背中
吹き飛ばされ一部が崩壊した母屋の中でアルカは瓦礫をどかしながら傷だらけになった身体を起こした。
「お……、おいアンタ大丈夫か!?」
その家に住んでいた男は爆音と共に衝撃で根が覚めたのか、半壊した部屋で震える女性の肩を抱きながらアルカに声を掛ける。
いきなり家の壁が外側から吹き飛んだかと思えば毛むくじゃらの巨漢が瓦礫に埋もれていたのだから驚くのも無理はない。
「ぬ……ゥ。おぉすまぬな、貴殿の家を壊してしまった。明日にでも修理するようカイネ団長殿には私から掛け合う故、しばらくの間ではあるが辛抱願いたい」
「あ、あぁ。いや、それもそうだけどよ……。あそこにいるのってガガトロイ騎士団長だろ? 一体アンタ何をしたんだ……? 」
どうやらまだアルカの事を知らない男は身を案じるように言うが体に圧し掛かっていた瓦礫を退かしきるとアルカは立ち上がる。
「何、挨拶がてら軽く奴の背中を切っただけである。お蔭で剣を失ってしまったのだが、代わりの武器を貸しては貰えないか」
「切ったって……勘弁してくれ、仮にもアンタに武器を貸したとなっちゃあ俺達も無事じゃ済まなくなっちまう!!」
アルカは折れてしまったロングソードの代わりの武器を男から拝借しようとしたが、断られてしまった。
「そうか」
それもそのはず、カイネの傭兵団はガマニアから独立状態ではあるが反乱を起こすまでには至っていない。
つまりカイネから断れない我儘で動いているという名目がある以上はガマニアは直接彼らをどうこうすることは出来ないのである。
属している兵達もそれが分かっていてか金回りも良く自由自適に過ごせる今を気に入っていた。
一度でもガマニアに手を加えてしまえばそれは完全なる反逆者となり、排除される事を恐れての言い分だった。
「では、これをしばしの間預かっておいてはくれないか。大切な物なのでな」
アルカは柄だけになったロングソードを男に手渡すと再び街道へと歩みを進めた。
「何があったかしらねぇが一刺ししたっていうアンタなら分かるだろう? ガガトロイ騎士団長に勝てる奴なんてこの世にはいねぇ。あのローランドの騎士団長ですらも負けたという話だ。悪いことは言わねぇから早くここから逃げた方が良い。な? 」
そのアルカに対して男は引き止めるように言った。命がいくつあっても足りないと。
しかしその言葉に背中でアルカは応じる。
「何、心配には及ばん」
ゆらりと巨体を揺らしながら暗闇の中へと再び身を投じるさなかで言う。
「もう私に二度の敗北は許されないのでな」
「アンタまさか――」
男がすべてを言いきることは無かった。
◇
爆音が響きカイネは目を覚まして自身の住まう母屋から飛び出した。
徐々に同じくして部屋に明かりが灯されていくと次第に街道が照らされ始め、一人の男とその衛兵たちが目に付く。
「ガガトロイ!? 一体何をしているのですか!!」
ガガトロイの姿を目にしたカイネは叫ぶ、まさかアルカを引き入れてその日のうちに襲撃にでも来たというのかと嫌な予感が頭を過る。
しかしそれはカイネの早合点であった。
「これはこれは姫様。懐かしい顔がいると小耳に挟んだので少々ご挨拶に伺ったまでですよ。いやはや姫様も慈悲がない、あのような鉄屑をお与えになられるとは」
「まさか……!?」
ニタッと笑うガガトロイが見つめる先――、もくもくと立ち込める半壊した建物の中に目をやったカイネは察しがついた。
先程言った鉄屑とはアルカに与えたロングソードの事であると。
全てが繋がった瞬間、カイネは腰に掛けていた剣に手をやって駆け出そうとした。
「カイネ様、いけません」
しかし、その往く手を白銀の籠手に阻まれてしまう。
「ラディル!! しかし――」
カイネの前に腕を差し出したのはラディルだった。
「ここで姫様が出ていかれては奴の思う壺です」
ラディルは全てまで言わなかったが、カイネが激高したところで状況が悪化することを分かっていた。
「しかしアルカが!!」
だが、カイネとて目先で自身の兵がやられたとあっては黙ってはいられない。
せめて一矢を報いらなければ気が収まらないとばかりにラディルをキッと睨む。
興奮し、我を失ったカイネの様子をみてラディルは宥めるように言った。
「カイネ様は我が団長があの程度の衝撃で倒れるとでも? 」
だが、外壁を壊す程の衝撃を生身の人間が受けて無事だとは到底思えない。
しかしそれでも二度の敗北を認めぬ男は立ち上がるのである。
「これは団長殿、夜分遅くに忝い。少しばかり加減が出来ず、後ろの家を壊してしまってな。後で修復を願えないだろうか」
自身が突っ込んで半壊した家を心配しながら。




