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第40話 ロビンヘッド登場

「なんだイエロ。お前はこんなところにいたのか」


 それがプラタの第一声であった。彼が妖精王国《フェアリーキングダム》からヒコ王国に帰国後、イエロは姿を消したのである。

 その後プラタの育ての親がマクレガー・ポヤイスという悪徳商人の逆恨みを受け、襲撃された。娘で金色の人魚のオウロと、その弟である三つ子の鯛の魚人が連れ去られたのだ。

 

「……私がここにいる理由は訊かないのですか?」


 イエロが小声で言った。彼女としては気まずいのだ。何しろ船長であるプラタと仲間たちに何も言わず、ヒコ王国からはるか北にある蟲人王国《インセクターキングダム》にいるのだから。


「それは後だ。本当は勝手に抜けたお前を探すつもりはなかったが、こうして再会できたのは何よりだ。さっそくオウロとルスを助ける手伝いをしてくれ」


 プラタは彼女を責めず、ひさしぶりに再会できたという感じで頼んだ。

 イエロもこれが彼の性格だと思い直し、ため息をつきながらも承知する。


 遠くで見ると大型の馬車に数十人の人間が手錠で拘束されるのが見える。全員ろくな装備もなく、寒そうであった。

 馬車の周りは槍や巨大生物の骨で作られたこん棒を持つ男たちで囲まれている。どれも昆虫系の亜人たちで構成されていた。ハエにゴキブリ、蚊の亜人がほとんどである。


「私がオウロさんたちを見かけたのは偶然でした。本当ならウィッチヘッドを探すためだったのです」

「そうなのか。オウロたちを助けた後ゆっくり聞いてやるよ。だが今はふたりを助けねばならない。俺が囮になるからイエロがふたりを助けろ。いいな」


 プラタは命じた。イエロは無言で首を縦に振る。彼女は重い鉄の身体で素早く行動を開始した。


「ウ~ラララララ~~~!!!!!!」


 プラタは後方で暴れ出した。でべその力で背後の男たちを殴りつけたのである。

 男たちは後ろから思いっきり丸太を突かれたかのように吹き飛んだ。

 雪の上に大の字で倒れ、げほげほと血の混じった咳をする。


 突然の襲撃者に男たちは激怒した。自分たちを攻撃する奴などどこの馬鹿だと後方に殺到したのである。

 そう前方にいた連中もこぞってプラタの元へ全速力で駆けてきたのだ。囮かもしれないのに戦力を一気にプラタに注いだのである。


「でべそで拳《こぶし》ャワー!!!!!」


 鉄拳に変化したでべそで男たちを殴り飛ばす。彼らはとても体が軽かった。一撃でバキッと骨が折れ、内臓が砕ける。地面に墜落すると血を吐き出した。


 しかし彼らはまったくひるまなかった。仲間が倒れても無視してプラタに殴りかかるのだ。

 さらに倒れた者もよろよろと立ち上がり、敵目がけて突進してくるのである。


「痛い、逃げたい、帰りたい!! でも敵を絶対倒したい!!」


 そんな掛け声を上げながら男たちは立ち向かうのである。普通ならあまりの痛さに逃げ出してもおかしくない。それなのに彼らはまったく怯えないし、ひるまないのだ。


 プラタは焦ってきた。今までの雑魚なら拳ャワーで撃退できたのに、彼らはまったく倒れない上に諦めないのだ。

 精神的な構造が他国と違うのである。見た限り訓練を受けた兵士には見えない。ただの農民だ。それなのに肉体的、精神的にタフなのである。


「お願い、私たちも逃がしてよ!!」


 前方で叫び声がした。それは複数の人間が合わさった物だった。

 イエロが素手でオウロとルスの手錠を壊したのである。イエロは泣き叫ぶその他大勢に対し、手に入れた鍵を投げつけた。イエロはいつの間にか鍵を手に入れたようである。


「てめぇぇぇぇぇ!!!!!! 逃げるんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 それに気づいた男たちがプラタを無視して、槍を向けながらイエロたちに駆け寄った。

 オウロは弟のルスをイエロに託した。そして自分は敵に立ちはだかったのである。


「イエロさん、ルスを頼みます!! 私は大丈夫ですから!!」


 オウロに叱咤されイエロは姉との別れを愚図るルスを抱きかかえながら、森の中へ逃げていった。


 オウロはバンと両足で地面を蹴り上げる。すると彼女の身体は天高く飛んだ。

 そして男の頭を踏みつける。べきっと首の骨が折れて倒れた。

 男たちはオウロを殺そうと槍を突き刺そうとしたが、ぴょんぴょん跳ねて躱してしまう。


 数人の男たちを殺したが、やがて捕まってしまった。地面に落ちた彼女を男たちが寄ってたかって蹴りだした。

 

