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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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13/51

世界樹を蝕む黒い結晶――俺は守護竜を救うことにした

 翌朝。


 リューネの隠れ家を出る準備が整った。


 鹿の肉は一部を解体し、燻製にするための下処理をリューネに教えてもらった。


 残りは村へ持ち帰るため、ガードナーが背負える大きさに分けてある。


「世界樹の根までは、どれくらいかかる?」


 俺が尋ねると、リューネは森の奥を見つめた。


「普通なら、半日ほどだ」


「普通なら?」


 シャーリスが聞き返す。


 リューネは少しだけ間を置いた。


「今の森は正常ではない」


「……道が変わっている、と?」


「そうだ」


 リューネは頷いた。


「木々が伸び、獣道が消え、魔力の流れまで乱れている。この森は生きているからな。弱っている時ほど、不安定になる」


「森そのものが変化しているのか……」


 俺は森の奥を見つめた。


 ゲーム時代の設定でも、この森には《迷いの森》という特殊エリアが存在していた。


 ただし――本来なら、もっと後半だ。


 プレイヤーが十分に装備を整え、精霊系スキルを持った仲間を連れて挑む場所。


 序盤の村作りをしている時期に来るような場所じゃない。


 それに。


 今回の異変そのものが、俺の知るゲームには存在していなかった。


 つまり。


 この世界では、俺の知らない何かが起きている。


『ハーシス……』


 ナンシーの声が響いた。


 いつもの明るさがない。


『何か、嫌な感じがします』


「お前もか」


『森の中に、変なレイキの流れがあります』


 ナンシーが言葉を選ぶように続ける。


『昨日の千眼と同じです。でも……もっと深いところから感じます』


「やっぱり、黒い結晶か」


『はい』


 俺は剣の柄に手を添えた。


 千眼を蝕んでいた黒い結晶。


 あれと同じものが、森の奥にある。


 もしそうなら――かなり厄介だ。


「行こう」


 俺たちはリューネを先頭に、森のさらに奥へ進んだ。


 ◆


 昨日まで歩いていた森とは、明らかに違っていた。


 木々は異様なほど巨大になり、太い幹には亀裂が走っている。


 まるで血管のような黒い筋まで浮かんでいた。


 鳥の声がしない。


 獣の気配もない。


 風が吹いているはずなのに、森の中は妙に静かだった。


「……妙だな」


 ガードナーが呟いた。


「獣の気配が、ほとんどない」


「逃げたのか?」


 俺が尋ねる。


 シャーリスが首を横に振った。


「違う」


「違う?」


「いる」


 彼女は周囲を見回した。


「いるのに……出てこない」


 狩人としての感覚なのだろう。


 俺には分からない。


 だが、シャーリスがそう言うなら間違いない。


 この森には何かがいる。


 ただ――。


 何かに怯えて、息を潜めている。


 そう思えた。


 しばらく進んだところで、リューネが突然足を止めた。


「止まれ」


 全員が動きを止める。


 リューネが見つめる先。


 木々の隙間に、何かがいた。


 最初は岩かと思った。


 だが、それはゆっくりと動いた。


 巨大な鹿だった。


 ――いや。


 鹿のような姿をした、何か。


 全身から黒い霧が漏れている。


 角は枯れ木のように黒ずみ、片目は赤く濁っていた。


「……汚染されている」


 リューネが呟く。


「千眼だけじゃなかったのか」


 ガードナーが弓を構えた。


 しかし、リューネが手を上げる。


「待て」


「待つ?」


「まだ完全には堕ちていない」


 その言葉通りだった。


 黒い霧に包まれた鹿は、こちらを威嚇するように鳴いた。


 だが。


 その足は震えている。


 苦しんでいるのだ。


「助けられるのか?」


 俺が尋ねる。


 リューネは答えなかった。


 ただ、腰に下げた小さな笛を取り出す。


「……試す」


 千眼の時にも使っていた笛だ。


 静かな音色が森に響いた。


 鹿が動きを止める。


 赤く濁っていた瞳が――ほんの一瞬だけ、元の色を取り戻した。


「今だ!」


 リューネが叫んだ。


 俺は走った。


 狙うのは鹿じゃない。


 胸元。


 そこに埋め込まれた黒い結晶。


 千眼の中にあったものと、まったく同じだ。


 俺は剣を抜いた。


 普通に斬れば、鹿まで傷つけてしまう。


 ――これは戦闘じゃない。


 救出だ。


「パッチワーク」


 心の中で呼びかける。


 視界が切り替わった。


 ――――――――――


【対象解析開始】


【対象:汚染された森鹿】


【異常:魔力核侵食】


【汚染源:黒色結晶体】


【除去難易度:低】


【推奨行動:結晶部位のみ破壊】


 ――――――――――


 やはり。


 俺は一歩踏み込む。


 鹿が突進してきた。


 巨大な角が迫る。


「左!」


 リューネの声。


 俺は反射的に身体を捻った。


 角が頬を掠める。


 そのまま懐へ入り込み――。


「そこだ!」


 剣を振り抜いた。


 ――ガキンッ!


