表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/71

Ep14: 【勇者パーティーは使えない】

 大陸の中央に位置し、人類の繁栄を象徴する巨大都市――王都シンフォニア。城壁に囲まれ、いくつもの尖塔が空を突き刺すこの街は、今日も活気に満ち溢れていた。


「見ろ! 勇者レイド様だ!」

「キャーッ! レイド様ーっ! こっち向いてー!」


群衆の熱気がすぐそこまで届く。呼び声が一斉に上がる。

「レ、レイド様だ!」

金色の鎧を纏った青年が行列の先頭にいた。厚い金髪が陽光を受けて輝き、屈託のない笑みを民衆へと向ける。


 クソッ……


レイド・ヴァン・アストリアは、眩しい視線を受け流すように短く息を吐いた。


「みんな、……ありがとう」

涼しげな笑顔の裏で、彼の胸中は波打っていた。


 皮肉だ。歓声を浴びているのに、肝心の力は停滞したまま。


彼は手を振り返した。鼓膜が押し潰されそうな熱狂の中で、レイドの心はただ一言を呟く――「自分の名声なんか、こんなものか」と。


 ……どいつもこいつも、俺の力に興味がないくせに肩書きだけに群がりやがって。


彼は苛立っていた。Aランク冒険者として認定され、『勇者』の称号を得て早一年。名声は手に入れた。金も、女も、地位も。だが肝心の力が停滞している。ここ数ヶ月、レベルが上がっていないのだ。


「レ、レイド様、そろそろお時間です。国王陛下からの依頼、北の『奈落(アビス)洞窟(ホール)』の件ですが……」


後ろから声をかけたのは少女、エリア。治癒魔法のエキスパートである『聖女』だが、レイドを見る目はどこか怯えている。


「わかっている。……行くぞ、お前たち。今日こそ、あの燼の首を獲る」


レイドが振り返ると、そこにはエリアの他に二人の仲間がいた。巨漢の重戦士ガンツ。そして眼鏡をかけた線の細い魔術師、マイト。彼らこそが現時点、ゼルが初期の頃の初めて対峙した勇者である。


「お、おいレイド……本当にあそこに行くのか? ギルドの調査でも『討伐不可能』って判定が出てたはずじゃ……」


マイトが弱気な声を上げる。


「不可能?」

レイドは鼻で笑った。

「俺は勇者。聖剣に選ばれた男だ。民が恐れる魔物ごとき、俺の踏み台に過ぎない」


自信ではない。今の停滞を打破するには、強大な経験が必要だ。そのためなら、多少のリスクなど無視できる。


「準備しろ、すぐに出発する」


    

***



 王都から北に進み、地下深くに広がる『奈落(アビス)洞窟(ホール)』。その場所は、陽の光が届かない死の世界とも呼ばれている。


湿った冷気が肌を刺し、遠くで正体不明の唸り声が聞こえてくる。一行は松明の灯りを頼りに深層へと進むんでいた。


「……暗いな。おいマイト、魔力探知になにか引っかからないのか」

「い、いや、これ以上魔力を使うと、戦闘用の魔力が……」


レイドが大きく舌打ちし、ギロリとマイズへ視線を向けた。マイズは肩をすくめ、無言で魔力探知に多くの魔力を割いた。魔力探知用のブレスレットの宝石が、より光りだす。


道中、現れる魔物は強力なものばかりだった。鋼鉄の皮膚を持つリザードマン、猛毒を撒き散らす巨大蜘蛛。だが、それらはレイドの一太刀で沈んでいた。


「『スターシャイン・フラッシュ』!」

暗闇を一閃する光の刃。襲いかかってきたリザードマンの首が飛び、緑色の血を撒き散らして絶命する。


「ふん、雑魚ばかり。……おいガンツ今の攻撃、反応が遅かった。タンクならもっと前に出たほうがいい」


「す、すまねぇレイド。足元が悪くてよ……」


「エリア、俺の腕から血が出てる。早く治せ」


「は、はいっ! すぐに!」


レイドは満足そうに洞窟の岩に座った。


戦闘が終わるたび、レイドの叱責が飛ぶ。彼の剣技は確かに天才的だ。ステータスも桁外れ。だが、彼はパーティプレイをしていない。自分が気持ちよくなるためだけに、彼らを利用していた。