「よくも家族を殺したなぁぁぁああああ!!!!」

「てめぇはただでは殺さねぇぇぇぇぇ!!!!!」

「イノブタ相手に初体験をさせてやるぜぇぇぇぇぇ!!!!!」


 それを見たプラタは油断してしまった。

 背後から骨こん棒で頭を殴られる。さらに槍でへそを刺された。深々と刺さり、身動きが取れなくなる。

 あとはお決まりの通りだ。男たちはこん棒でプラタを殴りつけたのだ。

 

「ひゃっはーーー!!!!! 殴るのってたぁぁぁのしぃぃぃぃ!!!!!」

「やっぱり無抵抗な奴をいたぶるのは最高だぜ!!!!!」

「げひゃひゃひゃははははは!!!!!」


 プラタは頭や身体を叩かれ、真っ赤になった。顔面はぼこぼこになり、血でぐちゃぐちゃになる。

 やがて殴るのに飽きたのか、男たちは攻撃をやめた。


「さてこいつをどうしようかな~? このまま殺しちゃおうかな~?」

「いやいや、ただ殺すなんてつまらない。もっと苦しむ様にしようぜ」

「だったらこいつを磔《はりつけ》にして寒空の下に晒そうぜ」


 男たちは簡易的に木で十字架を作った。

 プラタの首と腰を蔓で縛り、手の平に木の杭を打ち込んだ。

  プラタは殴られて気絶してしまい、うめき声を上げるだけだった。

 こうしてプラタは十字架にかけられたのである。


 ☆


 プラタは風通しの良い丘に磔にされた。風が強く、雪が降っている。

 パンツと皮のヘッドギアだけで寒空に晒されているのだ。

 さらに傷口も凍り、そこから凍傷になりかけている。このままではプラタはここで命を落としてしまうだろう。


 不意に木の杭の刺さった手が動く。最初は微妙な動きだったが、やがて力強く右手で杭を引き抜いた。

 血は流れない。すでに凍ってしまっている。

 自由になった右手で左手の方も自由にした。拘束している蔓をすべてはぎ取ると、プラタは自由になった。


「うわー、すごいのだ。助けに来たのに、自力で脱出しちゃったのだ」


 幼い少女の声がした。いったい誰なのだろうと周りを見回すと、ふいに地面の方へ視線を向ける。

 それはスイカほどの人間の頭であった。カールのかかった金髪で赤い帽子に手袋と靴を身に付けている。

 相手はビッグヘッドだったのだ。野良のように歪んだ顔ではなく、きりっと整った顔立ちであった。


「……俺はプラタ。あんたは誰だ?」

「うん! あたしはロビンヘッドなのだ! あんたを助けに来たのだ!!」


 プラタは怪訝そうな顔でロビンヘッドを見た。流暢な口調である。自分の父親であるネプチューンヘッドやヒコ王国で出会ったハーメルンヘッドも同じだと思った。


「いったい誰に頼まれたんだ?」

「イエロというお姉ちゃんなのだ。今はルスという子と一緒に先生の家で休んでいるのだ!」


 どうやらイエロは無事に逃げ切れたようだ。プラタは安堵する。

 

「なんだ!? あの野郎逃げ出しやがったぞ!!」


 突然声がした。それはゴキブリの亜人だった。三人ほどいる。

 彼らはプラタの様子を見に来たのだ。とっくの昔に死んでいてその死体を持ち帰ろうとしたのだが、予想に反してプラタは逃げ出していたのである。


「許せない! 殺してやる!!」


 ゴキブリの亜人たちはこん棒をもって襲い掛かってきた。


「敵なのだ! 敵は排除するのだ!!」


 ロビンヘッドは金髪を数本抜くと、口に含み、ペッと吹き出す。


 するとゴキブリの亜人たちは動かなくなった。顔にまっすぐに立っている髪の毛が突き刺さっていたのだ。

 彼らは髪の毛の矢に刺さって死んだのである。

 どさっと雪の上に倒れた。あまりの出来事にプラタも驚いている。


「すごいなあんた。髪の毛を矢の代わりにしたのか」

「そうなのだ! あたしはヘア・アーチャーという形態なのだ!! でも窮屈だから逃げ出して今は先生の元で厄介になっているのだ!!」


 ロビンヘッドはころころと表情を変える。何を考えているかわからないビッグヘッドにしては喜怒哀楽が豊かであった。


「さあ、ゆくのだ! 先生の元でならけがの手当てができるのだ!!」


 こうしてプラタはロビンヘッドに案内されるのだった。

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