 硬質な音が響く。


 黒い結晶に亀裂が走った。


 次の瞬間。


 鹿の身体から、黒い霧が一気に噴き出した。


「っ!」


 俺は飛び退く。


 森全体が揺れるような低い唸り声。


 だが――。


 数秒後。


 鹿はゆっくりと膝をついた。


 赤く濁っていた目が、穏やかな瞳へ戻っていく。


「……助かったのか?」


 ガードナーが呟く。


 リューネは鹿へ近づき、そっと手を触れた。


「……戻った」


 その声には、はっきりと安堵が滲んでいた。


「まだ間に合う」


 その言葉に、俺は森の奥を見る。


 千眼も。


 この鹿も。


 同じ黒い結晶に蝕まれていた。


 なら――。


 森の奥には、もっと多くのものがいる。


 そして。


 もっと大きな何かが。


 その時だった。


 ズン……。


 地面が揺れた。


「……なんだ?」


 次の瞬間。


 もう一度。


 ズン……。


 まるで巨大な何かが、地中で鼓動を打ったようだった。


 ナンシーが震える。


『ハーシス……』


「分かってる」


 俺も感じていた。


 あの黒い結晶。


 これは、ただの汚染じゃない。


 誰かが意図的にばら撒いている。


 そして、その中心にあるのが――。


 世界樹の根。


 リューネが森の奥を睨んだ。


「急ぐぞ」


「何かあるのか?」


「……ある」


 リューネの表情が険しくなる。


「本来、世界樹は自らを守るため、古き契約を結んでいる」


「その契約者が……ユグドラなのか?」


 リューネは答えなかった。


 ただ、森の奥を見つめている。


「あれが怒っているのなら、まだいい」


「……いい?」


「怒るということは、生きているということだから」


 リューネは静かに言った。


「だが――今、その気配がない」


 背筋に嫌なものが走った。


 ゲームの知識が告げている。


 この先には、本来なら――。


 森を守る精霊獣がいる。


 その名は。


 ――緑守竜ユグドラ。


 序盤で遭遇するはずのない、高位存在。


 俺たちは知らないうちに。


 本来のシナリオから、大きく外れた場所へ踏み込んでいた。


「行くぞ」


 俺は剣を握り直した。


 世界樹の根。


 その奥で何が待っているのか。


 確かめるしかない。


 ◆


 森の奥へ進むほど、空気が重くなっていった。


 まるで森そのものが、息を止めているようだった。


 さっきの汚染された鹿。


 あれほどの異常が起きていたのに、周囲の木々は何も反応しなかった。


 普通なら。


 森に生きる存在が危機を察知するはずだ。


 だが――。


 何もない。


 静かすぎる。


「……おかしい」


 シャーリスが呟いた。


「何が?」


 ガードナーが尋ねる。


「森が死んでいる」


 その言葉に、俺は足を止めた。


「死んでいる?」


「違うな」


 リューネが首を振った。


「死んでいるのではない」


 彼女は巨大な木の幹へ手を触れる。


「眠らされている」


 背筋に寒気が走った。


「眠らされているって……誰に?」


 リューネは答えなかった。


 代わりに、木の表面をじっと見る。


 そこには細かな黒い筋が走っていた。


 血管のように。


 根から幹へ。


 幹から枝へ。


 そして――森全体へ。


『……感染している』


 ナンシーが小さく呟いた。


『ハーシス。これ……』


「分かってる」


 自然発生した汚染じゃない。


 何者かが世界樹の力を吸い上げるため、意図的に仕掛けたように見える。


「急ぐぞ」


 俺は歩みを速めた。


 すると。


「止まれ」


 リューネが手を上げる。


 全員が身構えた。


「何がいる?」


 ガードナーが小声で尋ねる。


 リューネは答えない。


 ただ、耳を澄ませている。


「……声がする」


「声?」


 俺も集中した。


 風の音。


 木々のざわめき。


 その奥。


 確かに何かが聞こえた。


『……たす……け……』


 俺は目を見開いた。


「今、聞こえたか?」


 ガードナーを見る。


「何が?」


「声だ」


 シャーリスも首を振る。


「私には聞こえない」


 リューネだけが、苦しそうな表情を浮かべていた。


「聞こえる者と、聞こえない者がいる」


「どういうことだ?」


