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Ep12: 【ゼルはSランク冒険者に勝てない】

 「……ん、ぅ……」

リナの意識が浮上する。ふわりとしたベッドの感触――


 気持ちがいい……。


ではなく、ゴツゴツとした肩のような硬い感触と土の匂い。頬に当たる冷たい夜風に、リナはパチリと目を開けた。


「――っ!? どこぉぉッ!?」

飛び起きようとして、リナは自分が誰かに担がれていることに気づいた。


「おや、目覚めましたか。もう少し静かに寝ていれば、捨てずに運んでやったものを」

「え、ってことは、私……え、森!?」


リナは慌ててバラルガの肩から飛び降りた。足元はぬかるんだ腐葉土。完全なる未開の地。


「ちょ、ちょっと! どうなってるの!? 気絶してから何が……」

「うるさいぞ小娘」


リナがハッとして振り向くと、巨大な樹の根に腰掛け、地図らしき羊皮紙を広げているゼルの姿があった。


「ゼル……というかいい加減小娘は止めてよね! 私の名前はリナ・フォルトーゼ!」

「そうか、だが目が覚めたなら、とっとと消えろ。ここから南へ下れば街道に出る。運が良ければ数日で街へ戻れるだろう」


ゼルのその態度にリナはキレ気味に言い放つ。

「え……戻れって、置いていく気!? あとさ、言ったじゃんあなたのことを教えてくれるって!」

「……俺たちはこれから王都へ向かう。足手まといを連れていく趣味はない。戦いの後に寝てしまったのが運の尽きだったな」

王都。ゼルは、あの街で救出した村人たちから情報を聞き出していた。この大陸の中心に位置し、多くの魔術師や冒険者が集まる場所。そこになら人間の対魔の技術があるかもしれない。


「全力でやったんだから、気絶しちゃうのはしゃーないじゃない! それに王都って……ここから何百キロあると思ってるのよ! それに、なんで歩いてるの? あなたのあの魔法なら一瞬で……」


「……」


ゼルの眉がピクリと動く。


 ……体が重いんだよ……。


小さくため息を付いた。ヴォルグとの戦いで見せた『開門』の連発。あれは行使していい魔法ではない。例えるなら、絵の具がないパレットから絵を書こうとするようなもの。――『肆虐態』であれば、呼吸をするように扱える技だが、通常で使うと精度も疲労も桁違いだ。


故に、徒歩。身体を休めるための時間が必要だったのだ。


「……散歩だ」


「は?」


「たまにはこういうのも、悪くないと思っただけだ。貴様の指図は受けん」


「帰るなら今のうちだぞ。この先は、お前のようなひよっこが足を踏み入れれば、骨も残らん魔境だ」


 リナ、この小娘は尻尾を巻いて逃げるようなタマか、異常な執着を持つ真の努力家か……。


「……帰らない」

なんとなくわかっていた、その予想通りの答えが聞こえた。ゼルは歩を止めずに、口元だけでニヤリと笑う。


「待ってよ! 私、王都への道なら詳しいから! ガイド役くらいにはなるでしょ!?」

ドタバタと駆け寄ってくる足音。


「……ガイド役、か。それはもうバラルガに任せてある」


「はい、承っております……」


 はぁ……。コイツ……。

不敵な笑みを浮かべるバラルガにリナは少し腹を立てた。

「ねえ! というかバラルガとかいうお前は、ゼルくらい強いの?」


 コイツ、戦いもろくに見なかった。見たのはゼルの後処理……住民の最終安全とかワイバーンを集めてたりとか……。


「私、ですか? 主には敵いませんよ! ……後、最低でもあなたよりは強いですよ?」


「ハァ〜? お前が? ありえないんだけど、そういうのは戦闘見してもらってからよ!」


ゼルが口を開いた。

「お前らうるさいぞ……」


「ご、ごめん。でもさ、ゼルはどう思うわけ? コイツと旅してて足手まといだとか」


「まあ小娘聞け。お前の言う通りコイツは……弱い」


「主!?」

「ほーら言われてやんの! アンタ認められてないのよ」


ゼルの冷徹な声が響いた。

「ただしだ。バラルガは俺を肆虐態まで追い込んだ……。俺は少なくともコイツを足手まといだとは認識していない。力を例えるなら……Sランク冒険者ほどの――」


「――!! 盛ってるわ、ゼル。あなたは本当のSランクを知らない! だからそんなことが言えるんだわ。Sランクは伝説。あなたでも太刀打ちできないはずよ! 次元が違うの」

彼ら一行は森の奥深くへと進んでいく。次第に、足元の土がジュブジュブと音を立て始めた。


「さあな。Sランクの力など興味はない」


木々の密度が減り、代わりに背の高い草や、腐った水の匂いが漂ってくる。


「ね、ねえ……なんか、匂い……」

「湿地帯です。ここを抜ければ一段落ですよ」


バラルガが視線を上げた先。そこには白い霧が立ち込めた広大な湿地が広がっていた。美しいようで底知れぬ気配を漂わせる静かな沼地。


「ね、ねえ……!」

リナは広大な湿地を指さした。


「あそこに、なんか……いる?」


一歩前に出てバラルガは目を細めた。

「魔物が一匹……いや大量にいますね。さあ片付けてまいりましょうか主?」


ゼルは口角を上げた。

「暴れてこい。見せつけろ。お前の力を」

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