そして、彼らは辿り着いた。洞窟の最深部。広大な地下ドームのような空間。その中央に巨大な影が鎮座していた。


「……いたか」


レイドがニヤリと笑う。伝説の魔物、『アダマン・ガーディアン』。全身が漆黒の超硬金属で構成された、全高十メートルを超える人型のゴーレム。古代の王の魔力が漏れ出ていたことが原因で作り出されたと言われている。


「グルルルルゥゥゥゥ……」

ガーディアンがゆっくりと立ち上がる。その動作だけで大気が震え、地面が揺れた。


「ひっ……で、デカ……!」

マイトが後ずさる。

「こんなの、魔法が通じるわけない! 叡でも時間がかかる僕らがいきなりこんな……」


「弱音を吐くな! 俺が斬る! お前らは隙を作れ!」


レイドは叫び、床を蹴った。速い。勇者の名に恥じぬ神速の踏み込み。聖剣アスカロンが眩い光を帯びる。


「砕け散れェッ! 『ストリング・スーパー・フラッシュ』ッ!!」

必殺の一撃。光の奔流がガーディアンの胴体を捉えた。普通の魔物なら消滅している威力。ドラゴンですら致命傷を負うはずの一撃。


キイーンと鼓膜をつんざく金属音。火花が散り、光が霧散する。


「……な?」


レイドの目が驚愕に見開かれた。 聖剣は、ガーディアンの装甲に浅い傷すらつけられなかった。斬れない。硬すぎる。


「ゴォォォォォォッ!!」

丸太のように太い腕が、暴風を纏って薙ぎ払われる。


「くっ!?」

レイドは咄嗟に剣で防御するが、重すぎる衝撃に吹き飛ばされた。


「がはっ……!?」

壁に叩きつけられるレイド。

「レイド! 今助ける! うおおおおっ!」


重戦士ガンツが盾を構えて突進し、ガーディアンの足止めに入ろうとする。だが、質量差がありすぎる。  ガーディアンはガンツのタックルを意に介さず、そのまま踏み潰そうと足を上げた。


「マイト! 援護だ! 最大火力だ!」

レイドが叫ぶ。


「わ、わかってる! 『爆炎(フレイム)(ジャベリン)』!」


マイズの杖から炎の槍が放たれる。しかし、それはガーディアンの表面を覆う魔力障壁に触れた瞬間、ジュッと音を立てて消滅してしまった。


「嘘だろ……!? 中級の魔法じゃ傷一つつかないなんて!」


「バカ野郎! もっと強い魔法を使え!」


「む、無理だよ! 今のあの魔力量じゃあれが限界だ!」

絶望的な相性差。物理は通じず、魔法も弾かれる。ガーディアンが腕を振り上げ、地面を叩く。衝撃波が洞窟内を駆け巡り、天井から鍾乳石が雨のように降り注ぐ。


「きゃぁぁっ!」

聖女エリアが悲鳴を上げて転倒する。


「エリア! チッ、足手まといが!」

レイドは舌打ちしながら、再びガーディアンに斬りかかった。何度も、何度も。聖剣の輝きが闇を切り裂くが、その度に少し傷がつくだけ。逆に、レイドの息が上がり始める。


 硬い……硬すぎる! なんだコイツは!? 回復能力もあるのか!


