5-32 逃げちゃ駄目だ
「俺、相当カッコよかった自信あるんだけど」
「え、ええ。そう、ですね。強敵にたった1人で挑まれたのは、紛れもなく格好いい所業だと思います」
「いや聞いてくれよ。こう、な。ガイア・ノーツ投げて戻ってきたのを囮にして、股――」
「あ! す、すみません、曽良さん。そのお話はまた今度という事で……」
「え、そうか。じゃあ陽花、あのな」
「センパイはデリカシーの意味を調べてから話しかけてほしいっす」
「ええ……」
陽花にまで言われてしまった。
ショックを受けながら、なんとか歩を前に進める。
体力がかなりヤバい。骨にヒビが入ってるのか、あばらがズキズキと痛いし、筋肉も悲鳴を上げている。
あとどんだけ前に進めば、ボスまで辿り着けるんだ。いやそれ以前に、このコンディションで果たして勝てるんだろうか。
一筋縄じゃいかないダンジョンだとはわかっていた。けど、心のどこかで、他のエクスプローラーと違う力さえあればなんとかなるかもとは思ってた。
大甘だったよ、まったく……。
真琴の肩を借り、足を引きずりながら歩いていると、ポツリと真琴が呟いた
「曽良さん。ここまで付き合ってもらっておいて、何ですが……。ここで別れませんか」
「おいおい、何でまた」
唐突な言葉に困惑してしまう。
俺の武勇伝披露がよほど癇に障ったんだろうか。
だがどうも、そういうわけでもなさそうだった。
「私のせいで、曽良さんも陽花も傷付いている。もうこれ以上、見ていられません」
「そりゃ、弱くてすまんかったな」
「そういう事じゃ……!」
「陽花、お前どうする? 帰りたいか?」
「えー、やっとノってきたとこっすよ」
「遊びじゃないんだ。2人とも死ぬかもしれないんだぞ」
真琴が声を荒げる。
ビリビリと骨に響いて痛む。俺が顔をしかめると、真琴は慌てたように気遣ってくれた。
「と、とにかく、ここからは私1人で進みます。せめて2人は、入り口まで戻ってください。ノームとの契約も、私が引き継ぎますから」
ノーム様はますます俺の背にしがみついてきた。
契約を引き継ぐなんて事ができるのかはともかく、ノーム様自身は俺と離れたくないらしい。
それを見た真琴は、ますます歯痒そうな顔をする。
「私は、もう誰も失いたくないんです」
真琴が歩みを止めたので、俺も止まらざるを得なかった。
彼女は冗談で言っているようではなさそうだ。その顔は懇願するように歪んでいる。
そりゃ俺だって死にたくはない。ここで帰って全てが解決して、いつも通りの日常に戻れるんならそうしたい。
けど、そうはならない。
真琴の家族の問題だけじゃない。俺にだって、このダンジョンに挑まなきゃならない理由ができた。
絶対にウンディーネを救い出す。そのために、血の小便垂れ流してでもここを攻略しなきゃなんねえ。
だから今更、死ぬかもしれないからとケツ捲って逃げちゃいけないんだ。
「真琴、悪いな。さすがにこっから戻るのは骨だ」
「……本当に、命を落とす事になりますよ」
「もうその脅しも効かねえな。こっちだってえげつない奴らと戦ってきてんだ。心配すんなって、俺も陽花も、やっぱやめたはねえよ。なあ、陽花」
「うっす! 大丈夫っすよ、マコ。センパイこう見えてめっちゃ頑丈なんすよ。ね、センパイ?」
「おう。でもあんまギュッとしないでくれ。実はさっきからめちゃめちゃ骨に来てる」
いつも通りの馬鹿話で笑い合う俺達に、とうとう真琴は折れたようだ。
短くため息をついてから、再び歩き始めた。俺も陽花も、同じ歩調でゆっくりと歩いていく。
「ありがとう」
小さく掠れた声でそう呟き、真琴が目元を拭った。




