第25話 地獄へ道連れ
「これは圧倒的ですね……」
全身が鉄に覆われているイエロが感動の声を上げた。
ここは妖精王国の卸売市場である。コロシアムのように巨大な建物で、中には数多くの人間が大勢うごめいているのだ。
扱う品も衣服に医療品、様々な家具や機械などが所狭しと並べられている。もちろん食料品も扱われていたが、そちらはぱっとしない。
大豆にひよこ豆、大麦にライ麦などがそろえられていた。この国ではあまりよい作物は育たず野菜などは輸入品に頼っているのである。
「これでもまだ少ない方だぜ。俺が前に来たときはもうお祭りみたいな熱気に包まれていたよ」
「それをポヤイス商会が自分の利益を得るために、他人の妨害を繰り返していたのですね」
懐かしむプラタに対し、イエロはつぶやいた。
ポヤイス商会のマクレガーは貿易の利益を独占するために邪魔な紹介を潰して回っていたのだ。
海軍のハロルド・ウエスト大尉を抱き込み、自分に逆らう者は容赦なく国外で始末してきたのである。
特にハロルド大尉は大の外国人嫌いで、貿易でも外国人が入国することに嫌悪感を抱いていたようだ。そして彼らを皆殺しにし、積み荷はマクレガーの部下であるピヤー一味に預けたのである。
国内では輸入品の品薄に悩まされており、マクレガーはそれを利用して大儲けしていたのだ。乗っ取った商会は自分の部下たちに乗り込ませ好き勝手にやらせていた。
粗悪品が出れば元の主の責任になすりつけ、自分たちは安全な場所で高笑いをしていたのである。
「まあ、あのむかつく男は殺したからいない。あの商会もおしまいだな」
プラタがつぶやくと、遠くで女性の声が聞こえてきた。
叫んでおり、誰かを呼び止めるようであった。
「おじさま!!」
そういってトロルの亜人であるディープ会長に抱きついたのは、ベニテングタケであった。真っ赤な傘に真っ白い肌。後頭部は髪の毛が短く刈り揃えてある。
着ているのは白地のセーラー服に黄色いスカーフを締めていた。下半身は紺色の身体に密着した布を身に着けている。
足は厚手の靴を履いていた。
「おお、バナナラマ!! ひっ、ひさしぶりなんだな!!」
ディープ会長は抱きついた相手が誰だか理解すると、破顔になった。どうやら知り合いのようである。
「バナナラマというとレッド少佐の身内の名前でしたね」
「はい! 自分はバナナラマ・ストーンズ二等兵であります!!」
ヒスイが言うと、バナナラマは敬礼した。プラタはいきなり彼女の前に立つ。
「あんたおっぱいを揉ませてくれ」
「はい、どうぞ」
即断で了解され、プラタはバナナラマの胸を揉んだ。見た目は十代後半だが、あまり実りが少ないようである。それでも生命の息吹が強く、揉んでいて思わず手が暖かくなった。まるで太陽の恵みを胸いっぱいに浴びているようである。
「お前は何をやっとるんだ―――!!」
ヒスイの延髄蹴りが炸裂した。プラタは吹き飛ぶ。胸を触られたバナナラマは呆気に取られていた。なぜプラタが攻撃されたのか理解できないからである。
「あなたは男性を相手に胸を揉むなんてどうかしてます。節操無くなるとは思いませんでした」
イエロが呆れていた。
「ええ~、この子男なの~? すごくかわいいけど~~~」
「そうですよ。キノコの亜人は大抵毒キノコ系だと男性と相場が決まっているのです」
コハクが不思議がるのをイエロが説明した。ところがバナナラマはそれを否定する。
「違うです。自分は立派な女性です。ベニテングタケの亜人だけど股間にキノコは生えてないのです」
彼女は敬礼しながら答えた。ヒスイは目を疑ったが、バナナラマは彼女の手を掴み、自分の股間を触れさせた。
見事につるつるである。女性なのは間違いないが、確認の仕方が間違っていると思った。
「ほらな。俺はおっぱいを間違えたりしないんだよ。彼女は立派な女性だとな!!」
プラタが復活した。彼は最初からバナナラマが女性だと見抜いていたのだ。もっともヒスイは謝罪する気持ちなどない。
「ベニテングタケとかツキヨタケは性別がぶれることがあるのです。男に見えて女性だったり、そのまま女性だったりするケースがあるそうです」
バナナラマは答えた。ベニテングタケは毒キノコだが致死量は低い。精々幻覚を見る程度だ。とある地域では何か月か塩漬けにしてその日のうちに炊き込みご飯か、鍋に入れて食べることがあるという。
もちろんその特徴はベニテングタケのみであり、塩漬けにしても毒キノコの毒に変化はないのだ。
「それよりもおじさまが無事でよかったです!! 今朝同僚が新聞を読んで教えてくれたけど、ヒコ王国でポヤイス商会の会長が逮捕されたのです!!」
そういってバナナラマは一枚の新聞を取り出した。そこにはヒコ王国での出来事が書かれてある。
