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第38話 白鯨女王と三獣士

「ひゃはははっはは!! ホッドミミルなど滅ぼしてしまえ!!


 鉛色の海に大型の船が一三隻ほど浮かんでいた。帆にはどくろのマークが描かれている。

 そして乗っている人間はどれもガラの悪い男たちだった。顔中髭を生やし、筋肉質の体には胸毛が岩ノリのように生えていた。

 彼らはホッドミミル王国の東にある緑人王国《グリーンキングダム》からやってきたのだ。

 主な活動は山や海と広く、集落があれば襲撃し、村人をすべて殺し、食料や家畜を強奪するのである。

 緑人王国では数多い部族がおり、自分が王様だと主張する者が多い。

 そのため王国内は紛争の毎日であった。ホッドミミル王国は労働力として奴隷を売りに来るのである。


「ひゃはははは!! このフセイン様が白鯨女王などぶっ殺してやるぜ!!」


 特に体が大きく、大木のような男が吠えた。彼の名前はフセインといい名の通った海賊である。略奪行為はもちろんのこと緑人王国では金次第で傭兵として斧を振るうことがあった。

 彼がホッドミミル王国を襲うのは単純な理由だ。殺したいから殺す。それだけである。

 うまくいけば白鯨女王の所持する大頭船《ビッグヘッドシップ》を奪えるかもしれない。

 戦略などない。相手が女だから一方的に凌辱し殺戮の限りを尽くせると信じているのだ。


 実際に通り過ぎたホッドミミル王国の船を沈めている。男は斧で頭を潰し、女子供は犯した後海に投げ捨て、巨大アザラシたちの餌にする。その時に泣き叫びながら逃げる姿を酒の肴にしていた。


「船長! 出てきやした。あいつが白鯨女王でさぁ!!」


 船員のひとりが叫んだ。ホッドミミルの南側にある小さな港町。望遠鏡で覗くと港には小さな山が見えた。

 それはシロナガスクジラであった。クジラが二本足で立っているのである。

 シロナガスクジラはナガスクジラ科の哺乳類だ。

全長30メートルに達するヒゲクジラで、全動物のうちで最大である。

全身が青灰色で、世界の海洋を回遊しているのだ。

 

 身体は三メートルとクジラにしては小さい。頭にパイコーンを被り、真っ赤なマントを身に付けている。さらに両手には赤い手袋、足は赤い長靴を履いていた。胸には革のベルトが巻かれている。


 彼女が白鯨女王ことピークォドであった。背後にはイルカの亜人たちが整列している。

 その中で一番目立つのがバンドウイルカの亜人である。

 バンドウイルカとはマイルカ科の哺乳類である。暖海の沿岸域にみられ、体長3.5メートルに達する。北極や南極以外に世界中の海に生息していた。

背面は黒く、腹面は白っぽいのだ。


 フセイン一味は自分たちが勝てると信じ切っている。根拠はない。自分の直感だけが正しいと思っているのだ。


 ☆


こちらはピークォドの半分の身長だ。頭には角が付いた木の帽子を被り、革のビキニを着ていた。

 ホッドミミル王国の第一王女スカアハである。ピークォドは28歳で、スカアハは16歳だ。見習いとして秘書のまねごとをしている。


「ふあぁ……。ああ、だりぃ。スカアハ、相手は誰だぁ?」


 港ではピークォドがだるそうに訊ねた。身体が大きいため脳に血液が上がりにくいのである。

 逆にスカアハはきびきびとした口調で答えた。


「はい! どうやら緑人王国のフセイン一味のようです!! まったくピークォドお姉さまに喧嘩を売るなんて信じられません!! きっと危ない薬を決めているに違いありません!!」

「スカアハ、俺の事は船長と呼べ。お姉さまなんてこっぱずかしい」

「はい、お姉さま!!」


 ピークォドはだるそうに注意するもスカアハはまったく話を聞いていない。このやり取りは何度もしており、一向に改めるつもりはないらしい。

 一応、いつもの挨拶みたいに口を出しただけである。


「ふぅ、さっさと片づけるぞ。あれもってこい」

「はい、すでに用意しております!!」


 スカアハは木箱を用意していた。中身は砲弾の玉がぎっしりと入っている。イルカの船員たちが数人がかりで運んできたのだ。


「よし、さっさと終わらせるぞ……」


 ピークォドはゆったりと砲弾を掴む。片手でやすやすと持ち上げた。恐るべき怪力である。

 ピークォドは砲丸投げの構えを取った。そしてぽいっと投げる。重い鉄の玉がまるで子供が扱う毬のように放り投げたのだ。


 遠くでフセイン一味の船が轟音を上げた。彼女が投げた砲弾が船に落ちたのである。怪力もさながら命中率もかなりのものだ。おそらく彼らは何が起きたのか理解できていないだろう。


 ピークォドは休まず砲弾を投げ続ける。どれも一発で命中し、船を次々と沈めた。

 箱の中の砲弾は次から次へと消えていく。それと同時に敵の船も波しぶきを上げながら沈んでいくのだ。

 おそらく向こうにしては悪夢を見ている気分だろう。何しろ自分たちがどういう目に遭っているかさっぱりわからないのである。


 スカアハは憧れのお姉さまの雄姿を見て、拍手を送るのであった。


 ☆


「なんだ、何が起きたんだ!!」


 フセインは混乱していた。仲間の船が突如水柱を上げて沈んでいくのだ。

 その上各船の船長たちがカエルのようにうめき声を上げて、潰れるような音を立てるのである。

 一隻ずつ沈む様は地獄風景であった。沈む船にしがみつく様は亡者のうめき声と思えた。

 聴いていると不安になる。頭が蜂蜜のようにどろどろしており、腹が鉛を飲んだように重くなった気がした。


 望遠鏡で見る限り、ピークォドが砲弾を投げている。どうやらあれが手品の種らしい。

 フセインは激怒した。顔面はみみずばれのように血管が浮き出た。


「許せねぇ。こんな舐めた真似をされて黙ってられるか!!」


 フセインは略奪が趣味だ。だが相手に舐められるのを非常に嫌う。仲間のことなどどうでもいいが、自身のプライドが逃亡を許さない。せめて相打ちに持ち込んでやろうと思った。


