番わぬ将
「もう良いイグニス。かつてはローランドの智将とも呼ばれた貴殿が堕ちたものよ」
アルカは一方的に喋り続けているイグニスに向かって静かに告げた。
「……は? 何を――」
しかし話を折られた挙句、その意図が分からないイグニスは戸惑う。
何故剣を抜くのだと。
「どれだけ私が策を練るたびに貴殿と話しおうてきたか。しかしこうなる定めの一端を担った私にも責任ある、せめてもの手向けを貴殿に託そう」
ようやっと意味を理解したイグニスは形相を変えて叫んだ。
「逸ったか!? 今や私はガマニアの指揮を執る将……ッ!! 私を手にかけること、それすなわち」
どの道イグニスが助かる術はない。
であるのなら、同郷のよしみでせめてもの報いにアルカが自らの手で苦しまぬよう送ってやろうと剣を手に取ったその時――。
「――その甘さ、いつまで経っても変わらんな。だからお前は弱いままのだアルカよ」
アルカが剣を振るうよりも速く、宙を舞うイグニスの鮮血が暗闇をより漆黒に染めた。
「……あ、え? 」
ブリキ人形のようにぎこちなく首を動かし、自身の胸から腹に掛けて背後から突き出した大剣に目をやったイグニスは脳が理解するよりも先に事切れていた。
気配からそれとなく察していたがやはりかとイグニスの身体から突き出た大剣そして声に身に覚えがあるアルカは剣を構え、言う。
「そういう貴様も相も変わらずであるな」
やがて月明かりに照らされて姿を現したのはガマニアの騎士団長ガガトロイだった。
大剣、クレイモアに刺さったまま事切れていたイグニスの身体を一振りしてゴミのように端へと吹き飛ばすと再び背負い直して彼は言う。
「何故ゴミに気を使わねばならぬ? 元より俺の密集陣形に智略など不要、あるのは絶対的な防御にして圧倒的な攻撃のみ。能弁を垂れるだけのゴミになんの価値がある」
「ふむ。そのゴミに手を焼いていたこと、ゆめゆめ忘れたわけでもあるまい?」
しかしアルカも理不尽にも逝ったイグニスの手土産にとガガトロイに対し、嫌味で返す。
するとガガトロイの身体が闇夜に揺れた――。
「俺が手を焼いていた? 図に乗るでないぞアルカ、今の貴様の首など取るに足らぬ」
そして瞬く間に巨身の影がアルカの背後からクレイモアを振りかざし、圧をかけた。
アルカは即座にガガトロイからの一撃を受け止めるがロングソードの当たった箇所が凹んでしまう。
「なんだその鉄屑は 」
そのアルカの持つ剣に目をやったガガトロイは拍子抜けだとでも云わんばかりに吐き捨てた。
「カイネ殿から授かった剣である。貴様にはやらんぞ? 」
アルカはそう答えてからクレイモアを押し返し、ガガトロイを振り払う。
「ゴミがゴミならその上もまたゴミか。ローランドはどこまで俺を失望させれば気が済むのだ」
「ではそのローランドの意思、ここで試すか? 」
そして再び凹んだロングソードを構えたアルカに対してガガトロイは背を向けた。
「相手にならん。貴様の事は俺が便宜を図って天帝様に伝えてやろう、取るに足らぬとな。この地に軟弱なローランドは不要!! 」
「その傲慢にして慢心。いつかは足を掬われるぞ――、このように!!」
背を向けた状態のガガトロイに対し、アルカは瞬歩を使い剣を突き付けた。
しかしガードもせずに背中一つでロングソードを受けたにも関わらずガガトロイの身体に傷が一つもはいることはなかった。
「む――」
さらには凹んだままのロングソードで強く打ちつけたせいか、ついには折れてしまう。
「クハハ!! かのようにか? 出直せ!! これ以上私を失望させてくれるなよアルカ」
ぶるんと振るわれたクレイモアをロングソードの柄で受け止めたアルカはその衝撃を殺し切れずに建物へと吹き飛ばされた、深夜の街に地響きと凄まじい爆音が鳴り響く。




