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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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11/49

森の主を退けた俺たちを、エルフは静かに見ていた

 そして、一夜が明けた。


 朝食を済ませると、俺はアトラに声をかけた。


「昨日、ローズの様子を見ていてくれたんだよな。

 どうだった?」


「うん。

 一生懸命働いてたよ。

 畑に生えてきた雑草をずっと抜いてた」


「土が良くなった分、雑草まで元気になったか」


 苦笑すると、アトラも小さく笑う。


「それに、ローズさんはあんまり力がないみたい」


「見れば分かるさ。

 あの細い身体で鍬を振るうんだ。

 大変だろうな」


「変な様子はなかったよ。

 真面目に働いてた」


「ミントは?」


「ずっと砂で何かを作っては壊して遊んでた」


「あの怪力だからな。

 下手に畑を手伝わせたら、畝まで壊しかねない」


 俺が肩をすくめると、アトラはくすりと笑った。


「だからかな。

 ノエもローズさんも、優しく笑って見守ってるだけだったよ」


 どうやら二人とも、この村で問題を起こすつもりはないらしい。


 少なくとも今は、それで十分だ。


 ◇


 待ち合わせ場所へ向かうと、ガードナーとシャーリスはすでに準備を終えていた。


「おはよう。

 待たせたか?」


「おう。

 シャーリスなんて夜明け前から待ってたぞ」


 ガードナーが笑う。


 当のシャーリスは何も言わず、じっと俺を見つめていた。


 昨日、「寝坊するな」と言われた手前、自分が遅れるわけにはいかなかったのだろう。


「悪かった。

 それじゃ、行こう」


 三人は東の沢へ続く獣道を歩き始めた。


 朝の森は、まだ薄暗い。


 冷えた空気が肌を撫で、小鳥のさえずりだけが静かな森に響いている。


「そういや、さっきアトラと話してたんだが」


 俺が切り出すと、ガードナーが先回りした。


「ローズとミントのことか?」


「ああ。

 二人とも、この村でやっていこうと頑張ってるみたいだ」


「そりゃ結構なこった」


 ガードナーは足元の枝を蹴り除けながら続ける。


「どう見ても訳ありだからな。

 向こうが話す気になるまでは、根掘り葉掘り聞かねぇ方がいい」


「住んでいた場所は、もうないって言ってたしな」


「だとしても、いい思い出が残ってる場所じゃなさそうだ」


 ぽつりと呟いたのはシャーリスだった。


「……でも、怪力の子ども」


「気になるか?」


「力があるだけならいい。

 でも……力に振り回されるなら危ない」


 その言葉には思わず苦笑する。


 俺自身、ミントに抱きつかれて気絶させられたばかりだ。


「まあ、それは身をもって知ってる。

 でも周りにちゃんと見てる大人がいれば、大丈夫だろ」


「ローズが見てりゃ、そうそう大事にはならねぇさ」


 ガードナーも軽く笑った。


 そんな話をしながら歩いていると、不意に足が止まった。


 泥の上に、無数の足跡が刻まれている。


 鹿。


 猪。


 それだけではない。


 深く地面をえぐる、大きな蹄。


 さらに、鋭い鉤爪が土を引き裂いたような跡まで残っていた。


「……これは」


 俺がしゃがみ込むより早く、シャーリスが膝をついた。


 足跡の縁を指先でなぞる。


「新しい。

 昨夜……か、明け方」


 ガードナーも周囲を見回した。


「鹿に猪、それから熊だな」


 そして眉をひそめる。


「全部、西へ逃げてやがる」


 森の獣たちが、一斉に同じ方向へ。


 まるで――何かから逃げているように。


「熊まで逃げるのか……」


 俺は東の沢へ視線を向けた。


「みんな東を避けてる。今日は、その理由を突き止める」


 シャーリスが静かに立ち上がり、腰のナイフへ手を添えた。


「……来るなら、来ればいい」


 恐れよりも、覚悟の滲んだ声だった。


 俺も背中の剣へ手をやる。


 三人は足音を殺し、森の奥へ進んでいった。


 その時だった。


 ――ゴォォォン……。


 森の奥底から、腹の底まで震わせる低い音が響いた。


 獣の遠吠えではない。


 地鳴りとも違う。


 まるで、巨大な何かがゆっくりと息を吐いたような音。


 三人の足が同時に止まった。


「……聞いたか」


「ああ」


 ガードナーが笑みを消し、弓へ手を伸ばす。


 シャーリスも無言でナイフを抜いた。


 いつの間にか、小鳥の声は消えていた。


 森が、異様な静寂に包まれている。