「森との繋がりだ」


 リューネは拳を握った。


「世界樹が、助けを求めている」


 その言葉に――。


 ナンシーが震えた。


『ハーシス……近いです』


「何が?」


『あの黒い結晶を作っているもの』


 次の瞬間。


 森の奥から――。


 ――ドクン。


 巨大な鼓動のような音が響いた。


 地面が揺れる。


 木々が軋む。


 そして。


 前方の霧が、ゆっくりと晴れていった。


 そこにあったのは――。


 巨大な根。


 山のように広がる、世界樹の根だった。


 だが。


 本来なら白銀にも似た輝きを放っているはずの根は――。


 黒く染まっていた。


 無数の亀裂から、黒い液体のような魔力が流れ落ちている。


「……そんな」


 リューネが呟いた。


 初めて見る。


 彼女の怯えた顔。


「リューネ?」


「ありえない……」


 声が震えている。


「世界樹の根が……」


 その時。


 根の奥で――。


 巨大な影が動いた。


 地面を揺らしながら、ゆっくりとこちらを見る。


 巨大な角。


 緑色の鱗。


 そして――。


 片目だけが、黒く染まっていた。


『……侵入者』


 空気そのものを震わせる声。


 竜の声だった。


『なぜ……我が眠りを妨げる』


 リューネが膝をつく。


「ユグドラ……」


 俺には分かった。


 これは違う。


 ゲームで見た姿とは、あまりにも違う。


 守護者じゃない。


 苦しんでいる。


『我は……世界樹を守らねばならぬ』


 黒い霧が周囲へ広がっていく。


『だが……もう……』


 巨大な竜の瞳から――。


 一滴の黒い涙が落ちた。


『我自身が……世界樹を蝕んでいる』


 ナンシーが叫ぶ。


『ハーシス!』


 俺は剣を抜いた。


 だが。


 ユグドラは敵意を向けていない。


 ただ、苦しんでいる。


 千眼も。


 森鹿も。


 そして、この竜も。


 全部同じだ。


 黒い結晶によって、蝕まれている。


 なら――。


 やることは一つ。


「助ける」


 俺が呟く。


 ガードナーが驚いた顔をした。


「戦わないのか?」


「必要なら戦う」


 俺は竜を見る。


「でも、こいつは敵じゃない」


 リューネが目を見開いた。


「ハーシス……」


「俺たちは森を壊しに来たんじゃない」


 剣を構える。


「助けに来たんだ」


 その瞬間。


 ユグドラが咆哮した。


 森全体が震える。


 巨大な爪が振り下ろされた。


 俺は走った。


 ――――――――――


【高位存在を確認】


【対象解析開始】


【警告】


【通常戦闘では勝利不能】


【推奨行動】


【汚染核の除去】


【解析難易度:極高】


 ――――――――――


 やはり。


 狙うべき場所は胸元。


 そこに埋め込まれた黒い結晶だ。


 だが――。


 あまりにも大きい。


 鹿や千眼とは、まるで規模が違う。


「これを……俺に壊せっていうのか?」


 思わず呟いた、その時だった。


 システムウィンドウが、今まで見たことのない黄金色へ変化する。


 ――――――――――


【特殊イベント発生】


《世界樹救済》


【目的】


緑守竜ユグドラから汚染核を除去せよ。


【失敗条件】


対象の死亡。


【世界樹損傷率】


12%


【守護竜汚染率】


73%


【パッチワーク介入権限】


一時解放


 ――――――――――


 そして。


 最後に表示された文字を見て、俺は息を呑んだ。


【未知の救済イベント】


 ――――――――――


 知らない。


 こんなイベント、ゲームには存在しなかった。


 なら。


 この先は、誰も攻略方法を知らない。


 俺自身が、答えを見つけるしかない。


「……また、知らない展開かよ」


 ユグドラが咆哮する。


 巨大な爪が迫る。


 俺は剣を握り直した。


「だったら――」


 一歩、踏み込む。


「攻略方法も、俺が作る!」


 その瞬間。


 苦悶に歪んでいたユグドラの瞳が――。


 一瞬だけ、穏やかな緑色を取り戻した。


 そして。


 森全体を揺るがす咆哮が、再び響き渡った。


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