第66話 プラタ対ビヨンド大佐
「オウロ! 助けに来たぞ!!」
プラタは磔になったオウロを見て叫んだ。
バルコニーの上にいるビヨンド大佐は彼を見下ろして、にやりと笑う。
そのままクイーンヘッドの方に向いた。彼女を宮殿の中に押し込む。
「ロビンヘッド、オウロを解放してくれ!! その後フビはオウロを診てやってくれ!!」
「わかったのだ!」
「はいです、まかせるです!!」
ロビンヘッドはノミのようにぴょんと飛ぶと、オウロを拘束する縄を外し始めた。
すべての戒めが解かれると、フビが彼女を抱きかかえ、肌に傷がないかを確認している。
「よし、これで目的は終わった。さっさと帰るぞ!!」
「いや、帰っちゃダメだろ!!」
プラタのやる気のない言葉にヒスイは口に泡を飛ばしながら反論した。ここまで来てビヨンド大佐を倒さない選択肢などありえないからだ。
「俺たちの目的はあくまでオウロの救出だろ。あのおっさんと戦う必要はないじゃんか」
「ここまで来て敵のボスと戦わないなんてありえません。もし帰ろうとするならこの世と別れる覚悟を決めてください」
イエロの右手がパチパチと青白く光っている。静電気が溜まっているのだ。鉄面皮だが語尾には怒気が含まれている。有無を言わさぬ迫力があった。
「貴様! ビヨンド大佐を無視するとは何事だ!!」
「これほど怒りが湧くなんて生まれて初めてだ!! ぶち殺してやる!!」
「死ねえええええええ!!」
ローリング少佐たちはプラタの発言に激高した。頭に血が上り、目の前が真っ暗になりそうであった。
彼らはビヨンド大佐を神格化していたのだ。本人の前はもちろん、陰口さえいうことさえ許さない。それ故にプラタの態度は彼らの逆鱗に触れたのである。
彼らはプラタに向かってブラウン・ベスを突き出した。パンパンとクラッカーのように銃声が鳴り響く。
イエロとベルフェゴールが前方に我が子を守るように立ち塞がり、銃弾を防いでいた。
鉄の身体は銃弾を弾き、巨大なキノコが銃弾を受け止める。
もっとも銃弾は防げても衝撃だけはどうにもならない。兵器茸も使えば使うほど彼女の体力をすり減らすのだ。
「プラタ! ビヨンド大佐を止めて!! あの人はもう自分では止まることができないの、お願い!!」
オウロが叫びながら嘆願する。その表情が真剣なのでプラタは彼女の気持ちを受け取った。
「仕方ないな。ではさっさと彼を倒すとしよう」
プラタはバルコニーに向かってサーカスの曲芸の如く高く飛んだ。そして残されたヒスイたちはローリング少佐たちとナイトヘッドたちとの乱戦にその身を投じるのであった。
☆
「目垢弾!!」
クイーンヘッドは目をパチパチ瞬きすると、パンパンと音を立てて何かが飛び出る。
彼女の目垢が弾丸となり、ビヨンド大佐に襲い掛かる。
さながら散弾銃のような威力であった。鍛えた海兵でも一度に5人は無力化されるほどの衝撃がある。
「眉毛針!!」
今度は眉毛が矢のように発射される。分厚いビッグヘッドハウスの壁も紙みたいに貫く。彼女の目は武器になるのだ。
火薬にゼラチン、ダイナマイトにレーザービームとお手の物である。
十数年前に王都に巨大ホシムクドリの大群が襲った際には、彼女ひとりで追い払ったのである。
しかしビヨンド大佐はその実力を知っている。その上で勝てる算段があるのだ。
「瞳光線!!」
クイーンヘッドは瞳に蓄光した太陽光をレーザーとして発生させる。ビヨンド大佐はそれを躱す。
しかし彼女は次の光線は出せない。室内なので太陽光を蓄光できないのである。
ビヨンド大佐がクイーンヘッドをここに追いやったのも、そのためだ。太陽の下でなければ彼女の力は発揮できないのである。
「普通の人間なら恐れおののくでしょう。ですが私には通用しない。今日があなたの命日だ!!」
ビヨンド大佐は自分の毛を一本抜くと、それを手にして投げ矢のように投げる。それは蛇のように蠢き、クイーンヘッドの瞼に縫いついたのだ。
「ああ、見えない。外せない!!」
クイーンヘッドは塞がれた目を必死に外そうとした。しかしなかなか外せない。痛みを感じないが不快感はぬぐえない。