「行くぞ」


 俺たちは音のした方向へ進んだ。


 沢へ近づくほど、霧が濃くなる。


 五歩先も見えない。


「……待て」


 シャーリスが片手を上げた。


 地面に膝をつき、何かを拾い上げる。


 親指ほどの大きさをした、深い青緑色の鱗。


「鱗か……」


 ガードナーが険しい顔になる。


「こんな色の生き物、この森にはいねぇ」


 周囲を見回す。


 同じ鱗が、いくつも落ちていた。


「この鱗の主が、あの音の正体か……」


 問いかけた、その瞬間。


 ――ゴォォォン……。


 再び低い音が響いた。


 今度は、近い。


「来るぞ」


 ガードナーが矢を番える。


 俺も剣を抜いた。


 そのまま霧の中を進む。


 やがて、沢へ辿り着いた。


 そこで俺たちは、言葉を失った。


 水辺に、一頭の鹿が倒れている。


 食い荒らされた形跡はない。


 だが、その全身は炭のように黒く焼け焦げ、周囲の草木まで一直線に焼き払われていた。


「獣の仕業じゃねぇ……」


 ガードナーの声が震える。


 シャーリスは焼け跡を見つめ、小さく呟いた。


「……逃げ切れなかった」


 その瞬間。


 ――ゴォォォン……。


 霧の奥で、巨大な影が揺らいだ。


 霧ではない。


 何かが、こちらへ近づいている。


 木々を見下ろすほど巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。


 最初に目を奪われたのは、天を突くほど巨大な角。


 幾重にも枝分かれした角が、霧の向こうへ伸びている。


 続いて見えたのは、岩盤を貼り合わせたような青緑色の鱗。


 長大な胴を覆うその鱗の隙間から――。


 無数の目が、こちらを見ていた。


 腹。


 肩。


 背。


 尾。


 まるで全身に目を埋め込んだようだった。


 しかも、その目は一つとして同じ動きをしていない。


 ある目は俺を見ている。


 別の目はガードナーを。


 また別の目はシャーリスを。


 そして尾の付け根にある目だけが、ゆっくりと俺を追っていた。


「グルルルルル……」


 低い唸り声だけで空気が震える。


「……なんだ、こいつ」


 千眼が一歩踏み出した。


 地面が沈み、沢の水面が大きく跳ねる。


 その巨体を見上げながら、俺は呟いた。


「……伝承に残る森の主、《千眼》」


 ガードナーが息を呑む。


「おいおい……伝説じゃなかったのかよ」


「動いてる以上、現実だ」


 俺は剣を構えた。


 隣ではシャーリスが前へ出る。


 ナイフを逆手に持ち替え、腰を落とした。


 千眼の無数の目が蠢く。


 次の瞬間。


 巨木のような尾が、唸りを上げて薙ぎ払われた。


「散れ!」


 三人が同時に飛ぶ。


 だが――。


「ぐっ!」


 ガードナーだけが避け切れなかった。


 尾の先端をまともに受け、身体が木の葉のように吹き飛ぶ。


 何本もの木を折りながら地面を転がった。


「ガードナー!」


「げほっ……心配すんな!」


 木にもたれながら立ち上がる。


「まだ動ける!」


 その瞬間。


「右!」


 シャーリスの鋭い声。


 振り向いた俺の目前へ、巨大な鉤爪が迫っていた。


「っ!」


 身体を投げ出す。


 鉤爪が頭上を掠め、背後の大木を数本まとめて切り裂いた。


 轟音とともに木々が倒れる。


 あれを受けていたら――死んでいた。


 俺の左手が胸元へ伸びる。


 《パッチワーク》。


 起動印を描こうとして――止めた。


 ……まだだ。


 《パッチワーク》も妖精憑依も、最後まで隠しておくべき切り札だ。


 強敵が現れるたびに頼っていては、自分自身の戦い方を失う。


 それに、この化け物はまだ力の全てを見せていない。


 まずは見極める。


 その直後だった。


 千眼が大きく息を吸い込んだ。


 胸の奥にある赤い器官が脈打つ。


 赤い光が、鼓動に合わせて明滅した。


 空気が揺らぐ。


 熱い。


 肌を撫でる風が、一瞬で灼熱へ変わった。


「伏せろ!」


 三人が地面へ飛び込む。


 次の瞬間――。


 赤い閃光が走った。


 轟音すら置き去りにする熱線が、さっきまで俺たちの頭があった場所を薙ぎ払う。


 直径三十センチはある大木が、一瞬で炭化した。


 地面が赤熱し、落ち葉が燃え上がる。


「熱線かよ……!」


 あれに触れれば、人間なんて跡形も残らない。


 だが、熱線を放った直後。


 胸の赤い器官が、鈍く暗くなった。


「今だ!」


 俺は一気に踏み込む。


「次を撃つまで間がある!」


 剣を振り下ろす。


 ――ガキィン!


