↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/77

第34話 フィガロの都

今年最後のネーブルパイレーツですが、お正月にも投稿されます。お楽しみに。

「ここがフィガロか。初めて見るな」


 雪の降る中、プラタは毛皮を着て皮の靴を履いて町の中を歩いていた。地面は石畳で、建築物は三角屋根で二階建ての鉄筋コンクリートがほとんどで、規則正しく並んでいた。

 道幅は広く、馬車がすれ違っても余裕でかわせており、通行人も道の端を歩いていた。

 ガス灯が5メートル間隔で設置されており、かなり近代的である。


 特に目立つのが建物の屋根の下に彫刻があった。それはビッグヘッドだが目付きは鋭く鼻は鷹のくちばしのようで、牙の生えた大きな口を開いていた。

 フィガロの主神、エビルヘッドの像である。シンボルマークはEを逆さにしたものだ。

 これはエビルヘッドの名前に由来する。邪悪は英語でEVILと書く。

 つづりを逆さにするとLIVEとなる。生き延びるという意味だ。エビルヘッドはこれまでに二度死んでおり、生き返っている。ダジャレなのだがエビルヘッド教団では当然のように扱われていた。


 プラタは兵士から地図を買って、町の中を歩いた。人の出入りを調べるならシオンディ大聖堂にいけばわかると教えられた。

 もし通行人にお前は異端者かと聞かれたら、「エビルヘッド様、偉大な神です」と答えるように念を押された。実際に他宗教は大勢いるが、あまりうるさくないようである。

 教団のシンボルマークが刻まれたペンダントをぶら下げておけば大抵は大丈夫と言われた。


 途中で赤い三角屋根の白い壁の建物があった。屋根の上にはエビルヘッドの像が仁王立ちしている。教会のようだ。

 プラタは何か叫ぶ声がしたので覗いてみた。すると教会の中には大勢の人がいる。彼らはぐるりと輪を作っていた。黒いシンボルマークをあしらった修道服を着た中年男性がしゃべっている。おそらく司祭であろう。

 輪の中には植木鉢が置かれてあった。それは小さな木だ。枝には拳ほどの実が成っている。


「皆さん、祈りなさい。皆さんの祈りでエビルヘッド様の子供は舌を槍のように扱えるのです。

 そう舌《タング》の槍使《ランサー》いを生み出すのです!!

 舌の槍使い様、おいでなさいませ!!」


 司祭が叫ぶと、信者たちはおいでなさいませと声を合わせる。教会内に声がピリピリと響いた。彼らは一心に祈る。

 すると実が木の枝から離れた。実には小さな目がぱっちりと開き、口も開いた。かわいいフォークのような手足が出てくる。

 そして口から舌をちろちろと出した。それは槍のようにするどく、植木鉢に穴を開けていた。

 信者たちは大喜びである。司祭は騒がしい信者たちに静かにさせた。


「今日もまた新しいエビルヘッド様の子供が産まれました! 皆さんの祈りが新しい命を誕生させたのです。では今日のミサに来た皆様に贈り物があります。前に来てください」


 司祭は手伝いのシスターたちに命じた。木箱を持ってきて、ふたを開く。中は缶詰がびっしりと詰まっていた。

 信者たちに三個ずつ手渡しする。もらった人はとても嬉しそうであった。


「祈るだけで缶詰が三個もらえるんだ。嬉しいねぇ」

「いやいや、子供が生まれなきゃもらえないんだから大変だよ」

「でも生まれてこの方毎日ミサに参加したけど、そんな日はなかったな」


 信者たちは思い思いに口にしながら、缶詰を受け取っていた。中には子供もおり、親たちと手を繋いでホクホク顔であった。

 プラタはその場を立ち去った。


 ☆


 シオンディ大聖堂はひと際立派な建物であった。町の中心にあり、道幅もかなり広い。

 四方には大人より大きなエビルヘッドの鉄の像が立っており、建物を見守るように設置されていた。

かといって周りの建物より目立っているわけではなく、見事に街中と調和していたのである。

 これは一六〇年前に芸術家フィガロによって建築されたものだ。

 周りは兵士の数が多い。ここにはエビルヘッド教団、大司教シオンディ四世が住んでいるのだ。

 

 プラタは大聖堂の中に入った。入り口の近くにはカウンター席が設置されており、女性たちが受付をしていた。プラタはそのひとつに席を降ろす。

 目の前の女性は珍しい鳥の亜人であった。頭は青く、翼が紅い。彼女はフェニックスの亜人である。おそらくガルーダ神国出身であろう。あそこにしか鳥の亜人はいないのだ。翼は機能せず、鋭い爪を持っていた。


「いらっしゃいませ。今回受付を担当するフェニックスの亜人、エイジアでございます」


 エイジアはぺこりと頭を下げる。


「俺はプラタ。ネプチューンヘッドの息子だ!!」


 プラタが大声で言うと、一斉に周りの人間がそちらに顔を向ける。エイジアは右手の人差し指を立てて、しーっと注意する。


「プラタ様。ここではネプチューンヘッド様の名前を出してはいけません。出身国をおっしゃってください」


 ネプチューンヘッドに様付けをしていた。例えエビルヘッドと相反しても敬意を忘れないようである。


「……ヒコ王国のプラタだ。今日は人探しにやってきた」


 プラタは一通り説明をした。バグベアとゴブリンの亜人たちが自分の家族である金色の人魚のオウロと、鯛の魚人の弟たちが攫われたことを伝えた。

 エイジアはすぐに書類に目を通す。するとあるページに目を止めたようだ。


「プラタ様のおっしゃる条件に満たした方はおります。その方は二日前に鯛の魚人をひとり奴隷として転売しております。名前はアグアです」


 プラタは立ち上がった。弟が奴隷として売られている。それならすぐに買い戻せばいいのだ。


「よし、その子を買った。すぐ連れてきてくれ」

「……それが、すでに購入したお方がおります」

「なんだって? じゃあ買値の倍以上払おう。教えてくれ」


 プラタに問い質されたが、エイジアは表情を曇らせる。どうも言いずらいようであった。もじもじしており口を閉ざしている。守秘義務があるにしても、ここまで悩むものだろうか。


