第43話 解放軍との戦い
「あれが解放軍の基地か」
プラタがつぶやいた。彼は真新しい毛皮を着こんでいる。筋肉隆々の身体では抑えきれずにいた。
隣には鉄の乙女、イエロが立っている。こちらも毛皮を着ていた。鉄人間の彼女は冬の冷たさが体の芯から染みわたるのだ。
さらに異質なのはオークウッドの亜人、ベルフェゴールだ。樹が二本足で歩いていると思えばわかるだろう。
彼女は鯛の亜人の子供、ルスの両肩に手をかけていた。ルスもたくさん着込んでいる。こちらは綿入りで毛糸の帽子にマフラー、手袋も身に着けていた。
プラタたちは夜中の内に解放軍の基地の手前に来ていた。周りは森に囲まれており、雪が積もっていた。
基地の周りは赤レンガで囲まれている。典型的な村だ。壁はよそ者から守り、村人を逃がさない檻である。
壁の外はかがり火が焚かれている。周りは虫の亜人である村人が槍を片手に見回りをしていた。
「基地というより、村ですね。見回りも雪の中を歩き回らされて不機嫌そうです」
「そやな。解放軍ゆうても一枚岩とは程遠いんよ。偉大なる神、エビルヘッド様に嫌がらせをして楽しむだけの集団や。利害が一致しているから協力しとるけど、きっかけあったらすぐ崩壊するね」
ベルフェゴールは軽蔑しきったように言った。彼らに信念はない。変化を忌み嫌い、新しいものを否定することが正しいと信じ切っているのだ。
エビルヘッドに潰された村は多い。布教された村を憎み、襲撃する者もいる。弱い村だと他の村にいじめられ、おもちゃにされており、エビルヘッドの庇護を求める場合があった。
解放軍はエビルヘッド教団、略してエビット団を憎んでいた。とにかくこちらの嫌がらせをしたい、損得勘定を無視して、ひたすら略奪と凌辱を楽しみたいのだ。
女を凌辱し子供を宿せば、そのまま零れ落ちそうな腹に、槍を突き刺せばいいと思っているのである。
女であるアンペリュダンを頭にしたのは、すべての責任を彼女に押し付けるためである。
「作戦はあるのですか?」
イエロが訊ねた。エビット団の司教だから凡人には理解できない作戦を提示してくれると思ったのだ。
「あるで。このままプラタが正面に出て暴れるんや。その隙にうちらが囚われのお姫様を救いに行くんや。簡単やろ?」
「まったくだな! さすがは司教と名のつく仕事をしている人だ。感心したぞ!!」
プラタは絶賛したが、イエロは頭が重くなった。脳筋にもほどがある作戦にあきれ果てた。
「すでに基地の中はロビンヘッドがもぐりこんどるわ。あいつの髪の毛は矢だけやない、罠を作るのに適しているんよ。もうあの村はうちらの思うままや。しょせんは烏合の衆やからな」
ベルフェゴールは言った。彼女は考えなしに正面突破を提言したわけではないようだ。
こうして作戦は開始された。
☆
「敵だぁ、敵襲だ!!」
プラタは門に立った。木製の扉に、左右にはかがり火があった。
見張りのゴキブリの亜人は殺気立ち、プラタに槍を突き刺そうとした。
「ネイブルスピア!!」
プラタは両腕を降ろし、前屈みになって力を込めた。モスト・マスキュラーのポーズである。
するとへそは巨大な槍に変化し、木製の扉を紙のように貫いたのだ。
ゴキブリたちはおたけびをあげながら、プラタを刺し殺そうとした。
「ネイブルワイド!!」
今度は両腕を頭の後ろに組む。アブドミナルアンドサイのポーズだ。
でべその槍は左右を薙ぎ払う。ゴキブリたちはあっさりと叩き潰され、泡を吹いて気絶した。
「こいつら連日の夜勤で弱り切っているな。先生の言う通りだった」
プラタはベルフェゴールを先生と呼び、感心していた。彼女は口調こそはざっくばらんとしているが、頭が良いのだ。
解放軍は訓練された兵士ではない。エビット団より上回る人海戦術で荒らしまくっているのだ。
素人の集まり故に兵糧はまったく集まらず、弱い数の少ない村を襲撃しては村人を殺し、物資を略奪することを繰り返していた。
本来は畑を耕し、家畜を育てるのが普通だが、彼らは略奪に魅了されており、もう物を作る仕事ができなくなったのである。
エビット団なら4年近くの訓練を行われる。戦闘のやり方だけでなく、夜勤の過ごし方や、サバイバル訓練などいろいろある。半年以上娯楽がなくとも平気で過ごせるよう鍛えられるのだ。
普通の村人は違う。夜勤などできないし、効率のよさより、自分より弱い者に嫌な仕事を押し付けるのがほとんどなのである。
その証拠にプラタが暴れても村は静かなものだ。何事だと慌てて家を出ると、ロビンヘッドの罠なのか、首が飛んだ。扉に髪の毛が仕掛けられており、飛び出せば切れ味ばつぐんの髪の毛に着られる寸法である。
