠くから。
低い咆哮が響いた。
ユグドラではない。
もっと遠い。
もっと巨大な何か。
「……今の、何だ?」
誰も答えない。
だが。
システムだけが、静かに警告を表示した。
【未確認生命体の咆哮を検知】
発生地点:北東方向
推定距離:約四百八十キロ
解析結果:
――該当データなし
「……四百八十キロ?」
俺は遠くを見つめた。
まだ、始まったばかりだ。
世界樹を救った。
だが――。
世界には、まだ俺の知らない世界樹がある。
そして。
そこにはきっと。
同じように、助けを待っている存在がいる。
「帰ろう」
今度は誰も迷わなかった。
俺たちは歩き始める。
その先に何が待っているのか。
まだ、誰にも分からない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
――世界樹の救済は、始まりに過ぎなかった。
◆
――数十分後。
俺たちはリューネの住処へ戻ってきた。
世界樹を救うという特殊イベントは、なんとか達成できた。
だが。
普通に戦っていたら、とっくに消し炭になっていただろう。
《パッチワーク》の戦闘支援だけではない。
世界樹そのもの。
そして最後まで世界を守ろうと抗い続けた、守護竜ユグドラ。
あの二つの存在に、俺は大きく助けられた。
「……借りは返さないとな」
俺は小さく呟いた。
世界樹の浄化は終わった。
森を覆っていた瘴気も、ゆっくりと薄れ始めている。
あとは村へ戻り、この成果を皆に報告すればいい。
――ただ。
その前に、一つだけ確認しておきたい場所があった。
守り手が住処としていた、あの建物だ。
「リューネ、あの祠だが……詳しく調べてもいいか?」
「無論だ」
許可をもらい、俺たちは建物へ向かった。
近づいてみると、木材と石材を組み合わせた質実剛健な造りをしている。
生活感はある。
だが、普通の家とは少し違う。
ツタに隠れて見えなかったが、建物の横には丸太を運び込める広い搬入口があった。
そして――。
大きな両開きの扉。
「……倉庫か」
俺は口元を緩めた。
ここは守り手の住居というより――。
造林作業員用の簡易宿泊施設だったのだ。
世界樹を管理する者たちが寝泊まりし、日々の保守や植林を行うための拠点。
そう考えると、隣接した倉庫の存在にも納得がいく。
ならば。
中には当時使われていた作業機械や工具が残っている可能性が高い。
チェーンソーのような伐採機材か。
それとも、この世界独自の魔導機械か。
どちらにせよ。
古代文明の設備なら、村の発展に大きく役立つはずだ。
「帰る前に、中を調べておく価値は十分あるな」
俺は倉庫の重い扉へ歩み寄った。
長い年月、閉ざされ続けていた取っ手へ手をかける。
ギィィ……。
錆びついた蝶番が軋み、扉がゆっくりと開いていく。
舞い上がった埃を手で払いながら、中を覗き込む。
そこに広がっていたのは――。
俺の予想を、遥かに超える光景だった。
壁一面に、用途ごとに整理された工具が並んでいる。
斧。
鋸。
鉈。
鑿。
鉋。
どれも長い年月を経ているはずなのに、刃にはほとんど錆がない。
「保存結界か……それとも、ミスリルのような合金で作られているのか」
林業用の工具をミスリルで作る。
今の俺たちの感覚なら、正気の沙汰じゃない。
だが、ここは古代文明の施設だ。
何があっても不思議ではない。
「すげえじゃねぇか!」
俺に続いて中へ入ったガードナーが歓声を上げた。
「ここ、お宝の山だぜ!」
工具棚を眺め回しながら、嬉しそうに笑っている。
「俺ぁ、今日ほどハーシスについてきて良かったと思った日はねぇ!」
「全く、大げさだな」
俺が苦笑すると、リューネとシャーリスも倉庫の中を見回した。
「まさか……こんな物が残っていたとは」
リューネが震える声で呟く。
「私には、見ただけでは何に使うのか全く分からぬな」
シャーリスは工具を眺めながら首を傾げた。
「だが、あの二人の喜びようを見る限り、相当な価値があるのだろう」
工具棚の隅では、淡い魔法陣が微かな光を放っている。
世界樹の森を管理する施設だけあって、保管設備まで一級品らしい。
「これは凄いな……」
木材の切り出しや簡易加工に必要な道具が、一通り揃っている。
これだけでも、製材所の建設は格段に進めやすくなるだろう。
さらに奥へ進む。
