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第22話 君を愛するために僕は生まれた

プラタたちは妖精海軍大尉、ハロルド・ウエストの軍艦を調べた。

 船内には誰もいない。マーリンヘッドというビッグヘッドがいたがプラタたちがすべて倒したからだ。

 特にプラタに護衛を依頼した商人ディープ・ツェッペリンは手際よく船内を捜索している。そして船長室にある書類を調べていた。


「やっ、やっぱりなんだな……」


 ディープ会長は一枚の紙を見て悲し気に呟いた。

 それは海軍の巡回路を記した物である。どの船がどの航路を何時に通るかを書かれていたのだ。

 当たり前だが普通はこんなものは存在しない。例え同じ海軍でも巡回路を教えるなどありえないのである。


「おっ、おそらく、うっ、ウエスト大尉は、すっ、スパイを使ったんだな。そっ、それを、じっ、自分で使うか、ぴっ、ピヤーに報告するかにしたんだな」


 ディープ会長はどもりながらも語尾に怒気を含ませていた。

 おそらく真相はこうなのだろう。ハロルド・ウエスト大尉は他の軍艦の巡回路を手に入れた。

 そして自分の管轄を離れその隙に他国の船を襲撃する。証拠を一切残さないよう船を沈め積み荷を奪い、女は奴隷として捕らえたのである。

 もちろん戦利品はそのまま本国に持ち込めるわけがない。手を組んだピヤー一家のアジトに置いていくのだろう。そして金をもらっていく。


 彼はマクレガー・ポヤイスと手を組んでおり、貿易の利益を独占していたのだ。

 おそらく憲兵団にもハロルド大尉の手先が紛れ込んでいるに違いない。


「全部、会長さんの言った通りだな。まさかこいつらがこんな強硬手段を用いるとは思いもよらなかった」

「まったくですね。会長さんの見る目は確かのようです」

「どもりのせいで安く見られるんだな。全く口惜しいぜ」


 プラタはつぶやいた。それにイエロも同意する。


 ヒコ王国で自宅のロウソク屋にディープ会長と会談したとき、彼は一枚の紙を見せたのだ。


『表で誰かが見張っている。それを尾行してほしい』と書かれてあった。


 プラタはすぐにフビに外の方を指さした。彼女は無言でうなずきこっそりと外へ出る。

 そして食事が終わるとフビが返ってきた。

 相手はゴブリンで、ポヤイス商会の従業員であったこと。マクレガー会長はディープ会長を嫌っており、海軍大尉のハロルドに襲撃を依頼したことなどべらべらしゃべっていたという。

 さらにヒコ王国では無許可の奴隷を扱っていることも調べがついたのだ。


「はいです。とてもひどかったです。あんな吐き気のする人たちを見たのは生まれて初めてなのです!!」


 尾行をしたフビは憤りを感じていた。滅多に怒らない彼女がこうなのだ。他の面々も同じ気持ちになるだろう。プラタは落ち着けと言って胸を揉もうとしたがヒスイが脳天にかかとを落として止めた。


 そこでディープ会長はすべてを話した。ここ最近船が行方不明になっており、ポヤイス商会だけが肥えていることに疑問を抱いていた。

 さらに憲兵団に訴えた者がいるのに、ろくに調査もしないので疑問は核心に変わった。


 海軍にポヤイス商会と組んでいる者がいる。その者は人の道を外れた所業を行っていると思った。

 ただしマクレガーはピヤーが死んだことを全く知らなかった様子だ。おそらく相手を極端に見下し、情報収集などする気がないのだろう。むしろ備えようとする部下がいれば怒鳴り散らす性格なのだ。

 

「しかし海軍に所属しているくせに海賊の真似をするなんてとんだクソ野郎だね」


 ヒスイは腕を組みながら罵倒していた。自分たちも海賊だが権力を笠したやり方は好みではない。


「海軍と海賊は表裏一体だ。国に雇われたか否かで決まる。俺たちも似たようなものだ」


 プラタは言った。彼もヒコ王国から私掠船の免状をもらっている。ヒコ王国の領域なら海賊行為を働いても無罪放免になるのだ。もっとも殺されても一切関知されない点もある。

 ヒスイはプラタを無言で見つめた。この男は覚悟を決めている。だからこそ胸に触りたがる悪癖が治らないことが残念でならない。


「はっ、ハロルド大尉は、しっ、島国根性が、ひっ、ひどいんだな」


 ディープ会長はぽつりとつぶやいた。長く説明しないのは妖精王国においてハロルド大尉は珍しい存在ではないと言いたいのだろう。むしろディープ会長のような人格は珍しいのかもしれない。


 もっともプラタたちにとっては彼の性格は好きだ。


 さてディープ会長の指示で軍艦は沈めることにした。そしてハロルド大尉の干からびた死体は樽に詰める。こうしてプラタたちは妖精王国へ向かうのであった。


 ☆


 妖精王国にある港町、プレスリーはさびれていた。何しろまともな船はポヤイス商会しかないのである。労働者たちもその関係者しかおらず、小柄で弱そうな妖精たちは彼らに弾き飛ばされていた。


