第44話 新しい仲間たち
「さてオウロはどこかな?」
プラタは辺りを見回した。よく見れば村の中は木造の家がほとんどだった。造りは甘く、雨は防げても隙間風や虫に悩まされているだろう。
それに冬の寒さも耐えれるとは思えなかった。
家からは村人が出てきた。女子供がほとんどでどれも痩せこけている。まるで飢餓に苦しんでいるようだ。この村では女子供は家畜として扱われているのである。
プラタは胸糞が悪くなり、ぺっと唾を吐き出した。
「なんなんだ、あいつはなんなんだよ……」
「異常すぎるだろう、アンペリュダン以上の異常さだよ……」
「化け物め……、俺たちはなんて素晴らしい人間なのだろうか……」
戦意を無くした村人は遠巻きにプラタを見ていた。悪態をついているが、どうにかするつもりはない。ただ陰口をたたくしか能がないのだ。
プラタは何もしない村人を軽蔑すると、オウロを探しに行く。
するとイエロが駆け寄ってきた。どうも焦っているようである。
「何が起きた?」
「遠くから別の村人が来ました。この村の何百倍もいます」
イエロは淡々と答える。感情がないわけではないのだ。両腕を振り、大変であることを示す。
「アンペリュダンが死んだら別の村人が一致団結して、デポトワールを亡ぼすつもりだったんよ」
ベルフェゴールが言った。アンペリュダンはまだ死んでいないが、一度でも負ければ用済みと思っているのだろう。集団で襲撃すれば怖いものはないと信じているのだ。
変化を否定し、不変を願う。そのためには嫌いな相手と手を組み、相手を亡ぼすことに手を貸す。蟲人王国の人間はとことん腐りきっているようだ。
「イエロ。お前はベルフェゴール先生とともにオウロとルスを逃がしてくれ」
「あなたはひとりで戦うつもりですか?」
「そうだ。これくらいの困難を乗り越えられないで、今後も海で通用するわけがない」
プラタとイエロは見つめ合う。しかし彼が戦うことはなかった。突如ロビンヘッドが飛んできたのだ。
「大変なのだ! 動物たちが大群になって襲ってきたのだ!!」
☆
ロビンヘッドに言葉通り、動物が襲ってきた。巨大なアライグマに巨大なヌートリア、アカギツネにヤギ、アカシカが大群となって駆けていたのだ。
アライグマは猪のように大きく、ヤギやアカシカは馬のように肥大化している。
それが群れを成している姿はまるで群体の軍隊だ。大地は揺れ、鳴いているように聴こえた。
彼らは外来種と呼ばれている動物だ。元は蟲人王国に住んでいなかったものである。それが在来種を喰らいつくし、生態系を乱しているのだ。
そいつらはプラタたちのいる村ではなく、襲撃しに来た村人たちを逆に襲撃していたのである。
「うわー、助けてくれー!!」
「いやだ、死にたくない、死ぬのは怖い!!」
「獣に行きながら食われるなんていやだー!!」
男たちはアライグマに頭を掴まれ、がしがしと頭の皮を剥ぎ取られた。
ヌートリアはがじがじと身体をかじり、ヤギとアカシカは無心に突進し、男たちを踏みつぶしていったのだ。
アカギツネは死にぞこないの村人を喰らっていく。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。獣に身体を喰われる畜生道のようである。
「へえ、あのけものたちの統一感。こいつはハーメルンヘッドの仕事やな」
ベルフェゴールがつぶやいた。イエロはルスの目を閉じている。凄惨な光景を子供に見せないためだ。
「その通りです」
すると背後から声がした。振り向くとそこにはビッグヘッドが立っている。
金髪の生えた、美しい女性の顔を持っていた。
「ウィッチヘッド……」
イエロはウィッチヘッドをにらみつけた。当の本人は風に流している。
「これはウィッチヘッドはん、ご無沙汰しておりますわ。今回の仕事はあんさんの仕事やね」
「はい。解放軍が大きくなるまで待っていました。強大な力を、さらに大きな力で踏みつぶす。そのときの絶望感は言葉にできないものでしょう。オホホホホ」
ベルフェゴールは頭を下げた。彼女にとってウィッチヘッドはエビルヘッドの代理なのである。
「私の村もそうして滅ぼしたのですか」
「違います」
イエロの言葉をウィッチヘッドは一刀両断した。