プラタたちが出港した後、妖精王国の駐在武官、フリードウッド・オアシス少将とヒコ王国騎士団の合同で逮捕に踏み切ったらしい。
「フリードウッド様は少将でしたか。とても意外ですわ」
イエロは彼の階級に驚きを隠せなかったが、プラタは平然としている。おそらく他人のことなどどうでもいいのだろう。
最初バグベアの亜人であるマクレガー・ポヤイスは抵抗した。だが違法で扱っていた奴隷を発見され、言い逃れはできなくなったという。
ポヤイス商会のゴブリンたちも全員捕縛された。彼らはヒコ王国の法律に裁かれ、南方にあるナトゥラレサ大陸に犯罪奴隷として働かされるという。娯楽もなく、生涯を農作業で終わるのだ。
新聞には初めて見るバグベアのマクレガーが泣き叫びながら自分の無実を訴える写真が大きく載せられていた。
「そうです。この人は他人の不幸を笑いものにしていたのです。なんともいい気味です!!」
フビはマクレガーの不幸をあざ笑った。彼女はポヤイス商会のゴブリンを尾行し、マクレガーの顔を見ていた。その時の憎たらしい顔は忘れられなかったのだろう。
「……おかしいな。ハロルドの事が書かれていない」
ヒスイは新聞を読んだが、ポヤイス商会の会長が外国で逮捕された話だけで他は何も書かれていなかった。
ちなみに妖精王国とヒコ王国は電話線が引かれており、電話やFAXが完備されている。レスレクシオン共和国のフエゴ教団から購入したものだ。だから数日前の海外の情報が一日足らずでもたらされるのである。
「そっ、それは当然なんだな。かっ、海軍が自分の身内の恥を、さっ、晒すわけがないんだな」
ディープ会長が補足した。持ってきた新聞は朝刊で記事になるとすれば夕刊になるだろう。そこでの見出しはハロルド・ウエスト大尉の偽物現れるで済まされるはず、彼はそう思った。
さてプラタたちは市場を見回した。ディープ会長からもらった報酬で珍しい衣服や家具を片っ端から購入する。こう見えてもネプチューンヘッドと共に世界各国でいろいろな高級品を見たり手にしたりしているのだ。鑑定眼はそこら辺の大人より上である。
「ちなみにこの国の通貨は紙幣がビスで、貨幣がエルだ。今は一ビスはヒコ王国だと百テンパだな。エルは百枚で一ビスになる。注意してくれ」
「ありがとうございます。さすがはプラタ、通貨事情に詳しいですね」
イエロは素直にお礼を言った。その直後にプラタがおっぱい触らせてくれと言い寄ったので顔面に鉄建を食らわせる。
ちなみにテンパはレスレクシオン共和国でも使用されている通貨だ。実際はヒコ王国が五十年前から始めており、フレイヤ商会が二十数年前から導入したのである。
紙幣のデザインは三角湖のツナデ村の職人が手掛けていた。ヒコ王国が依頼したのである。
イエロは保存食や調理器具を、フビは医療品を見て回っている。ヒスイとコハクはヒコ王国やレスレクシオン共和国には売っていない品物を見ていた。
ちなみにバナナラマは無許可で抜け出したらしい。ディープ会長は姪を叱ると早く帰宅するように促した。
彼女は妖精王国が所有する大頭船、シュガーベイブ号に乗船しているとのことだ。
周りの人間は妖精王国がほとんどだ。外国人で人間であるプラタは悪目立ちしている。
「なんだありゃ、肩がメロンみたいに大きいぞ」
「脚はまるでゴリラだ。しかもカーフがでかいよ」
「グレートケツプリだな。あんなプリプリしたケツは見たことがない」
「背中に羽が生えているみたいだ」
全員プラタの筋肉を見てつぶやいていた。プラタとしては筋肉より自分のへそを褒めてもらいたいのだが、こればかりはどうしようもない。
コハクとフビが慰めの声をかけているが、ヒスイとイエロはどうでもよさげである。
「ウォッホン、ここにエルハヴァ号の船長であるプラタとその仲間たちはおりますかね?」
突如大声が響き渡る。それは軍服を着たブルドッグの亜人であった。
もともとブルドッグは犬の一品種で妖精王国の全身であるイギリスが原産の中形ないし小形犬である。
もと牛と戦わせるために改良されており、頭部が大きく、受け口の恐ろしい顔つきをしているが、性質はおとなしいのだ。
目の前に立つブルドッグは中肉中背だが顔つきは軍人らしく厳しいものがある。背後には軍服を着たコボルトたちが整列していた。
「自分は妖精王国憲兵団、ローリング・パープル少佐である。もう一度問う、キャプテンプラタとその仲間たちはおりますかな?」
「俺がそうだけど」
プラタは名乗り出た。するとローリング少佐は右手を上げ、部下に命じる。
「君たちをハロルド・ウエスト大尉殺害と、ツェッペリン一家脅迫の疑いで逮捕する」
通貨のビスとエルはエルビス・プレスリーから取りました。
イギリスのロックはエルビスに影響されたからです。港町の名前がプレスリーなのもそのためですね。