さっき傷つけたはずの装甲が、見る見るうちに塞がっていく。 これこそがアダマン・ガーディアンが討伐不可能と言われる所以。半端な火力では、再生速度を上回れないのだ。


「レイド! もう無理だ! 撤退しよう!」

ガンツが叫ぶ。彼の自慢の盾は、すでにひしゃげて使い物にならなくなっている。


「ふざけるな! 勇者が逃げられるか!」


「でも、このままじゃ全滅する! マイズの魔力も空だ!」

レイドはギリリと奥歯を噛み締めた。認めたくない。だが、現実は残酷だ。アスカロンの刃がわずかに刃こぼれしているのが見えた。


「……クソッ! クソッ、クソッ!!」

レイドは懐から閃光玉を取り出し、地面に叩きつけた。


「退くぞ!」


カッッッ!!! 強烈な閃光が洞窟内を白く染める。 ガーディアンの動きが一瞬止まった隙に、勇者一行は無様に背を向け、出口へと走った。背後から迫る重低音の足音に怯えながら、ただひたすらに。



***



 「ふざけるなッ!!」

王都の宿屋の一室。レイドの怒号と共に、木製のテーブルが蹴り飛ばされた。


「あいつの……あのデクの棒のせいで! 俺の剣に傷がついただろうが!」

レイドは髪を振り乱し、荒い息を吐いていた。部屋の隅では、ガンツ、マイズ、エリアの三人が小さくなっている。泥だらけで、傷だらけの彼らに対し、レイドの言葉に労いはない。


「おいマイト! お前だ、一番の戦犯は!」


「ひっ……!」

レイドがマイトの胸倉を掴み上げる。


「なんだあの貧弱な魔法は! 花火か? 遊びじゃないんだぞ!」


「ご、ごめん……でも、相手の魔法防御が高すぎて……」


「言い訳をするな! 相手が硬いなら、それを貫くのが魔法使いの役目だろうが! お前の火力が足りないせいで、俺が危険を冒して接近戦をする羽目になったんだ!」

理不尽な八つ当たり。だが、誰も言い返せない。彼の機嫌を損ねればパーティを追放されるという恐怖があるからだ。


「ガンツ! お前もだ! 盾が壊れた? 身体で止めろよ! 何のためにその無駄な筋肉をつけてるんだ!」


「す、すまん……」


「そしてエリア! 回復が遅い! 俺が指示する前に察して動け!」


「は、はい……申し訳ありません……」

レイドはマイズを突き放し、ソファにドカッと座り込んだ。苛立ちが収まらない。今日の敗走はすぐに噂になるだろう。


「勇者一行、洞窟から逃げ帰る」と。そんなのプライドが許さない。


 ……このメンバーじゃ限界だ。


レイドは冷ややかな目で仲間たちを見た。こいつらは凡人だ。俺という天才に釣り合っていない。特に魔法使い。今の戦闘で痛感した。あのガーディアンのような理不尽な敵を倒すには、ちまちました小細工はいらない。一撃ですべてを消し飛ばすような、圧倒的な火力が必要だ。


 もっと強い魔法使い……。俺の命令通りに動き、敵を殲滅できる破壊力を持った奴……。


ふとレイドはギルドで小耳に挟んだ噂を思い出した。最近、辺境の街で名を馳せていたという魔法使いの話。『氷の天才』 『最年少でBランクを取得した』 『その実力は王宮の魔術師をも凌駕する』。


「……リナ、だったか」

レイドは呟いた。噂半分だとしても、今の役立たずよりはマシだろう。もしその力が本物なら、俺のパーティに迎えてやってもいい。勇者パーティへの勧誘だ。断る馬鹿はいない。


「……決めたぞ」


レイドは顔を上げ、歪んだ笑みを浮かべた。その瞳には、仲間への信頼など微塵もなく、ただ自分の欲望を満たすための道具を探す光だけが宿っていた。


「戦力増強だ。今のままじゃ話にならん。……新しいメンバーを探す。待っていろよ……この俺のもんにしてやるからな」


勇者の独り言は、誰にも聞かれることなく夜の闇に消えていった。彼らが交わる時、それは新たな波乱の幕開けとなることを、まだ誰も知らない。

下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします! 面白いと感じたなら5つ、つまらなかったな〜と思ったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です! ブックマークもしていただけると、めっちゃうれしいです!


よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