そこには大小様々な木箱が積み上げられていた。
蓋を開けてみる。
中には新品同然の鋸刃。
斧の柄。
釘。
蝶番。
金具。
交換部品まで、ぎっしりと詰まっている。
「消耗品まで残っているのか」
これだけの備蓄があれば、しばらく道具には困らない。
別の木箱には、丈夫な作業着や革手袋、雨除け用の外套まで丁寧に畳まれていた。
「……徹底してるな」
ここは、単なる宿舎じゃない。
世界樹を守る者たちの――前線基地だったのだ。
その時。
《パッチワーク》が静かに反応した。
――解析対象を確認。
――古代施設《世界樹保守管理倉庫》。
――施設データ取得中……。
俺の視界に半透明の文字が浮かび上がる。
そして。
倉庫の最奥。
厚い防塵布に覆われた、巨大な何かが目に入った。
「……あれは?」
俺は近づき、布を掴む。
そして――。
一気に引き剥がした。
ばさり。
布が床へ落ちる。
「……!」
そこにあったのは、荷車ほどもある四輪の大型機械だった。
車体は木と金属で構成されている。
中央には魔力結晶を収める円筒状の炉。
前方には巨大な円盤状の刃が左右に並び、後部には切り出した丸太を固定する可動式アームが備えられている。
「これは……伐採機?」
チェーンソーとは、まるで違う。
――魔力で駆動する、古代文明製の林業機械だ。
その瞬間。
《パッチワーク》の解析が完了した。
――解析完了。
――古代林業支援機。
――状態:良好。
――動力:魔力結晶。
――用途:伐採、枝払い、丸太運搬、苗木植樹支援。
――修復率:九八%。
「これまで残っているとは……」
思わず息を呑んだ。
フォレスト・ビルダー。
本来ならゲーム終盤、《文明復興イベント》で実装する予定だった没設定だ。
開発途中、容量の都合で削除したはずの存在。
放牧地を隠れた状態から引き上げた時にでも、一緒に実体化したのだろうか。
だが。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
倉庫の奥には、もう一台。
ひときわ大きな車両が眠っていた。
四輪の頑丈な車体。
そこから伸びる長い多関節アーム。
先端には鋼鉄の鉤爪――グラップル。
荷台には、丸太を何本も積み込める大型の搬送架台。
「……こっちは丸太運搬機か」
現代でいうフォワーダーに近い。
多関節アームの先にある巨大な鉤爪で丸太を掴み、そのまま荷台へ積み込む機械だ。
《パッチワーク》が続けて解析結果を表示する。
――解析完了。
――古代林業支援機。
――状態:良好。
――動力:魔力結晶。
――用途:丸太運搬、資材搬送、林内輸送。
――修復率:九九%。
「……嘘だろ」
思わず声が漏れた。
この二台だけで。
最も人手を食う伐採と運搬を自動化できる。
あとは製材と建築に人員を集中すればいい。
村の発展速度は、これまでとは比較にならないほど上がる。
製材所の建設。
木材の確保。
住宅の増築。
すべてが一気に現実味を帯びてきた。
まさしく――。
失われた文明の遺産だった。
「まあ、丸太を板材や角材に加工する工程は俺たちの手でやらなければならない」
俺は機体を見上げる。
「それでも十分すぎる。伐採と運搬っていう、一番人手を食う作業をこの二台が肩代わりしてくれるんだからな」
「つまり――」
ガードナーが興奮した様子で荷台へ飛び乗る。
「このでっけえ機械が木を切って、運んでくれるってことだろ?」
「ああ」
「今まで何人がかりで何日も苦労してた仕事が、一気に楽になるじゃねえか!」
「その分、人手を製材や建築に回せる」
俺は機体の側面へ目を向けた。
そこには古代文字が刻まれている。
長い時を経ても、その刻印は誇らしげに輝いていた。
そして。
《パッチワーク》が再び表示を更新する。
――関連施設との連携を確認。
――エマイン・マハへの移動ルートをマップへ登録しました。
「……ん?」
俺は表示を見つめる。
「もしかして、自動で運んでくれるのか?」
表示が一行ずつ更新されていく。
――回答。
――《フォレスト・ビルダー》《ログ・キャリア》には古代自律航行補助機能を搭載。
――登録済み拠点間の自動走行が可能。
――現在の登録拠点。
――《世界樹保守管理倉庫》。
――《エマイン・マハ》。
「……エマイン・マハ?」
俺は表示を二度見した。
どうして滅んだはずの都市が登録されている?
