Ep13: 【重力魔法か氷魔法か】
ゼルの命が下るや否や、バラルガの姿がブレた。バラルガが指を弾く。瞬間、泥の中から飛び出してきた数匹の巨大なカエル型魔物――『マッド・トード』たちの動きが、空中でピタリと静止した。
「ゲコ……ッ!?」
「『重力歪曲』」
バラルガが手首を捻る動作に合わせて、カエルたちの身体がグニャリとあり得ない方向にねじれた。魔物たちは圧縮された肉団子となって湿地に沈んでいく。
「……ふん、地味ね」
リナは腕を組み言った。確かに一撃必殺だが、ゼルのような派手な破壊力や、ヴォルグのような圧倒的な熱量はない。
「重力魔法って言っても、その程度? そんなの、動きが速い相手なら避けられ――」
リナの言葉が途切れる。バラルガの背後。泥の色に同化していた、親玉と思われるサイズのトードが、音もなく跳躍していたのだ。
「危ないッ!!」
リナが叫ぶ。 だが、バラルガは振り返りもしない。ただ、低い声で言の葉を紡ぐ。
「――『絶対重力圏』」
ドォォォォォンッ!!
バラルガを中心とした半径5メートル。その空間にある"全て"が、強制的に地面へと叩きつけられたのだ。
「ゲ、ゴァッ……!?」
親玉ガエルは地面にめり込み、眼球が飛び出そうになっている。それだけではない。バラルガに向かって飛んでいた泥、水滴までもが、バラルガに触れる直前で空中に静止し、次の瞬間に真下へと墜落した。
「……汚らわしい。主の前で泥を跳ねさせるとは」
バラルガは無傷。泥汚れ一つコートには付着していない。彼は悠然と空を見上げ、右手を天に掲げた。
「塵は塵に。潰れろ」
ズズズズズ……ッ!
瞬く間に生成されたのは、直径3メートルを超える岩の塊。
「『岩塊墜落』」
バラルガが腕を振り下ろす。巨大な岩が、地面に張り付けにされているマッド・トードへ、容赦なく落下した。
ドォーン。
破壊音と共に、湿地の一角が更地へと変わる。
「……ふぅ。少々乱暴でしたが、こんなものでしょう」
バラルガが涼しい顔で振り返る。
リナは口を半開きにしていたが、すぐにハッとして表情を引き締めた。
「ふ、ふんっ! ま、まぁ……重力魔法と土魔法の複合? 器用なことするじゃない。魔法を二つ同時に制御するなんて、まあまあやるわね」
悔し紛れにそっぽを向くが、内心では冷や汗をかいていた。
何よアレ……。重力で拘束して、物理で潰す? そんなこと出来るの!?
「お褒めに預かり光栄ですよ、リナ殿。……しかし」
バラルガが街で買った黒靴を見下ろし、顔をしかめた。
「この湿地、ほんとに歩きにくい。足を取られては速度も落ちますね」
その言葉に、リナの心臓が跳ねた。脳裏に、先ほどのゼルの言葉が蘇る。『足手まといを連れていく趣味はない』
ヤバい……! 案内役は出来ないし、得意の戦闘は終わっちゃったし、このまま泥に足を取られて遅れたら、本当に置いていかれる!
リナは焦った。自分の価値を示さなければならない。彼らにとって有益な存在であることを証明し続けなければ。
「……どいて」
「はい?」
「だからどいてって。水くらい、私の魔法ならどうにかできるわよ!」
リナは短剣を水面に突き立てた。魔力を使い繊細に氷の平面を作る。
リナの足元から、凄まじい勢いで冷気が走り始める。水がパキパキと音を立てて、泥水が瞬時に凍結し、白く一本の道が、霧の向こうまで一直線に伸びていった。
「はぁ、はぁ……っ! ど、どうよ!」
リナは荒い息を吐きながら、ドヤ顔で振り返る。ゼルは少し驚いたように眉を上げ、ほう、と呟いた。
「悪くない。泥道を歩くよりはマシだ」
「でしょ!? 感謝しなさいよね!」
ゼルが氷の上を歩き出す。カツカツといい音が響き、歩きやすそうだ。リナもまた氷の上をアイススケートのように滑るように進む。
「ふふーん! さあ行くわよ、遅れないでよね!」
リナが軽やかに滑っていく。その後ろで。
「お、おっと……ぬおっ!?」
ドテンッと盛大な音が響いた。リナが振り返ると、バラルガが氷の上で豪快に尻餅をついていた。
「な、なんだこの床は! 滑りすぎる! 主、これは難しいでごまいます!」
「……バラルガ。お前、氷の上を歩けないのか?」
「い、いえ。歩けないというより、歩きずらい……ぬおおっ!」
立ち上がろうとして、再びツルリと滑って転ぶバラルガ。氷の上では産まれたての子鹿のように震えている。
「ぷっ……あははは! 何よそれ、ダッサ!」
リナが指を差して笑う。 ゼルもまた、呆れつつも口角は上がっていた。
ほんの少しだけ、奇妙な連帯感が生まれた瞬間だった。
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