5-31 決意表明
大地の力……って、まさかこいつも、ノーム様の力が使えるってのかよ!?
一体、どういう事だ。そもそもこのおっさん、ウンディーネの信者じゃなかったのか?
それがどうしてノーム様の力を……。
「さて、何か策があったようだが、どうやら見る間もなく終わらせられそうだな」
「くっ……おい! さすがにノームの力を使うのは無理があるだろ! 契約してんのは俺だぞ!」
「ふん。お前、あれらがたった1人に操を立てる、貞淑な存在だとでも思っていたのか。くくっ、ウブすぎて笑うぞ」
「む、ムカつく……!」
まさかのノーム様ビッチ説を唱えてきたこの変態野郎を生かしておくわけにはいかない。
命までは取らずとも全身の骨を折るくらいの事はしておくべきだ。
陽花に武道を教えてる先生も言っていた。『意見がぶつかったら折れ』と。
こいつとは意見が全く合わんし、会話もできないんだからかなり強めに当たっとくべきだろう。
「ふんっ!!」
相変わらずのめちゃくちゃに速いハイキックが飛んでくる。躱す事もできず、ガイア・ノーツの柄で辛うじて防御するも、蹴りに体が押されてしまう。
どうにか体勢は崩さず耐えたが、それ1発で終わらず、今度は逆サイドからの蹴りが飛んできた。
モロに側頭部を捉えられ、またも体が空中で回転させられる。
二度目の顔面着地。首が折れるかと思うくらいの衝撃だ。
やべえぞ、これ。ノーム様の硬化があっても、一瞬で頭蓋骨が砕けないくらいの効果しかねえ。
こっちは弱い分、能力に頼るしかないってのに、その能力も同じもんをぶつけられたらあとはもうフィジカルでの戦いになる。
そうなったら絶対に勝てない。ネプテューヌみたいな一発逆転の手段もなく、殴り殺されて終わりそうだ。
やっぱ今からでもタイム掛けて女子ズを連れてきた方がいいかもしれない。おっさんの股間は、マントとかで隠してもらうとして……。
って、それで納得するわきゃねーよな……。
「地を舐めるのがお前の策か? 立て。立って戦ってみせろ」
「マジ……よお……! こっちは喧嘩もした事ねえってのに……」
這いつくばる俺の前に、おっさんが仁王立ちしている。
くそ、こいつ本当に、そっちの気とかないんだろうな!?
どう考えても見せつけてるとしか思えねえんだけど!
ぶらぶら揺れるボールがクソ憎たらしい。
手の中のガイア・ノーツを握り締める。言われっぱなしだと思うなよ……!
「く、そがぁっ!!」
頭を狙い、片手で思いきり振り抜く! ……も、軽々と躱され、しかも上手く握っていられずにすっぽ抜けてしまった。
おっさんの背後に回転しながら飛んでいくガイア・ノーツを絶望的な思いで見送りながら、おっさんの勝ち誇った笑い声を聞いていた。
「まったく無様だ。何故、ウンディーネ様はお前のような者を選んだ? 偶然だとすれば、ウンディーネ様にとって不幸な事だ」
「不幸……? ああ、そうかもな……。こっちはいきなりトイレも風呂も消えて、小うるさい同居人が増えて、しかもダンジョン攻略しなきゃ死ぬと来てる……」
「力を奪われ、記憶を奪われ、おまけにこのような弱者と運命を共にする事になる。これを不幸と言わず何と言う」
「どうだろうな……。案外あいつは幸せ感じてたかもしれねえ……。俺は別にどっちだっていいけど、今あいつがああなのは、どうも俺のせいっぽいし、それに……託されたからな」
「……託された? 何にだ」
「それを答える前に、後ろ、気を付けたほうがいいぜ」
俺が指さした方――ガイア・ノーツが回転しながら戻ってきた方へ、おっさんが振り向いた。
手を突き出し、ガイア・ノーツを受け止める。
俺以外には重いのかすぐに手放したそれは、ゴトリ、と音を立てて地面に落ちた。
くそ、嫌になるよホント。
「何だ? これがお前のさっぐっ……!?」
「直に蹴るのは遠慮願いたかったんだぜ……!」
俺の脛が、おっさんの股間にめり込んでいる。
パクパクと酸素の足りない魚のように口を動かして、おっさんはフラフラと歩き、崩折れた。
これが俺の秘策だ。さすがにこれも通用しないんなら、死を覚悟したんだけどな。
「うえ……硬化してても感触が伝わるんだな……。妙に硬かったぞ、アレ」
ビクビク痙攣してから動かなくなるおっさんを見下ろす。
さて、何かで縛っといた方がいいよな。とりあえずマントを剥いで、腕と足首を縛っておく。
これじゃすぐに抜けられそうだけど、時間稼ぎにはなりそうだ。
「悪いな。おっさんの子孫繁栄の邪魔するみたいだけど、俺もこんな所で負けてられねーんだ。託されたからな、前のウンディーネに。あいつがどう思ってようと、俺はあいつと運命共同体なわけだよ」
どうせ聞いちゃいないだろうけど、言うだけ言ってやった。
これは俺の決意表明みたいなもんだ。
あいつの常にぐーたらしてる所は腹立つし、たまにケツのひとつでも蹴ってやりたくなるけど、それでも何ていうか、大切な存在なんだ。
好きとかそういうのでもなく、一種の責任みたいなもんかもしれない。
「じゃあな。もう追ってくんなよ」
俺は体を引きずり、その場を後にした。