 甲高い金属音。


 刃は鱗に弾かれ、火花を散らした。


「硬ぇ……!」


 だが、その衝撃で一枚の鱗がめくれた。


 下から、赤く柔らかな肉が覗く。


「そこだ!」


 ガードナーの矢が飛ぶ。


 無数にある目の一つを正確に射抜いた。


「グオオオオンッ!!」


 千眼が苦悶の声を上げる。


「効いてる!」


 俺は横へ回り込み、シャーリスも反対側へ走る。


 だが、千眼の爪が唸った。


 シャーリスは紙一重でかわす。


 それでも一撃が左腕を掠めた。


 鮮血が飛び散る。


 それでも止まらない。


 狙いは脚。


 巨体を支える関節だ。


 その時だった。


「ゴォォォン……」


 千眼が再び息を吸う。


 胸の赤い器官が明るく脈打ち始めた。


 熱線が来る。


 そう思った瞬間――。


 ――ピィィ……ホゥ……。


 澄み切った笛の音が森へ響いた。


 千眼が、ぴたりと止まった。


 怒りに任せて暴れる獣ではない。


 まるで、主人の命令を待つように。


「……笛?」


 俺は息を呑んだ。


 この音。


 どこかで聞いたことがある。


 いや――知っている。


 前世で俺が作ったゲーム。


 そこに登録されていた、魔獣使い用の指揮笛。


 音色まで、酷似している。


「隙ができた!」


 シャーリスの声で我に返る。


 迷う暇はない。


 俺は一気に駆けた。


「左脚、崩せる!」


 シャーリスが滑り込み、脚の関節へナイフを突き立てる。


 刃が腱を断ち切った。


 巨体が大きく揺らぐ。


「目を開けさせねぇ!」


 ガードナーの矢が連続して飛ぶ。


 一射。


 二射。


 三射。


 開こうとした目を次々と射抜いていく。


 千眼の動きが鈍った。


「もらった!」


 俺は跳んだ。


 鱗の隙間へ剣を突き込む。


 狙い違わず、赤く脈打つ器官を貫いた。


「グォオオオオオオッ!!」


 森を揺るがす絶叫。


 胸から白い蒸気が噴き出す。


 千眼は胸を庇うように身を縮め、一歩、また一歩と後退した。


 もう熱線は撃てない。


 そう確信した、その時。


 ――ピィィ……ホゥ……。


 再び笛が鳴った。


 千眼はなおも俺たちへ牙を剥く。


 だが、二度目の音色が響いた瞬間。


 身体を震わせ――踵を返した。


 命令には逆らえないらしい。


 巨体は木々を揺らしながら、森の奥へ消えていった。


「……退いた?」


 シャーリスが呟く。


 だが、誰も追わなかった。


 追えない。


 俺たちは三人とも、肩で荒く息をしていた。


「はぁ……はぁ……流石にきつかったぜ……」


 ガードナーがその場に膝をつく。


 シャーリスの左腕からは血が流れている。


 俺の剣も熱で赤く焼け、刃先から白い湯気を立ち上らせていた。


「……終わった、か」


 そう呟いた時だった。


 シャーリスが足元へ視線を落とした。


「……これ」


 拾い上げたのは、一枚の青緑色の鱗。


 いや。


 周囲には、同じ鱗が何枚も散らばっていた。


「脱皮……?」


 ガードナーが鱗を拾い上げる。


「だから鱗の継ぎ目が脆かったのか」


「そういうことだろうな」


 もし脱皮直後でなければ。


 俺たちの攻撃は、まともに通らなかったかもしれない。


「それより、あの笛だ」


 俺が周囲を見回した。


 その時。


 シャーリスが、一本の樫の木を指差した。


「……あそこ」


 枝が揺れる。


 風はない。


 それなのに。


 木漏れ日の中で、銀色の髪がきらりと光った。


 深く被ったフード。


 手には一本の木笛。


 そして――。


 金色の瞳。


 それだけが、静かに俺たちを見下ろしていた。


「尖った耳……」


 シャーリスが息を呑む。


「まさか……エルフ?」


 次の瞬間。


 ガードナーが反射的に矢を放った。


「待て!」


 制止は間に合わない。


 矢は樫の幹へ突き刺さった。


 だが――。


 もう、そこに人影はなかった。


 風もないのに枝だけが揺れている。


 そして、一枚の葉がひらりと舞い落ちた。


「……消えた」


 足元にも、枝にも、足跡一つ残されていない。


 俺は木々の奥を見つめた。


 あのエルフは、千眼を知っている。


 いや。


 知っているどころか――操っている。


 そして、俺たちを助けたわけでもない。


 逃がしたわけでもない。


 ただ、見ていた。


 値踏みするように。


 あの金色の瞳には、敵意も歓迎もなかった。


 そこにあったのは――。


 俺たちの力を測るような、静かな視線だけだった。


 そして俺には、妙な確信があった。


 ――近いうちに、俺たちはまた、あのエルフと会う。


 そんな気がしてならなかった。

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