第26話 殺しの女王
「俺たちを逮捕するだって?」
プラタはブルドッグの亜人をにらんだ。視線の槍で突き殺しかねないが、ブルドッグの軍人はまったく動じない。まるで子供に絡まれたくらいにしか感じてないようだ。
「その通りです。罪状はハロルド・ウエスト大尉殺害と、ディープ・ツェッペリン会長を含めた家族を脅迫した容疑です」
ブルドッグことローリング・パープル少佐は涼しい顔で答えた。そこにトロルの亜人であるディープ会長が抗議した。
「どっ、どういうことなんだな。めっ、めちゃくちゃなんだな!!」
彼は興奮しており、さらにどもりがひどくなっていた。
そもそもローリング少佐の行動は異常なのだ。海軍大尉の殺人容疑を大衆の面前で堂々と大声で言ったからだ。
さらにディープ会長一家が脅迫されたなど事実無根である。
「ツェッペリン会長。あなたは被害者です。彼らによって脅迫され、家族を人質に取られたあなたは仕方なく言いなりになっていたのです。
さらに親戚であるレッド・ストーンズ少佐が偽りの報告をしたのも、あなたの家族を守るためでした。よってストーンズ少佐に何のおとがめもありません。
あるとすれば憲兵団准将、ビヨンド・ハッシュ氏ですね。ハッシュ准将は今回の失態の責任を取り、大佐へ降格されました。本日の夕刊に載る予定です」
「びっ、ビヨンド兄さんが!? なっ、なんで兄さんが責任を取るんだな!!」
ディープ会長はさらに興奮していた。聞く話によればビヨンド・ハッシュ准将は彼の兄のようである。
「話は終わりだ。プラタとその仲間たちを捕らえよ。ただしプラタ以外は女性なので手荒に扱うことは許されない。以上だ」
兵士たちはプラタに手錠を付けた。ヒスイたちにも付けたが極めて紳士的であった。
プラタたちは護送蟲車に乗せられる。通常の蟲車より三倍以上横が広がっていた。車を牽くカブトムシも六匹である。
こうしてプラタたちは護送蟲車に乗せられたのだった。
「まったくこの手錠は腹が立つね。これじゃお前らのおっぱいを揉めないじゃないか」
「揉まなくてもいいよ。というか揉んだら蹴るからな」
「あのね~、コハクは不安だよ~、プラタ、おっぱい揉んでよ~」
「コハクさん。女性が自分を安売りするのは感心しませんね」
「はいです! イエロさんはプラタに胸を揉まれる安心感が理解できてないのです!!」
護送蟲車の中は賑やかであった。車内に窓はない。真っ暗である。
ゴトゴト石畳の上を走っているが、衝撃はそれほどでもない。蟲車にはサスペンションが施されており、揺れの衝撃を逃がしているのだ。
それ故に座ってもそれほど尻は痛くならないのである。
「それにしても奇妙だな。海軍が同僚の死を公に口にするなんてな」
プラタが呟いた。彼はある程度父親であるネプチューンヘッドからこの国の海軍の特徴を教えてもらっている。
ハロルド大尉が本物だとすれば彼の所業を調べなければならない。それを暴露するなどありえないのだ。
「はいです! それとディープさんの扱いも変です!! あくまで被害者としての立場を強調していたのです!!」
フビが手錠に繋がれたまま手を挙げた。
ツェッペリン一家はプラタに脅迫された被害者として扱われていたのだ。それとレッド少佐も同じである。
今回の責任者はビヨンド・ハッシュ准将にあるらしい。話によればディープ会長の兄だとわかるが、どういう人物かわかっていないのだ。
「さあ、降りてもらおうか!!」
数時間後、蟲車に乗せられてたどり着いたのは意外な場所であった。
ローリング少佐が声を出し、プラタたちに下車を命じる。
それは立派な造りの宮殿である。街中になったビッグヘッドで作られたのがわかった。
町と違って、まるでおとぎ話に出て来るような風景である。
「こいつは、マーキュリー宮殿じゃないか。なんでこんなところに来たんだ?」
「女王陛下が君たちに会いたいと要望されたのだ。手錠は外すが、逃亡は考えない方がいい」
ローリング少佐がプラタたちの手錠を外す。周りはビッグヘッドたちが囲んでいた。
鉄兜を被ったように見えるが、実際は硬い皮膚でできている。背中には赤いマントがなびいているがこちらは髪の毛だ。
ナイトヘッドという護衛のためのビッグヘッドである。舌は三又の矛のような形で相手を攻撃するのだ。タング・ランサーというタイプだ。
それが規則正しく、並んでいる。さらにナイトヘッドより足が細長いタイプもいた。こちらは足がハルバードのように武器になるのである。
レッグハルバードというビッグヘッドだ。
おそらく大勢いるのは一番下のプラムクラスだが、指揮をするバンブークラスもいるだろう。
プラタは戦って負ける気はしないが、ヒスイたちがいるので控えている。
さてプラタたちはローリング少佐に連れられて王座の間に来た。
巨大な樹の中に入ったような感覚であるが、内部にある調度品は赤いじゅうたんに金の燭台、さらに絵画にカーテンなどが飾られ、シャンデリアも天井に下がっていた。
「よくぞいらっしゃいました。わらわがクイーンヘッドです」
恭しい口調で挨拶をするのはビッグヘッドであった。
金の冠を模った鶏冠に、金髪の髪の毛。美しい顔だが巨大で手足がちょこんとついているのが不気味である。