少し考えて――。
「……そういうことか」
答えに行き着いた。
「昔は、ここから都市へ木材を運んでいたんだ」
その疑問に答えるように、システムが表示を更新する。
――登録拠点間、自動搬送可能。
なるほど。
古代文明は、俺がゲームに実装した設定以上の技術を持っていたらしい。
管理用林道さえ残っていれば、人が操縦しなくても目的地まで荷物を運べる。
「じどう……そうこう?」
ガードナーが首を傾げる。
「簡単に言えば、人が手綱を握らなくても勝手に走るってことだ」
一瞬。
倉庫の中が静まり返った。
「……は?」
ガードナーが間の抜けた声を上げる。
「いやいやいや! そんな馬鹿な話があるか!」
彼は機体を指差した。
「馬も牛も繋がずに動くってのか?」
リューネとシャーリスも顔を見合わせる。
「普通なら、俺も信じないさ」
俺は機体の側面へ手を触れた。
冷たい金属。
その表面を、淡い魔法回路が蜘蛛の巣のように走っている。
「でも、こいつは古代文明製だ」
俺は笑う。
「世界樹を管理していた連中なら、このくらいの技術を持っていても不思議じゃない」
「だったら、荷車を引く馬はいらねぇのか……?」
「いや、人や荷物を運ぶ普通の荷車は必要だ」
俺は肩をすくめる。
「だが、木材輸送だけは、この機械がやってくれる」
――その時だった。
機体中央の魔力炉が、ぼう、と淡い蒼色に灯った。
ゴウン……。
低い振動が倉庫全体へ響く。
「お、おい!」
ガードナーが慌てて飛び退いた。
長い眠りから目覚めるように、巨大な車輪がわずかに回転する。
《パッチワーク》が表示を更新した。
――待機状態を解除。
――操作者を確認。
――管理権限照合中……。
俺は思わず息を呑む。
――世界樹管理者権限を検出。
――代理管理者。
――認証完了。
――ようこそ、管理者。
機体正面に埋め込まれた水晶が、柔らかく輝いた。
「……管理者権限?」
俺は苦笑する。
「世界樹を救済した影響か」
それとも。
「管理施設ごと、引き継いだのか……」
どちらにせよ。
好都合だ。
《パッチワーク》がさらに情報を表示する。
――推奨作業。
――魔力結晶を装填してください。
――装填後、全機能を使用可能。
――現在の稼働可能時間。
――高品質魔力結晶:七十二時間。
――中品質:三十六時間。
――低品質:十二時間。
「燃料式じゃなく、魔力結晶式か」
幸い。
世界樹救済の報酬で得た魔力結晶が、いくつかある。
当面の運用には困らない。
俺は魔力結晶を一つ取り出した。
そして、炉の中央へゆっくりとはめ込む。
カチリ。
小気味よい音が響いた。
次の瞬間。
車体全体へ青白い光が駆け巡る。
ゴォォォ……。
静かだった倉庫に、力強い駆動音が満ちた。
巨大な円盤刃がゆっくりと空転する。
グラップルの指が、生き物のように滑らかに開閉した。
「す、すげえ……」
ガードナーが目を丸くする。
「まるで鉄の魔物が目を覚ましたみてえだ……」
「いや、魔物じゃない」
俺は苦笑しながら、梯子を上った。
操作席へ乗り込み、前方を見据える。
倉庫の外には、倒木が一本転がっている。
「……少し試してみるか」
操作すると、二台の車両が連動して動き始めた。
フォレスト・ビルダーが倒木へ接近する。
円盤刃が枝を払い。