「俺を舐めるやつは許せねぇ!! 俺ひとりでもあいつらを道連れにしてやる!!」


 その瞬間、フセインの顔が歪んだ。ピークォドの砲弾が頭に落下したのである。

 視界は真っ赤になり、意識が飛ぶ。その際に手にしていた斧を思いっきりぶん投げた。

 それは明後日の方向へ飛んでいき、海面にぼちゃんと落ちる。


 海賊ではあるが、最後まで自分から逃げずに立ち向かった。くだらないこだわりだが、本人は満足して死んだのだ。


 ☆


「後始末は終わりましたわ、ピークォド姉さま」

「生き延びたやつは全員捕縛しました」


 数時間後、クロサイの亜人と、アムールトラの亜人が報告した。ここはホッドミミル王国より少し南にある小島、モビィディック島である。

 洞窟の中にアジトがあり、松明などが掲げられていた。酒樽や簡易ベッドが並んでいる。

 報告を受けたピークォドは木製の椅子に座って寝ていた。ふたりともそれに気づいているが周りの子分たちに伝える意味で本人を無視して報告するのだ。


 クロサイは二本足で立っている。なぜか白いゴスロリドレスを着ていた。荒々しい形相だが、どこか気品のある立ち振る舞いである。

 名前はサイクロプス。26歳。ナトゥラレサ大陸の闘神王国《ファイトキングダム》出身である。

 配下は猪の亜人がほとんどだ。


 アムールトラは胸部と腰に毛皮を巻いている。彼女の名前はトラファルガー。24歳。蟲人王国《インセクターキングダム》出身でアニトラの双子の妹だ。

 こちらは狐の亜人だ。


 それとコアラの亜人コアラーズを合わせて三獣士と呼ばれている。もっとも他人が言い出したことで本人たちはその自覚がない。


 ふたりはフセイン一味の後始末をしていた。船の残骸は片づけて、生き残りは全員捕らえ、奴隷にして売るのだ。

 港ではホッドミミル王国の住民たちが万歳をしていた。ピークォド一味は国の英雄なのである。

 人口五千人ほどしかおらず、王といってもその城は貴族の屋敷ほどしかない。

 かつては大頭船を所持していたが、現在はピークォドがイシュメル号と名付けた。目から排出される涙鉱石《ティアミネラル》を他国に売りさばき、食料を仕入れているのだ。


「ふえぇ、どうやら大事があったみたいだね」


 コアラーズが帰国した。すべては後始末が終わった後であった。いつもは副船長のユーカリの木の亜人、ユカリの上で寝ていたが、今は起きている。


「あらコアラーズさん。お仕事は無事に終わったようですわね」

「ああ、ナトゥラレサ大陸のカカオ王国からカカオを仕入れた。これで子供たちにチョコレートを作ることができるぜ」

「それは何よりですわ。わたくしもチョコレートは大好きですのよ」


 サイクロプスは嬉しそうだ。甘いものを夢想して笑顔を浮かべているが、サイだけにちょっと怖い。コアラーズも気持ち悪いなぁと露骨な態度を隠さなかった。


「ところでお前はヒコ王国に寄ったんだろ。アニトラ姉さんは元気だったか?」

「ああ、元気だよ。ペルギュン島に寄ったけどうざいほど元気だったね」

「へえ、姉さんがねぇ。何かいいことがあったのかい?」


 トラファルガーが訊ねると、コアラーズはあっさりと答えた。


「最近男と友達になったそうだよ。実際にそいつに会った。名前はプラタで大頭船を持っていたよ」


 すると女たちは黄色い声を上げた。ピークォド海賊団は男を仲間にしない。もっとも恋人や夫婦になっても問題はない。あくまで仲間になるのを禁止にしているだけである。


「大頭船ですか。ピークォドお姉さまと同じですね。どのようなお名前ですか?」


 スカアハが訊ねた。


「エルハヴァ号と言ってたぞ」


 するとピークォドが目を覚ます。いきなり起きたのでみんなびっくりしていた。


「コアラーズ、今エルハヴァ号といったな。一体どういう意味でつけたかわかるか?」

「えっと、なんだっけ?」


 コアラーズは首を傾げる。そこにユカリが代弁した。


「なんでも赤ん坊の時に命を救われた恩人の名前らしいですよ~」


 それを聞いてピークォドは頭を抱えた。まるで過去の記憶が不意によみがえった感覚である。しかも思いっきり木槌で叩き付けられたような衝撃であった。


「……まさか、18年も経ってからその名を耳にするとは……」


 ピークォドは苦々しくつぶやいた。

フセインはデンマークの殺人犯の名前です。

今回は白鯨女王ことピークォドと三獣士たちを登場させました。

名前はハーマン・メイヴィルの白鯨がモデルです。


ピークォドはエイハブ船長の船の名前です。

モビィディック島は白鯨の名前で、イシュメルは語り手の登場人物です。

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