「おやエイジア。何やら難しい顔をしているがどうしたのかな?」


 背後から野太い声がした。語感は優しさが含まれている。

 それは巨体の豚であった。全身が黒い。イベリコ豚の亜人のようだ。


「あっ、ベルゼブブ司教様。実はこの方、プラタ様とおっしゃるのですが、ベルゼブブ様が昨日購入なされた奴隷を買い戻したいそうです」


 エイジアがベルゼブブに申し訳なさそうに言った。どうやらアグアを買ったのはこの男のようである。司教という肩書のようだ。大司教の次に偉いのだろう。エイジアが口を堅くした理由が分かった。

 プラタはすぐにパンツから皮袋を取り出す。中から宝石を出した。


「あんたが俺の弟を買った人か。買った値段の倍、いや三倍で買い取りたい」

 

 するとベルゼブブは露骨に顔をしかめた。あきらかに不機嫌そうになっている。


「確かに私は鯛の魚人の子供を奴隷として買った。それがお前の弟だというのか?」

「ああ、俺の弟だ。血は繋がってはいないが、そんなのは関係ない」

「……そうか。なら私の答えはひとつ。断ると言っておこう」


 そう言ってプラタをにらみつけた。怒りがこもった眼にプラタは気圧される。これほどの迫力を持つ者は父であるネプチューンヘッドでもいなかった。


「なぜだ。奴隷は財産のひとつだ。買った値段より何倍も増えて戻るならそれでいいじゃないか」

「その考えが気に入らない。お前は弟を金で買い取ると言ったな。それは弟を物として扱っているということだ。アグアくんは五歳だったな、そんな幼子を兄が野菜のように売り買いしたと知れて見ろ。その子の人生に悪影響を及ぼすと思わないのかね」


 ベルゼブブは真剣な目でプラタを見た。まるで針に刺されるような感覚である。年齢はプラタより三倍近い年月を生きているだろう。その時に歩いた経験がこの男に凄みを宿らせたのかもしれない。


 プラタも先ほどの言葉に一理あると納得した。なら一体どうすればいいだろうか。プラタは頭を悩ませる。

 そこへベルゼブブが助け舟を出した。


「お前が代わりに奴隷になればよいのだ。私の買った金額ほど働けばよい。お前ならすぐに稼げるだろうさ」

 

 そう提案したのであった。


 ☆


 フィガロの西にベルゼブブの屋敷があった。二階建ての鉄筋コンクリートの作りで、庭は野球ができるほど広かった。コンクリート造りの壁に囲まれているが、所々壊れており、防衛の役に立っていなかった。

 

「おーい、アグア~。ごはんだよ~」


 声をかけたのはロバの亜人であった。

 ロバはウマ科の哺乳類で肩高約1.2メートルほどある。

体形は馬に似るが、たてがみは立っていて耳が長く、尾の先に房毛をもつ。

乾燥地に生息しており、野生種アフリカノロバが古代エジプト時代から家畜化され、改良の途中でアジアノロバも関与したと言われている。

そのため体は頑丈で粗食・労役に耐えるのだ。


 ロバは女性でメイド服を着ていた。玄関で雪かきをしている鯛の亜人の子供に声をかける。頭からすっぽりと毛皮を着こんでいた。手袋と皮の長靴を履いている。

 青い鱗毛におおわれたアグアであった。


「コゼットさん、申し訳ありません。雪かきは全然進んでおりません!!」


 アグアはスコップを立てて敬礼した。コゼットと呼ばれた女性は気にしていない様子であった。


「あはは、いいってことよ。慣れてないんだからね、数をこなせばきちんとできるようになるさ」

「はい、申し訳ありません」

「うーん、かわいいね~。お父様もこんな賢くてかわいい子を連れてきてくれたから感謝だよ~」


 コゼットは嬉しそうであった。アグアの頭をなでなでする。アグアは照れていた。


 そこに馬車がやってきた。ヤギウマ六頭に牽かれた立派な馬車だ。玄関の前に止まると、車内から巨体の豚の亜人が出てきた。ベルゼブブである。


「あらお父様お帰りなさい」

「旦那様、お帰りなさいませ!!」


 アグアは勢いよく頭を下げる。その様子をベルゼブブとコゼットは微笑ましく見ていた。


「アグア、今日はお前にお客さんだ」

「お客様ですか?」

「正確にはお前を迎えに来たんだけどな」


 ベルゼブブの次に出てきたのはプラタであった。アグアはそれを見て思わず駆け出し、彼に抱きつくのであった。

 フィガロとはクイーンのボヘミアンラプソディーから取りました。

 歌詞にガリレオとフィガロがあるのです。

 悪魔ベルゼブブの名があったのは偶然でした。

 

 コゼットはヴィクトル・ユゴーのレ・ミゼラブルから取りました。


 エイジアはバンド名でフェニックスというアルバムからです。設定上鳥の亜人は出さないつもりでしたが、特定の国出身なので出しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。