グラップルが丸太を掴む。
そして――。
あっという間にログ・キャリアへ積み込んだ。
かかった時間。
わずか数十秒。
「俺たちなら、どう考えても半日仕事だぞ……」
ガードナーが呆然と呟く。
「まあ、古代文明はそれだけ凄かったってことだ」
俺は苦笑した。
だが。
その時だった。
視界に、古代文字とともに地図が投影された。
現在位置。
《世界樹保守管理倉庫》。
目的地。
《エマイン・マハ》。
二つの地点を結ぶ、一本の青い線。
それが鮮やかに表示されている。
そして。
《パッチワーク》が最後の案内を告げた。
――《自動搬送モード》
――起動しますか?
【はい】
【いいえ】
俺は迷わず――。
【はい】
を選択した。
「……少し待て」
俺は仲間たちを見る。
「これに乗って村まで戻れる」
「おい、俺も乗っていけるのか!」
真っ先に反応したのはガードナーだった。
彼は嬉々として機体へ飛び乗る。
シャーリスは少し躊躇していた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うぜ」
「思う、なのか……」
呆れたような顔をしながらも、シャーリスは恐る恐る機体へ上がってくる。
リューネは、その様子を静かに見ていた。
「リューネも来るか?」
「私は……」
彼女は世界樹を振り返る。
長い間。
この場所を離れたことはなかったのだろう。
やがて。
世界樹へ手を当てる。
「……大丈夫だ」
淡い風が、彼女の髪を揺らした。
世界樹は何も言わない。
だが。
枝葉が、かすかに揺れた。
「ならば、私も行こう」
リューネも機体へ乗り込んだ。
そして最後に。
ユグドラが人の姿で機体の後方へ乗った。
『……窮屈だな』
「竜の姿で乗られるよりマシだろ」
『それは否定できぬ』
俺は思わず笑った。
「……行くぞ」
――承認。
――自動搬送モードを起動します。
ピピッ――。
機体各部へ青白い光が走る。
車輪を固定していたロックが、次々と解除されていく。
直後。
機体が静かに唸りを上げた。
ゴウン……。
重厚な車体が、ほとんど揺れることなく前進を始める。
まるで熟練の御者が手綱を操っているかのように、四輪が滑らかに向きを変えた。
倉庫の出口へ進んでいく。
すると――。
倉庫の大扉が、重々しい音を立てながら開き始めた。
まるで。
長い年月を経て帰ってきた管理者を、迎え入れるかのように。
「う、おおお……!」
ガードナーが手すりにしがみつきながら目を見開く。
「本当に勝手に動いてる!」
そして叫んだ。
「馬も牛もいねぇのに!」
「だから言っただろ」
俺は笑う。
「古代文明の機械だってな」
前方には、青い誘導線が伸びている。
機体は迷うことなく、その線をなぞって進んでいく。
やがて。
世界樹の森を抜ける。
古代林道へ。
その先にあるのは――。
俺たちの拠点。
エマイン・マハ。
長い眠りについていた古代林業支援機は、数百年ぶりに管理者を乗せて走り始めた。
かつては世界樹を守るために造られた機械。
だが今は――。
滅びかけた人類の未来を築くために動いている。
エマイン・マハへ続く古代林道に、静かな駆動音が響く。
それは。
失われた文明が再び息を吹き返す――。
最初の鼓動だった。




