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第32話 プラタは新たに覚悟を決めた

「おっさん、その話は本当か?」


 プラタはサスケに訊ねた。彼にとって仲間のイエロの身の内話はどうでもよいのだ。彼女が仲間になってくれた、それだけでいいのである。

 自分の話は酒の肴として口にすればいいと思っていた。ところがサスケの話ではイエロの村は全滅したという。これだけは聞き逃せない話である。


「本当だねぇ。もっとも正しくは十歳以下の子供以外はみんなでか頭に喰われたのさ」


 サスケの話では十年前にライゴ村は子供以外全滅したという。デカ頭ことビッグヘッドに食べられたので遺体は残らない。フエゴ教団のセバスチャン司祭と妻のベルが退治して、生き残りはフエゴ教団の本山コミエンソへ連れて行ったのだ。

 イエロはライゴ村の村長の妹であった。姉夫妻は喰われ、当時乳飲み子であった姪のホビアルだけが唯一の身内となったのである。


「まあ、イエロはラタという年の離れたアニキがおるんよ。当時は村を出て行商人になったけどな。けどアニキの世話にはならず恩人の家に居座ったという話だね」

「ラタって確かコミエンソで商会を開いた人だよな。それにスーという司祭の娘と結婚したから金には不自由しないはずだけどね」


 サスケの言葉にヒスイが反応した。商売柄ラタという人物とは顔見知りだという。コマネズミの亜人だが体に似合わず電光石火に動き回り、自分より巨大な人間にも物怖じせず交渉することで有名だという。

 ヒスイはナガレにラタの爪の垢を煎じて飲ませたいと嘆いた。


「せやな。正味の話司祭の家よりも商人の家の方にいれば銭が仰山あるさかいな。ラタが無駄遣いはさせんけどそれなりに過ごしやすいはずや」


 それでもイエロはセバスチャンの家を出なかったという。さらに女中のようにふるまい、姪にも他人行儀な態度で接したというのだ。この話はラタ自身がしたもので、本人も妹の気持ちがわからず頭を悩ましていたそうである。


 そして今年イエロは姿を消した。姪に別れの手紙を残し雲隠れしたのである。


「知らなかった。あいつの家族が亡くなっていたなんて」


 プラタは茫然としていた。イエロがそんな目に遭っていたとは思わなかったのである。

 彼女がなぜ自分の仲間になったのだろうか。どうして唯一の肉親を捨てたか。

 プラタは仲間になる条件を口にしたわけではないが、家族を捨てることだけはだめだと思った。


「はいです! 私の場合はきちんと親に話をしたです。ふーん、それじゃあねとさらっと流されたです!!」


 フビは右手を大きく上げ、声を荒げた。しかしプラタは聞いていなかった。頭の中はイエロの事でいっぱいになった。


「……プラタ。ここはひとつ、イエロは放っておくべきだ。あいつは船長であるあんたに黙って姿を消したんだからね。オウロと弟ふたりを連れ戻すことを最優先すべきだ」


 ヒスイがプラタの肩に右手を置く。イエロの行為は反乱だ。プラタに何の断りもなく船を降りたのだから。

 プラタは悩んでいた。イエロの気持ちに気づかなかったことに不甲斐なさを感じたのだ。

 ヒスイはやれやれと首を振ると、プラタの首に蹴りを入れた。


「おぶぁ!!」


 プラタは吹き飛び、近くにある木箱の山に衝突した。いててと頭を押さえて起き上がる。


「プラタ。あんたは私らのキャプテンなんだ。足抜けした仲間のことなど無視するべきだ。そうでないと私らが不安になる。ふらふらしてたら困るんだよ!!」


 ヒスイは活を入れた。コハクとフビは涙目になっている。プラタはそれを見て覚悟を決めた。


「そうだな。俺はキャプテンだ。今はオウロとアグア、ルスを助けることが最優先事項だ」

「その通り。けどイエロも黒蛇河の上流へ向かっているから途中で会えるかもね。その時にイエロの胸を思いっきり揉んでやりな。あいつに拒否権はないよ」

「まったくだ。あいつは胸に自分の想いを秘めていたんだ。おっぱいを揉んで開放してやろう」


 プラタは決意を新たにした。さてフォーゴはエルハヴァ号に乗せることにした。そしてカエル船を借りる。黒蛇河の上流は天然ダムで作られたガリレオ要塞があるのだ。

 エビルヘッド教団の兵士が見回っており、投石器なども設置されてある。

 普通に上るのは不可能だが、エビルヘッド教団の信者なら迎えが来るというのだ。


「俺はおやじからエビルヘッド教団の踊りを教えてもらった。昼間のガリレオ要塞で踊れば空から迎えが来るというのだ。そのためには俺ひとりで向かわないといけない。だからカエル船を用意し、いざとなったらそれで逃げるんだ」


