4:肆虐……ほしいままに残虐なことをすること
近代技術、それが魔王ゼルの敗因であり怨み。ゼルはあの未来を事前に防ぐために人間の文化を知ろうとしていた。
「雑魚は雑魚でも、群がれば知を使いどんなに敵にも対応する……」
見下していた人間、それが今になって最大の壁になるとは、ゼルも考えてすらいなかった。
「認めざるを得ない、か」
あの日の勇者は魔導技術? とやらを持っていたな。材料は何なのか、その制作方法は? 色々知らなくてはいけないことが多い。ただ面倒が多い分、リターンも多い。今後の勇者一行の討伐をするにあたって楽になる可能性があるからな。
ゼルは森をテレポートで高速移動する。目標は大きな街を見つけ、勇者についての話を聞くこと。
「にしても魔物が全くと言ってもいいほど、いないな」
やはり俺の脅威におびえているのか--。
「っ--いや違う! これは……こいつはッ!」
全身に悪寒が走る。対峙するにも近づけない、重力を操る魔法を持つ魔獣。燼の魔物!
「いくらなんでも、会うのが早いな! 『絶重の過獣:バラルガ』」
1500年前のゼルが初めて敗北した最強の魔獣。
***1500年前
父を失ってから数十年。ゼルは自らのテレポートを光速を超える移動から、空間を断裂させる刃へと昇華させ、その力に絶対の自信を持っていた。向かうところ敵なし。その傲慢さが北方の最果てに棲まう伝説の魔獣『バラルガ』との戦いで打ち砕かれることになる。
遭遇した瞬間、ゼルはいつものように『アドヴァント・エッジ』を放った。しかし、バラルガがその巨大な顎を開き咆哮を上げた瞬間、空間が重く沈んだ。
「何だ……? 斬撃が、届かない!?」
放たれた空間の断裂は、バラルガの数メートル手前で飴細工のようにぐにゃりと下方に曲がり、ただの地面を削った。バラルガの持つ魔核は、周囲の空間そのものを高密度に圧縮し、あらゆる攻撃の軌道をねじ曲げる『絶対重力圏』を展開していたのだ。
焦ったゼルは、バラルガの背後を取るべくテレポートする。だが移動した先に待っていたのは、想像を絶する負荷だった。 空間が歪んでいる場所へのテレポートは、全身が引き裂けそうになるほどだ。
「ガハッ……!? 座標が……ズレて」
出現したのはバラルガの背後ではなく、その足元――最も重力が激しい中心部だった。 立ち上がることすら許されない数十倍の重圧。
「息が……」
肺の中の空気が無理やり押し出され、視界が暗くなっていく。テレポートで逃げようにも、魔法を展開する意識が向かない。
バラルガは動けないゼルを見下ろし、嘲笑うかのようにその巨大な前足を持ち上げた。重力を纏った一撃。
「死ぬ……俺が、こんな……ところで!」
ゼルの体は傷だらけになり、髪は泥と血にまみれた。意識がなくなり、気づいた時ゼルは遠く離れた河原に打ち上げられていた。
「……っ!」
バラルガに、トドメを刺す価値すらないゴミとして見逃されたのだという事実は、死よりも深く彼のプライドを傷つけた。
***
「……ハ、ハハハ! まさかこんなところで再会するとはな」
ゼルの笑いは震えていた。だがそれは恐怖ではない。心の奥底で凍りついていた1500年前の屈辱が、今目の前にいるという歓喜の震え。
巨大な岩で出来ているドラゴン型の獣、バラルガ。その周囲では、雨粒さえも地面に叩きつけられる前に消失し、不自然なほど重い静寂が支配している。
「バラルガ……。俺は、お前より遥かに不愉快な状況を何度も見てきたんだ」
未来の勇者どもが使っていたシステム。人類による魔物殲滅計画。仲間の死。
「だが新技は使わん! あの日、お前に敗北した斬撃だけでお前を殺す」
ゼルはあえてバラルガの『絶対重力圏』へと一歩を踏み出した。
「ふっ!」
ミシミシと骨が鳴る。内臓がせり上がり、地面にひれ伏せそうになる。だが、ゼルは笑っていた。
「重力による空間の湾曲……。未来の演算に比べれば、ただの自然現象だ。予測できないはずがない」
バラルガが咆哮を上げる。かつて自分を塵のように扱った前足が、空を裂いて振り下ろされる。 避ければいい。だが、ゼルは動かない。
「『アドヴァント・カスケート――ディレイ・アジャスト』」
ずっとだ。斬撃だけでお前を殺す方法を。お前のその『絶対重力圏』を破る方法を! ただひたすら考え続けた。悔しさのあまり100年もな!
