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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
97/112

5-32 逃げちゃ駄目だ

「俺、相当カッコよかった自信あるんだけど」

「え、ええ。そう、ですね。強敵にたった1人で挑まれたのは、紛れもなく格好いい所業だと思います」

「いや聞いてくれよ。こう、な。ガイア・ノーツ投げて戻ってきたのを囮にして、股――」

「あ! す、すみません、曽良さん。そのお話はまた今度という事で……」

「え、そうか。じゃあ陽花、あのな」

「センパイはデリカシーの意味を調べてから話しかけてほしいっす」

「ええ……」


 陽花にまで言われてしまった。

 ショックを受けながら、なんとか歩を前に進める。

 体力がかなりヤバい。骨にヒビが入ってるのか、あばらがズキズキと痛いし、筋肉も悲鳴を上げている。

 あとどんだけ前に進めば、ボスまで辿り着けるんだ。いやそれ以前に、このコンディションで果たして勝てるんだろうか。

 一筋縄じゃいかないダンジョンだとはわかっていた。けど、心のどこかで、他のエクスプローラーと違う力さえあればなんとかなるかもとは思ってた。

 大甘だったよ、まったく……。

 真琴の肩を借り、足を引きずりながら歩いていると、ポツリと真琴が呟いた


「曽良さん。ここまで付き合ってもらっておいて、何ですが……。ここで別れませんか」

「おいおい、何でまた」


 唐突な言葉に困惑してしまう。

 俺の武勇伝披露がよほど癇に障ったんだろうか。

 だがどうも、そういうわけでもなさそうだった。


「私のせいで、曽良さんも陽花も傷付いている。もうこれ以上、見ていられません」

「そりゃ、弱くてすまんかったな」

「そういう事じゃ……!」

「陽花、お前どうする? 帰りたいか?」

「えー、やっとノってきたとこっすよ」

「遊びじゃないんだ。2人とも死ぬかもしれないんだぞ」


 真琴が声を荒げる。

 ビリビリと骨に響いて痛む。俺が顔をしかめると、真琴は慌てたように気遣ってくれた。


「と、とにかく、ここからは私1人で進みます。せめて2人は、入り口まで戻ってください。ノームとの契約も、私が引き継ぎますから」


 ノーム様はますます俺の背にしがみついてきた。

 契約を引き継ぐなんて事ができるのかはともかく、ノーム様自身は俺と離れたくないらしい。

 それを見た真琴は、ますます歯痒そうな顔をする。


「私は、もう誰も失いたくないんです」


 真琴が歩みを止めたので、俺も止まらざるを得なかった。

 彼女は冗談で言っているようではなさそうだ。その顔は懇願するように歪んでいる。

 そりゃ俺だって死にたくはない。ここで帰って全てが解決して、いつも通りの日常に戻れるんならそうしたい。

 けど、そうはならない。

 真琴の家族の問題だけじゃない。俺にだって、このダンジョンに挑まなきゃならない理由ができた。

 絶対にウンディーネを救い出す。そのために、血の小便垂れ流してでもここを攻略しなきゃなんねえ。

 だから今更、死ぬかもしれないからとケツ捲って逃げちゃいけないんだ。


「真琴、悪いな。さすがにこっから戻るのは骨だ」

「……本当に、命を落とす事になりますよ」

「もうその脅しも効かねえな。こっちだってえげつない奴らと戦ってきてんだ。心配すんなって、俺も陽花も、やっぱやめたはねえよ。なあ、陽花」

「うっす! 大丈夫っすよ、マコ。センパイこう見えてめっちゃ頑丈なんすよ。ね、センパイ?」

「おう。でもあんまギュッとしないでくれ。実はさっきからめちゃめちゃ骨に来てる」


 いつも通りの馬鹿話で笑い合う俺達に、とうとう真琴は折れたようだ。

 短くため息をついてから、再び歩き始めた。俺も陽花も、同じ歩調でゆっくりと歩いていく。


「ありがとう」


 小さく掠れた声でそう呟き、真琴が目元を拭った。


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