しかも向こうは酔っぱらっているのか、仲間の異常な死にざまに気を止めず、プラタに向かう始末だった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! よそものは死ねよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ゴキブリにハエ、カメムシなどの亜人がプラタに槍やこん棒を振り回してくる。
どれも寝ぼけまなこで、武器を持つ手もへろへろだ。それでも勢いが止まらないのは、集団心理のせいだろう。
敵はひとりだけ、自分たちはその何十倍もいる。だから圧倒的に踏みつぶせるという安心感に支配されているのだ。
しかしプラタは負けない。まずはネイブルスピアで敵に風穴を開ける。怯んだすきにネイブルワイドで薙ぎ払うのだ。
一度吹き飛ばされると、彼らは口から胃液を吐き出した。飲んだ酒が逆流したのだ。
これなら昼間の方が手強かったと、プラタは思った。
「調子に乗っちゃあいけませーん!!」
突如叫ぶ声がした。それはカマキリの亜人だった。緑色の毛に覆われ、目は常人の二倍ほど大きい。さらに口は避けており、そこからするどい牙が生えていた。
胸と下半身だけを隠している。手は鎌ではない。指が鎌のようにスラっとしているのだ。
「ぼくはアンペリュダンでーす! 解放軍のリーダーでーす! ぼくの鎌の餌食になってください、ぼくは死にましぇーん!!」
アンペリュダンは手にした鎌を投げつけた。まるで手裏剣のようにプラタを狙っている。
さくさくと雪の積もった地面に突き刺さっていく。
プラタは躱そうとしたが、その度に肌を傷つけられた。毛皮が少しずつ切り刻まれていく。
「ぼくは革命家なのでーす! このデポトワールをデカ頭の大将を殺すために育てるのでーす!! みんなは腐ったミカンじゃないんだ!!」
アンペリュダンはかまかましく、意味不明な発言を続けながらも、鎌を投げまくった。
いったいいくつ所持しているのかと、プラタは不思議に思った。
「ぶちゅ! あんたいい男ねぇ」
突如プラタの背後に抱きついた者がいた。まったく気配を感じさせなかった。一体誰だろう。
それは蚊の亜人であった。身体はプラタ並みに大きく、蚊とは思えなかった。
背中には飾りみたいな羽根が生えており、臀部には縞々のしっぽが生えていた。
「あたしはエスピエグル。アカイエカの亜人よ。いい男に目がないのよ。あんたの血を吸わせてちょうだいな」
そう言っておちょぼ口を近づけてきた。蚊はメスが血を吸うのである。普段は花の蜜を吸うのだが、子供を産むときに人間の血を吸い、栄養を蓄えるのだ。
「エスピエグル、ナイスです! ぼくは死にましぇーん!! 死ぬのはあなただけでーす!!」
アンペリュダンは片腕に力を込める。すると皮膚から白い刃物は生えてきたのだ。
これは骨だ。骨の刃だ。彼女は骨を武器に変えるスキルを持っていたのである。
「カマカマカマーン!! これぞ革命だ!!」
アンペリュダンは身動きの取れないプラタに骨の鎌を食らわせようとした。
「エンバンタケや!!」
ベルフェゴールの声がすると、何やら円形のものがアンペリュダン目がけて飛んできた。
それが身体に当たり、アンペリュダンは地面に落ちる。
何が当たったのだろうか。巨大なキノコだった。
「うちん身体の皮膚には兵器茸というキノコの菌糸体が張り巡らされとるんよ」
ベルフェゴールはどや顔で決めた。彼女のおかげで助かったのは事実だ。
「プラタ、安心しいや。お姫様は見つけたで、痛めつけられとったけど、乙女やで!!」
彼女の最後の言葉はよくわからなかった。しかしオウロの無事がわかれば問題はない。
プラタはへそに力を込めた。
「ネイブルアタック!!」
プラタは両腕を上げ、力こぶを作る。フロント・ダブルバイセップスのポーズだ。
でべそは拳に形を変え、再び鎌を構えて突進しようとしたアンペリュダンの身体を吹き飛ばしたのだった。
「ぼくは死んじゃいそうですぅぅぅぅぅ……」
アンペリュダンは雪山に墜落した。エスピエグルはあたふたしているが、ベルフェゴールの手刀で気絶する。
プラタはアンペリュダンを見に行った。顔面を潰されて気絶している。そして着ているものを剥いだ。
「……こいつは女じゃなかった。男だったんだ」
プラタの言う通り、アンペリュダンは男だった。彼はオカマの鎌使いだったのである。
後で聞いた話だが、アンペリュダンは村長に仕える下男と下女の間に生まれた竈子だったという。
「人に構ってほしくて汚れ役を買って出たんだな。哀れなものだ」
プラタはそうつぶやくのであった。
アンペリュダンのモデルはサン電子のゲーム、『いっき』がモデルです。
鎌を投げるとこしか合ってないだろと思う人もいるでしょう。竹やりまで使ったらモロパクリになるので。
なぜか武〇〇矢のような口調なのは、竹やりの影響かもしれない。字は違うけど。
エスピエグルはプレイヤーにまとわりつく女中をイメージしました。蚊は本当にメスだけ血を吸うのです。




