第60話 バナナラマとの戦い
キャプテンプラタの乗っているエルハヴァ号は妖精王国の西方にいた。
ベリーという港があるが、漁村と言った方が早い。妖精王国はヴィーガニズムが主流だが、幼少時の時だけ食するため、漁村はそれなりに必要なのだ。
それと貧乏人がひもじさのあまり口にすることが多く、嫌われていることが多い。
あとベリーは岩山が多く、天然の要塞と言える。だからこそ海軍の警備が手薄なのだ。
「さあ、妖精王国に乗り込むぞ」
「まてよ、私たちは罪人だぞ。まともに乗り込むわけにはいかないだろう」
プラタが意気揚々に語るが、ヒスイは止める。
自分たちがこの国でどう思われているかはわからない。しかし、凶悪な犯罪者と思われて間違いないだろう。
「その辺は大丈夫だ。ここに住む連中はクイーンヘッドをあまり崇拝していない。ビッグヘッドを嫌っている人が多いんだ」
「そうなんだ~。でもどうしてプラタは知っているの~?」
コハクの問いはもっともである。ネタ晴らしは簡単だ、プラタは昔ここに来たことがあるからである。
その時ネプチューンヘッドと共に来たが、村人の目は恐怖と憎悪に満ちていたのだ。
もっとも彼らは行動に移すわけではない。あまり関わり合いになりたくないのである。
「あいつらは面倒事を嫌うんだ。俺たちをわざわざ捕まえるなんて酔狂な真似はしない。クイーンヘッドなんて、いてもいなくてもどうでもいいと思っているんだよ」
「それはいえるかもしれません。庶民にとって国など関係ありませんからね。悪政さえなければ問題ありませんから」
イエロが言った。彼女もレスレクシオン共和国に住んでいたが、特に政治は興味がない。基本的にフエゴ教団が支配しており、彼らが法を作っていたからだ。
キノコ戦争以前では独裁国家が数多くあったという。国民を縛り付け、自分は血税で贅沢を楽しんでいたというのだ。
もっとも独裁国家が悪とは限らない。バラバラの思想を強引にまとめあげるには最適なのである。
実際に独裁者が最高権力から転げ落ちると、国が乱れることが多かったのだ。
「はいです! ならさっさと行動あるのみです!!」
フビが右手を上げて賛成した。ベルフェゴールとロビンヘッドも同じである。
「ほないきまっせ! 本当は教団としては関わってはあかんけど、プラタに全部まかせたるわ」
「そうなのだ! ロビンにすべてまかせるのだ!!」
仲間たちの士気は上がっている。さっそく王国へ上陸することにした。
「まてーい!!」
突如声がした。それは巨大な船であった。プラタと同じ大頭船だ。名前はシュガーベイブ号であり、妖精王国が所有する船なのである。
船の先にはひとりの女性が立っていた。ベニテングタケの亜人である。着ているのは紺色の水着に白い水兵の服だった。
「とぅ!!」
ベニテングタケの亜人は飛び降りて、エルハヴァ号に降り立った。可愛らしい顔だが怒りの表情を浮かべている。
「あんたはバナナラマだったな?」
「その通り! よくもあなたはわたしたちを騙しましたね! 絶対に許せません!!」
バナナラマはいきり立っていた。プラタが自分たちを騙したといっているが、いつ騙したのか意味が分からない。
「バナナラマ! 勝手な真似はやめなさい、いますぐ戻るのです!!」
シュガーベイブ号からアカギツネの亜人が顔を出した。すらっとした長身できっちりと軍服を着ている。年代は50ほどだが年齢には不釣り合いな若々しさを保っている。
彼女はアトムハート・クリムゾン中将だ。バナナラマを呼び止めている。
「いやです! こいつのせいでディープおじさまやクリームおばさまは逮捕されたんです。仇を討たねばならないのです!!」
「いや、関係ないだろう!! ツェッペリン夫妻の逮捕はこいつらと無関係だ!!」
アトムハート中将は必死に止める。本来はプラタの行為を見て見ぬふりをするつもりだったのに、バナナラマが独断だろう。
「ツェッペリン夫妻が逮捕されただと? なぜあのふたりが……」
プラタの問いを無視して、バナナラマが向かってくる。彼女は高く飛んだ。
プラタを飛び越えて背後に回る。そして蹴りを入れた。
バナナラマの蹴りは鉛のように重い。内臓と骨に響く。
「ネイブルパンチ!」
プラタはポーズを取り、へその拳を繰り出す。しかし彼女はひらりと躱し、プラタのへその上に乗った。
バナナラマの蹴りがプラタのあごに決まる。頭がぐらぐらしてきた。視界が歪む。
プラタは顎を抑えながら、ポーズを決め、ヘソの拳を繰り出す。
しかしまったく当たらない。のらりくらりと躱していく。
「やるなぁ、あのお嬢ちゃん。スキルはないけどなかなかやわぁ」
ベルフェゴールは感心していた。彼女はプラタの手助けをする気はない。一騎打ちにこだわるつもりはないが、それがスキルの源である神応石に力を与えることを理解しているのだ。
「向こうが何かしたらやってもええで」
「わかったのだ!!」
ロビンヘッドに命じてシュガーベイブ号の船員を髪の毛で縛り付けていた。
アトムハート中将は手出しするつもりはないようだ。他の海兵も同じであり、他はマーリンヘッドのみである。
「私のジャンプ力は誰にも止められません! あなたもここまでです!!」
バナナラマの動きは全く読めない。のみのようにでたらめに飛び回り、その死角に蹴りを入れる。
とてもストレスのたまる戦いだ。もっともバナナラマとしては一撃必殺のつもりなのだろう。蹴りを入れてもまったく致命傷にはならないのだ。
「うぅぅ!!」
バナナラマが着地に失敗し、こけた。プラタはへそで巨大な手を作り、彼女を掴むと、アトムハート中将に投げつけた。
彼女はバナナラマを受け取ると、海兵に命じて彼女を拘束する。
「わーん、放して~。まだ勝負は終わってないのに~」
ずるずるとバナナラマは引きずられていった。後に残るのはアトムハート中将のみである。
「プラタ! お前の双子の妹オウロは王都で公開処刑にされる! ホッドミミル王国の王女とねつ造してな!! 止めるなら今の内だぞ!!」
アトムハート中将はプラタとオウロの名前を言った。本名のリーヴとスラシルは口にしない。あくまでふたりはホッドミミルと無関係としているのだ。
決起に賛同はしたが、心の底では反対なのだろう。プラタを見逃しはするが、失敗を望んでいるのかもしれない。
エルハヴァ号は漁港の外れに停泊した。そしてシュガーベイブ号は立ち去っていく。
敵を発見してみすみす見過ごすのは軍法会議物だ。アトムハート中将は免職される覚悟を決めているのだろう。
「バナナラマ……、彼女がミスをしなければ俺は負けていた。世の中は広いものだ」
プラタは上陸し、つぶやくのであった。