 プラタが説明した。だがコハクは納得できない。


「あのね~、プラタがそこに行ったらコハクたちは何をすればいいのかわからないの~。コハクなら壁や地面と一緒になれるからついていけるの~」


 その案をプラタは拒否する。


「それはできない相談だ。コハクならそれは可能かもしれないが、何が起きるかわからない。お前は船に残ってほしい。そしてフォーゴを守ってほしいんだ」

「う~ん、残念~」


 コハクはしょんぼりした。コハクは自分の身体を壁や地面と同化はできる。しかし不死身というわけではないのだ。刃物を刺されたら死んでしまう。

 向こうでは銃火器はあるだろう。銃弾でお垂れる可能性もある。

 仲間を信頼してないわけではない。むしろ彼女たちがいるからこそ弟をまかせられるのである。


「私としてもコハクに行ってほしくないね。情けないけどプラタの方が世間をよく知っている。私らだったら何をしでかすかわからないからな」


 ヒスイも納得した。フビも一緒である。

 そうと決まれば今日はジライア村で泊まることにした。布団の中で眠りきちんとした食事をとることが大切だ。それと携帯食を買うのも忘れない。


 晩飯は米の飯にタイワンシジミと豆腐の味噌汁。ブラックバスの塩焼きにきんぴらごぼう、青菜のおひたしが出された。

 プラタは世界中を回っているため、米の飯は久しぶりであった。ヒスイとコハクも懐かしい故郷の味にほっとした表情を浮かべている。フビもパンより米の方が好きだという。

 代わりにフォーゴは難色を示した。箸など使ったこともなくヒコ王国の味付けになれた彼は興味本位で食したが、淡泊すぎる味付けに対し、良い顔にならなかった。味付けの濃い食べ物のほうが好きなのである。


 ヒスイとコハクの実家には寄らなかった。彼女らの母親はナメクジの亜人で一度家を出たからという理由で敷居を跨がせなかった。その代わりに手作りのおはぎを渡してくれたのだ。


 食事をとり、風呂に入った。気分もさっぱりする。フォーゴは二階の部屋にいて浴衣を着ており布団の上に乗っていた。


「おお兄者! ここの村は珍しいでござるな!! 木と紙でできているのにとてもつよいでござる!! 拙者の家とはぜんぜんちがうでござるよ!!」


 フォーゴは興奮していた。いや強がりを言っているのだ。今まで生まれ故郷のヒコ王国を出たことがなかった。それなのに人さらいによってここまで連れてこられた。

 おそらくバグベアの亜人マクレガーは犬猫のように扱ったのだろう。首の周りにかすり傷が見えたが、プラタは無視した。


「兄者、いつものアレをやってほしいでござる!!」

「ああ、いいとも」


 プラタは大の字に寝転がった。そしてへそに力を入れる。でべそは大きな右手となった。

 フォーゴは手の平に乗ると、プラタは腹に力を入れ、上下運動を始める。

 いわゆる高い高いだが、こちらは腕よりもさらに高く上げることができる。

 

 フォーゴは楽しそうに笑っていた。プラタは仰向けになりながらそれを眺めている。

 そこに熱い水滴が落ちてきた。フォーゴの涙だ。

 彼は兄と遊んでいる最中に思い出してしまったのだ。弟のアグアにルス、姉のオウロを。

 

 特にアグアとルスは生まれてから離れ離れになったことはなかったのである。自分だけがプラタと一緒にいて安堵している。その罪悪感が今になって押し寄せたのだ。


 フォーゴの目から滝のように涙が零れ落ちる。プラタは優しくフォーゴを降ろすと抱きしめた。

 

「フォーゴ、兄ちゃんにすべて任せろ。俺がお前らの期待を裏切ったことなど一度もなかっただろ」

「うん、うぅぅ」


 フォーゴは一晩中泣き続けた。泣き疲れた後ヒスイが部屋に入ってきて毛布をそっと掛けたのである。


 ☆


「それではプラタの旦那、お嬢たちをよろしくお願いいたしやす」


 ジライア村の港ではワライガエルのアチャコを始め、ノミのサスケが見送りに来ていたのだ。

 遠くでは着物を着たナメクジの亜人に、二歳ほどのヤドクガエルが裾をぎゅっと握っている。

 彼女はヒスイとコハクの母親で、ヤドクガエルは妹のアマだ。ちょっと離れた場所にはナガレガマガエルの男が立っていた。彼が弟のナガレであろう。どこか頼りない感じがする。


「すまないなお前ら」


 プラタはエルハヴァ号でヒスイたちに謝罪した。


「本当ならフォーゴはこの村で預けるべきなんだ。だが俺はこいつをひとりぼっちにさせたくない。俺のわがままだが勘弁してくれ」


 プラタは自分の足にしがみつくフォーゴの頭を撫でた。


「構わないさ。いざとなれば私らもこの子を守る。ゲン担ぎに胸を揉んだらどうだい?」


 ヒスイが珍しく提案した。だがプラタは首を横に振る。


「だめだ。俺はオウロとアグアとルスを救うまでおっぱいを揉まない。例えお前らが俺の前にいなくても絶対に約束を守る」


 プラタの宣言にヒスイたちは目を丸くした。

 おっぱいを触らない。プラタにとっては耐えがたい制約であろう。彼女たちはこの男がそれほどの覚悟を決めたと感じたのだ。


「あのね~。コハクはがんばるんだよ~」

「そうです! 私たちがいればなんだってできるのです!!」


 コハクとフビも檄を飛ばす。エルハヴァ号の後ろには巨大なウシガエルの背に小舟が括りつけてあった。

 これがカエル船である。


「さあ行くぜ!!」


 プラタは気合を入れるのであった。

タイワンシジミとブラックバスは外来種です。

タイワンシジミは濃い味付けをして食べるそうです。

残念ながら私は外来種を食べたことがないので妄想するしかないですね。

ネットで外来種の調理法とか調べております。

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