 そんな中にひとりのコボルトが見張り台で望遠鏡を覗いていた。コボルトは全身に犬のような毛が生えた妖精である。

 彼は一隻の船を見つけた。ポヤイス商会の物かと思ったが掲げている旗が違う。

 それはツェッペリン商会の旗だ。丸が三つ重なったデザインである。


 コボルトは甲板に目をやった。そこにはトロルの亜人であるディープ会長が立っていたのである。

 コボルトはそれを見て興奮した。


「ディープさんだ! ディープさんが帰ってきたぞ!!」


 コボルトはそう叫ぶと、ぼろ小屋からたくさんのコボルトとブラウニーが飛び出してきた。彼らはツェッペリン商会の従業員なのだ。

 その中でひと際美しい女性が現れる。金色の長髪でとんがった耳に黒い体にフィットしたドレスを身に着けていた。


 リュナンシーの亜人であり、ディープ会長の妻、クリーム・ツェッペリンである。

 彼女の横には彼女そっくりの男の子にトロルの女の子が両足によりついている。自分の子供だろう。

 その顔は明らかに愛する人が無事に帰ってきてくれたことの喜びに満ちていた。


 エルハヴァ号は港に到着した。そしてコハクとイエロが荷下ろしをする。イエロは体重が常人より重く、それ故に荷下ろしには最適だったのである。

 そこにコボルトとブラウニーたちがやってきた。プラタの乗るエルハヴァ号が大頭船《ビッグヘッドシップ》と理解したときは驚いたが、主の帰還に対する喜びが勝っていた。


 ディープ会長は従業員たちに声をかけていく。そして従業員たちが海賊に襲われて命を落としたと首を垂れたときは、クリームがやってきて慰めた。

 ディープ会長に子供はふたりしがみついてくる。ひさしぶりに子供たちに出会えて優しい笑顔になった。プラタたちもほっこりする。


「あんたが帰ってきてくれてあたしもうれしいよ。子供たちもあんたが無事で喜んでいる。こまごました仕事はあたしにまかせて、あんたはこの子たちの相手をしな」


 クリーム夫人は蓮っ葉な物言いであった。美しい顔だが口調はどうも合わない。

 ちなみにリャナンシーは詩人などに憑りつく妖精だ。才能の代わりに生気を吸い取るのである。なので早死にする詩人はリャナンシーの恋人と揶揄されていた。

 代わりに男がなびかない場合、リャナンシーは男を振り向かせようとするらしい。クリームがディープ会長に惹かれるのはそのためかもしれない。


「あのね~、おっぱいを触らないの~」

「彼女は人妻だ。それに子供がいる。あのおっぱいはその人たちの物だ」


 コハクが訊ねたがプラタは否定する。彼にも信念があり、人妻や子持ちの女性の胸だけは触らないようにしていた。逆に育ての親である鯛の魚人のアマーベルだけが例外である。


「おうおう! てめぇら邪魔なんだよ!!」


 突然怒鳴り声がした。それは犬の妖精、クー・シーであった。巨大な犬が二本足で立っているような亜人である。

 彼らは愛嬌などなく人を威嚇するような表情を浮かべていた。

 ディープ会長とクリームは表情が曇った。おそらくポヤイス商会の人間なのだろう。


「なぁ、ディープさんよぉ。今までこの港でうち以外無事だった船はいないんだ。それがなんであんただけ無傷でたどり着けたんだい? こいつは絶対におかしいよねぇ?」


 黒い牙を生やしたクー・シーが絡んできた。嫌味を言い、後の連中も同じように笑う。


「何言ってるんだい? むしろポヤイスの船だけ無事なのが怪しいんじゃないか。それにうちの人は海軍に化けた海賊に襲われたんだ。労をねぎらってほしいね」


 クリームが反撃する。黒クー・シーは顔をしかめた。それに彼女の言葉が気にかかる。


「海軍に化けた海賊だと? いったい誰の事だ?」

「ハロルド・ウエスト大尉だよ。大尉の巡回路でもないのに、大尉を名乗ったらしいね。他の船員はみんな始末したけど、偽物の死体だけは保存したらしいよ」

「なっ、なんだと!!」


 クリームが説明する。彼女はディープ会長の説明をさらりと聞くとすべて理解したのだ。

 それを聞いた黒クー・シーは真っ青になった。実際のところ顔は毛でおおわれているのだが、ただ事ではないことはわかる。


 黒クー・シーは死体を見せろと要求した。プラタはすぐに死体を詰めた樽を差し出す。

 美形だったハロルド大尉の顔は老人のように醜い表情を浮かべていた。

 クー・シーたちは目をむき出し驚愕している。そして蜘蛛の子を散らす様に逃げ出したのだ。


「海軍大尉の遺体を持ち帰って大丈夫なのだろうか? 俺たちは疑われても問題ないのだが」


 プラタはディープ会長を心配していた。ハロルド大尉はフビが血を吸いつくして殺した。その責任が依頼主に飛び火することを恐れているのである。


「もっ、問題ないんだな。おっ、おそらく海軍は、こっ、この失態を、もっ、もみ消すんだな」


 ディープ会長はどもりながらも、確信をもって答えるのであった。

 クリームの名前の由来は、1960年代に活躍したロックバンドの名前です。

 プレスリーはアメリカのロック歌手エルビスプレスリーからです。

 イギリスのロックは彼の影響を強く受けたといいます。

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