「10年前、ライゴ村が滅んだのは偶然でした。スマイリーたちが勝手に村を襲ったのです。私は慌てて村に赴き、新たな命令を下したのです。フエゴ教団が来るまで子供を食べるなとね。ちょうど彼らが近くにいたので助かりました」
ライゴ村にはアイアンメイデンと人間の間に生まれた子供、ホビアルがいた。将来は彼女のためになんらかの行動を起こすつもりでいたのだ。
ところが野良のスマイリーたちが村人を喰い殺したのである。
これには焦った。このままではホビアルが殺されてしまうかもしれない。
「おそらくスマイリーたちは村人の不満を聴き取ったのでしょう。ライゴ村自体が巨大な神応石と化し、破滅を呼び込んだのです。鉄の塊である彼女らは掟に縛られていたのですよ」
「……じゃあ、なぜ8年前、私の前に現れたのですか?」
イエロが訊ねるとウィッチヘッドは右手の人差し指を立て、口に当てる。
「ほんの冗談です。当時はあなた個人が呼び出したわけではありません。わたしでも個人の声を聴くことは不可能なのです」
ウィッチヘッドは悪戯っぽく笑った。なんとも人を喰った女である。
「じゃあ、私はあなたに振り回されたわけですね」
イエロは殺気を抱いていた。右手には青白い火花が出ている。ウィッチヘッドに対する憎しみが膨らんでいるのだ。
「それやね。あんたの抱く憎しみが神応石に力を与えるんよ。まったく無意味な行為とはいえへんわな」
ベルフェゴールがネタバレをした。ウィッチヘッドはやれやれと首を振る。せっかくのいたずらをばらされて残念がっていた。
「プラタ! 無事だったみたいだわね!!」
突如声がした。それは金色の人魚、オウロだった。彼女は暴行を受けたために顔が腫れていたが、気にしていなかった。
ぴょんぴょんと飛んでくる。囚われていた割には元気そうであった。彼女はプラタと同じ母乳で育ったのだ。暴力如きで屈する性格ではないのである。
「おお、オウロ。すっかり見違えたが、元気そうで何よりだ!!」
プラタはオウロに駆け寄り、彼女を抱きかかえた。
「プラタ! ルスは? いいえフォーゴとアグアは無事なの!!」
「無事だよ。三人とも無事だ。元気だよ」
プラタの言葉にオウロはほっとしたようである。だがすぐにベルフェゴールに気づいた。
さらにウィッチヘッドにもだ。
「……プラタ。あの女の人は誰?」
「ああ、ベルフェゴール先生だよ。お前を救うのに協力してくれたのさ」
プラタにとってベルフェゴールは協力者のひとりに過ぎない。なんらやましいところはないのだ。
それをウィッチヘッドが口を挟んだ。
「プラタさん、ベルフェゴールを連れて行ってもらえませんか? 彼女は役に立ちます、特にあなたの持つ大頭船には必要な人材ですよ」
「ウィッチヘッドはん、ええんか? 司教の仕事をほったらかしになるで?」
「仕事を放棄するわけではありません。彼の仲間になることは我らエビルヘッド教団にもプラスになると思ったのです」
ウィッチヘッドに言われてベルフェゴールは仕方なく同意した。
オウロのこめかみはぴくぴくとしている。
そこに小さいビッグヘッドがやってきた。ロビンヘッドだ。
オウロの機嫌はさらに悪くなった。
「ロビンヘッドさん。あなたもプラタさんについていきなさい。あなたの力も役に立つでしょう。あとわたしは同行しませんよ。安心してくださいな」
ウィッチヘッドはオウロを見て笑った。まるでプラタに対する当てつけであった。
「別に俺は構わないぜ。先生には世話になったし、ロビンヘッドは先生の教え子だ。俺の人生の師匠になってもらいたいね」
「まあ、うちは今年で28やからね。離れて暮らしとるけど子供を産んどるしな。ロビンもうちについてきいや」
「はいなのだ! よろしくなのだキャプテンプラタ!!」
ロビンヘッドは敬礼した。するとオウロの目は見開き、血走っている。
「……増やした。また女を増やした」
オウロはぶつぶつ言っている。
「おい、オウロ。何震えているんだよ。寒いのか?」
プラタが心配そうに訊ねるが、オウロは突如跳び上がった。
そしてプラタに自分の尾を叩きつけたのである。
彼の身体は思いっきり吹き飛んだ。ぼろ小屋を粉々に粉砕するほどの衝撃であった。
「この女の敵が!!」
オウロは地面に降り立った。その様子を見てウィッチヘッドは面白そうに笑っている。
イエロはそれを見て不愉快になった。
「やっぱりあいつは魔女です」
忌々しくつぶやくのであった。