「褒めようではないか。お前ほど記憶に残るものはない! これは俺からのプレゼントだ!」
ゼルから放たれた斬撃はすべて対象とは違う方向に向かった。
俺が思うに、『絶対重力圏』は常時発動。いちいち切り替えをしていれば、その大きな図体を守れないからな。それなら元から斬撃を湾曲するであろう方向へ放てば良い。それが、ディレイ・アジャスト。
「直撃――だが、浅いか!」
湾曲した紫の斬撃『ディレイ・アジャスト』がバラルガの硬い岩肌を断ち切る。凄まじい火花と轟音が森に響き渡るが、その奥にあるはずの核が見えない。岩の層が厚すぎる。かつて一度敗北した時よりも、その防壁は固く感じられた。
「なら、剥き出しにしてやるまでだ!」
ゼルは距離を取る。接近戦は重力の餌食。テレポートで位置を変えながら、ディレイ・アジャストを放ち続ける。対するバラルガは咆哮とともにその巨体を震わせた。見上げるような巨大な木が、まるで根っこに意志が宿ったかのように次々と引き抜かれ、ゼルの元へと飛来する。
「ほう、投擲か。芸がないな」
空中を舞う木をテレポートで回避しつつ、ゼルは走り続ける。走る、跳ぶ、放つ。1500年後の未来で、ザコ敵と嘲笑われたあの斬撃。だが今のゼルが放つそれは、未来の絶望を知るがゆえの本気が宿っていた。
「……ッ、くるか!」
バラルガの動きが変わった。奴は悟ったのだ。このままでは削り殺されると。バラルガの背中を覆っていた巨大な岩の翼が、重い音を立てて剥がれ落ちる。自ら重量を捨て、軽量化を図ったのだ。
それだけではない。辺りを支配していた『絶対重力圏』が、ふっと解除された。
「重力を解いた――?」
次の瞬間、ゼルの視界からバラルガの巨体が消えた。
「速い――!」
バラルガの姿は、すでにゼルの目の前にあった。それはドラゴン型ではなく、人型の魔獣へと変貌していた。
湾曲をやめて、お前と俺の間の空間を圧縮したのか! 磁石が引き合うような超高速移動を実現したわけだ。
「ぐっ……!」
近接戦闘が始まる。 ゼルの空間断裂と、バラルガの重力を纏った思い拳。最初は互角、いや、技術に勝るゼルが押し気味に見えた。だが違和感がゼルの体を巡る。
「……なぜ、体が勝手に--」
バラルガが拳を振り抜く。本来なら躱せるタイミング。だがゼルの顔が拳に吸い寄せられるように、自らバラルガの拳へと接近した。
「ガハッ……!」
強烈な一撃。ゼルは咄嗟にテレポートで距離を取ったが、口内からは血の味が広がり、右頬には青黒い痣が出来た。
「……本っ当に……不愉快だ」
ゼルは親指で口元の血を拭う。目の前の魔獣。そして、自分を嘲笑った未来の勇者たち。過去のトラウマと未来の屈辱。二つがゼルの脳内で混ざり合い、静かな怒りが爆発した。
「褒めてやる。お前は確かに強い。だがなバラルガ……。俺はお前が憎い。お前を見ると殺意が心の奥底から溢れ出てくる」
ゼルの全身から、これまでの閃光とは一線を画す、禍々しい黒紫の閃光が音を立てる。
「見せてやる。これがお前が殺し損ねた男の真の姿
--『肆虐態・ラドウィドル』」
ゼルの肉体から出た真紫色の何かが、ピタッと彼の全身を覆う。それは自身が取っておいた最大で最高の切り札。魔王の第二形態。
「第二ラウンドだ。始めようか」
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