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嘘の本懐


 イグニスは次に発すべき最善の言葉を思考するため、瞬時に脳の隅々まで余すことなく働かせていた。

 間を開け過ぎてはアルカの思惑通りになってしまい、かといって感情を剥き出しにして悟られるわけにもいかないからだ。

 あくまでもイグニスの目的はアルカの現状を確認することであり、ここで討つことではない。

 そもそもアルカを討つことなど彼の実力を知るだけに出来るものではないことは明白。

 だからこそリスクを冒してまで少人数で立ち合い、アルカの良心に浸けこもうとしたのだがそういう訳にはいかなくなってしまった。


 だが考えれば分かることもある。

 アルカは酒場を出た後イグニスらの視線に気が付いてからどうした――?

 かつての彼であれば異変を感じたら真っ先に行動に移していたというのに様子を見たではないか。それはつまり、アルカとしても現状は手を出すつもりはないことを指す。

 そこまで分かればやることは決まったとイグニスは口を開いた。


「いやはやこれはこれは、さすがは団長殿……!! 試す様な真似を、申し訳ございませぬ。その武力を持って知力、変わらぬ御姿にこのイグニス感服致すばかりでございます」


 嘘がばれたのなら嘘で塗り固めればいいのだ。

 どうせアルカは手が出せないと鷹を括り、イグニスは両手を開いて称賛するように言ってみせた。


「御託は良(よ)い。何が狙いだ」


 しかしアルカとてそんな上辺だけの賛辞をほいほいと受け取りはしない。

 

「まさか団長殿を相手に狙いなどと、恐れ多い!! 申しました通り、私が出来るせめてもの伝言にしか過ぎません。えぇ、確かに団長殿の御心に響かせる為とはいえ少々手を加えてしまいましたが私の本意は変わりませぬ。貴方はここで死ぬべきお方ではないのです」


 だがイグニスとてここで引き下がる訳にはいかない。

 ガガトロイからの命によりここに出されているのだ、おいそれと引き返せばどうなるか分かった物では無い。


「それでカイネ殿を渡せと申すか」


「カイネ様はまだ若い。彼女が反旗を翻すことでこの街が戦火と化すことの意味を理解されておりませぬ。ただの親子喧嘩で国が滅びるなど、そんな馬鹿げたことは民を守る者として見過ごすわけにはいきますまい。その意味が分からぬ団長殿ではありませんでしょう? 」


 イグニスの言うとおり此度の戦場となるのはここ帝国領土内――、内戦であることに間違いはない。

 平原で繰り広げられるのではなく市街地で行われるとなると消耗するのは兵だけではなく、他国が攻め入る隙も与えることになる。

 これまでトップを張ってきたアルカであるからこそ、その意味が分からないわけがないだろうとイグニスは言ったのだ。


「こちらでカイネ様を引き受けた後の傭兵団(ギルド)の処遇につきましては、このイグニスが全霊を持って好意に天帝へ伝えておきましょう」


「カイネ殿を引き受ける? 殺すの間違いではないか? 」


「何を物騒な――。天帝とて"人の子"、まさか我が子を手に掛けるとでも? 傭兵団(ギルド)の功績によりこのガマニアの品位が上がっているのも事実、カイネ様はそれ相応の待遇を受ける事となりましょう」


 普通であればイグニスの言うとおりである。

 そう、普通であれば――。

 既にカイネより元女帝の死因を聞いているアルカは引き渡した先で無事では済まないことを分かっていた。彼の付く嘘で靡くことはここから後にも先にもない。


「……」


 それにもう、イグニスは初手を誤った時点で手遅れだったのかもしれない。

 元より武に精通していなかった彼は未だに唯一の武器である出任せを講じているあたり気が付いていないのかもしれないが一つ、また一つと影から向けられる視線が増えている。

 イグニスは気が付いていないのだろう。

 その中には隠しきれない、――いや、隠すつもりはないのかもしれないが強大な死の臭いを纏わせている者がいることに。



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