もっともプラタにとっては慣れ親しんだ顔であった。
「おっ、クイーンヘッド。ひさしぶりだな。元気にしてたか?」
「きっ、貴様!! 女王陛下に対して無礼であるぞ!!」
ローリング少佐は激怒してプラタにつかみかかろうとしたが、クイーンヘッドが止める。
「よいのです。プラタは子供の頃からネプチューンヘッドの息子として交流しております。わらわとしてもプラタとは気楽に接したいのです」
「ううっ」
口調は柔らかく優し気であるが、言葉には有無を言わせぬ力強さも感じられる。
睨んだだけで人を殺せそうな眼光であった。
彼女は殺しの女王と呼ばれており、目から火薬にゼラチンを生み出し、太陽光を蓄光したレーザービームも放てるのだ。
「そもそも女王陛下はなぜ私たちを宮殿へ呼んだのでしょうか?」
ヒスイが訊ねた。そもそもプラタたちは海軍大尉の殺害容疑として連行されたはずである。なぜこの国のトップに会いに来たのかわからない。
「わらわがあなた方に謝罪をするためです。誤解を解くためにね。そうでしょう、ビヨンド・ハッシュ大佐」
クイーンヘッドに言われて、背後から男がひとり現れる。それは前身毛むくじゃらの巨漢であった。
毛むくじゃらのドワーフ、スプリガンである。
「初めましてキャプテンプラタ。私はビヨンド・ハッシュ大佐である」
声質からして五〇代は超えているようだ。だが口調はきちんとしており、きびきびした印象がある。
「誤解とはどういう意味ですか?」
イエロが訊ねた。ビヨンド大佐は咳払いをしてから説明を始める。
ハロルド・ウエストは前々から調査をしていた。ポヤイス商会と結託し貿易船を襲撃しては自国民だけでなく外国人を殺害することに女王陛下は怒り心頭であった。
静かに証拠を集め、ハロルドからすべての権利を永久に抹消することが決定したのである。
それはプラタたちが妖精王国へ向かう時に決まっていたのだ。ちょうどハロルドが出港しており、帰還したときに逮捕する手はずになっていたのである。
ところがハロルド・ウエストはプラタたちによって殺害されていた。元々彼は死刑になってもおかしくない罪状故に問題はないが、あるとすればディープ会長であった。
彼らはハロルドがただの犯罪者になったことを知らない。よってディープ会長とその家族を脅迫しているかもしれない。
憲兵団のレッド・ストーンズ少佐はディープ会長の姉であるスパイスと結婚していた。親戚なのだ。何も知らないプラタたちを泳がせ逮捕することが今回の目的だったのである。
「そいつはおかしいな。大佐さんよ」
プラタは睨んだ。ビヨンド大佐は平然としている。
「昨日の時点であのガンコナーが海軍でないなら、なんでレッドさんはそれを知らなかったんだ? そもそもあの時点で教えても問題はないんじゃないのか?」
確かにその通りである。レッド少佐がハロルドは海軍でないと知っていたなら、わざわざ別人だと答えるわけがない。そのまま「こいつはすでに海軍じゃない」と答えればいいのだ。そうすればプラタたちがディープ会長を脅迫するなど回りくどいことをする必要はない。
「本当に機能の時点で抹消されたのか? 本当は今日じゃないのか?」
プラタは畳みかける。普段はおっぱい好きで軽くみられるが、この男は基本的にスペックが高い。いわゆるチートと呼ばれるほどの実力者だ。おっぱい好きのせいですべてが残念に映るのである。
「ふん、しょせんはデカ頭に育てられた蛮族だな」
ビヨンド大佐が侮蔑するようにつぶやいた。それもヒスイたちに聞こえるようにだ。
「その発言は女王であるクイーンヘッドを侮辱する言葉じゃないのか? 彼女もあんたが蔑むデカ頭だぜ」
「うむ。その通りだな。思わず口が滑った。やはり育ちの悪い私はすぐぼろが出る。陛下に申し上げます。ただいまの暴言の責任を取るため、約一か月の謹慎を命じていただきたい」
軍人が自ら謹慎を求める。どこか異様なものをヒスイたちは感じた。ローリング少佐は慌てふためている。なぜ責任を取る必要があるのかと問うているのだ。
「覆水盆に返らずという。一度出た言葉は吐き出した空気を吸って戻せというものだ。私はプラタ殿だけでなく女王陛下も侮辱したのだ。その責任を果たさねばならない」
そう言ってビヨンド大佐はプラタたちに命じる。
今回はこのまま見逃すが二度と妖精王国への入国は禁止するという。約半年後には建国記念祭が行われるため、騒ぎは起こしたくないというのだ。
すべてはポヤイス商会の会長マクレガーと、ハロルド・ウエスト元大尉の責任なのにヒスイたちは納得がいかないようである。
あとプラタたちが卸売市場で購入した品物はすべてエルハヴァ号に積んであるという。そのまま蟲車に乗り、出国してほしいということだ。
「あとこれだけは言っておこう。弟のディープを守ってくれてありがとう」
そう頭を下げたビヨンド大佐は初めて優し気な雰囲気を漂わせていた。
ビヨンド・ハッシュは、元ディープ・パープルのメンバー、ロッド・エヴァンスが作ったキャプテン・ビヨンドから取りました。
ハッシュはディープパープルのアルバムからです。
マーキュリー宮殿はそのまんまクイーンのフレディ・マーキュリー氏からです。
キラークイーンはジョジョが有名ですが、歌詞はまさにそれなんですね。