ビヨンド大佐は軍服を脱ぐ。胸毛が槍のように形を作った。
「胸毛ドリル!!」
これがビヨンド大佐のスキルだ。彼はスプリガンなので毛を武器にできるのだ。
胸毛のドリルは大岩を簡単に打ち砕く威力を持っている。クイーンヘッドをあっという間に貫いてしまうだろう。
「まて!」
そこへプラタが割って入った。クイーンヘッドを庇うように立つ。
「その声はプラタですね。まさかあなたが助けに来てくれるとは思いませんでした」
クイーンヘッドは自身の危機に無頓着で、のんきそうに答えた。
そのおっとりとした態度はどこか場違いである。
「ほう、私の前に立ちふさがりますか。親の仇を討ちたいのですか?」
「俺の親父はネプチューンヘッドだ! お前を倒さないと仲間がうるさいから、さっさと片づけさせてもらうぞ!!」
プラタの発言にビヨンドの目が見開いた。家族の復讐などどうでもいいと抜かしたのである。所詮は海賊かと、プラタを見そこなった。
「家族の復讐をする気がない人は大嫌いです! プラタ、私があなたをこの手で冥途に送って差し上げましょう!! 死神のメイドに誘われるがいい!!」
ビヨンド大佐は両腕を組んだ。そこから腋毛が変形する。腋毛は拳へ変化したのだ。
まるでゴリラのような黒い拳である。
「腋毛パンチ!!」
さらに胸毛もドリルのままである。プラタは胸毛ドリルを躱しつつも、腋毛のパンチを喰らってしまう。
毛で作られているとは思えないほどの重さだ。
胸毛を右に躱しても、腋毛のジャブが頬に決まる。
さりとて左によけても今度は腋毛のアッパーカットがあごに決まるのだ。
プラタはぼろ雑巾のように、どんどんボロボロになっていく。
通常、スキルは複数の技を使えない。だがビヨンド大佐は一度に腋毛と胸毛を操れるのだ。
海軍大佐は伊達ではないのである。
「プラタよ、弱すぎるな! あなたの父親ラグ王はもっと強かったぞ!!」
「知らねぇよ! 俺の親父はネプチューンヘッドだ!!」
プラタはでべその拳を振るう。それらはすべて躱され、プラタの顔を殴打する。
頭の中はぐちゃぐちゃにされ、ぐるぐると視界が回っていた。
口の中は血が溜まり、鼻は潰れ、鉄の臭いが気持ち悪い。
「ラグ王はへそで足を作っていたぞ!! あなたは拳に頼り切りだ、そんなことで私を倒すことはできない!!」
ビヨンド大佐は挑発する。プラタは腹が立ってきた。生みの親ラグなど顔も知らない。同じくエルハヴァも似たようなものだが、ネプチューンヘッドの口から彼女が自分の恩人であることは知っている。
「関係ない! 俺はラグ王なんか知らない!! 俺にとって恩人はエルハヴァさんだけだ!」
プラタはボロボロになりながらも立ち上がった。ビヨンド大佐はそれを聞いてしばし思案に暮れる。
エルハヴァの名前は知らない。つい最近まで聞いたことがなかった。18年前にローリング少佐から誤って撃ってしまった女性の事は報告されている。
まさかプラタを抱きかかえていたとは思いもよらなかったが。
この男は自分に関わりのある者にしか興味がなさそうだ。エルハヴァの名前を自分の船につけるのだから、相当の物だろう。
するとビヨンド大佐は考えがまとまったのか、口を開く。
「エルハヴァだって? 聞いたことがないなぁ、そんなのを恩人呼ばわりするなんて、君はどうかしてるんじゃないかね?」
ビヨンド大佐は再び挑発する。するとプラタの様子が変わった。彼の額に血管が浮き出ている。彼は怒っているのだ。恩人を侮辱されてビヨンド大佐に殺意を抱いたのである。
「はあああああ!!」
プラタは腹に力を込めた。へそに力が集中する。それを一気に解放した。
「ネイブルキック!!」
プラタのでべそが足の形を作る。足のかかとがビヨンド大佐を蟻のように踏みつけた。
彼は壁に踏みつけられたのであった。
「よくぞ、私を倒した……」
ビヨンド大佐は血を吐き出すと、床にべったりと倒れる。
プラタは無意識であった。自分がへそで足を作ったことを覚えていないだろう。
彼もまたふらふらと揺れて、ばったりと倒れたのであった。




