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第16話 後始末

 プラタたちは襲撃された集落の後始末をした。トロルのオーセに荒らされた建物を直し、殺された人は葬式をして海に返さなければならない。

 この仕事はアニトラ海賊団が行うことになった。彼女たちがペルギュン島を離れたから、オーゼがその隙を突いてきたのだ。

 ちなみに集落の長老であるグリーグはプラタに感謝の言葉を述べた。殺された人間は気にするなと慰めてくれた。


 プラタはその態度に疑問を抱いた。集落の人間は家族同然である。自分がもう少し早ければ死なずに済んだ人間がいたのだ。家族らが自分に憎しみを抱いてもおかしくないはずである。

 しかしグリーグたちは平然とした態度であった。彼らにとって死んだのは運命であると。人は必ず死ぬ、それが来ただけなのである。


 プラタたちは意外だと思った。集落は人間のみで構成されているからだ。人間はとにかく死を否定することが多い。事故にしろ病気にしろその理由を知りたがるのである。

 なぜ死ななければならなかったのかと、調べさせることがほとんどなのだ。

 例えば災害で人が大勢死んだとすると、その原因を念密に調べる。そして責任者を追及するのである。

 

 そして災害で破壊された家や施設はそのまま保存する。事件を忘れないためである。維持をするのが大変だが事件の風化を一番恐れているのだ。

 後世に伝えることも忘れない。紙は作れるので本に残せるが、人伝を異常なまでに大事にしている。


「人は死んだら終わりなのです。でも死を引きずらない人は珍しいです」


 フビが言った。その点亜人はさっぱりしたものだ。身内が死んでも亜人全書に記録するだけである。その亜人全書もフエゴ教団に預けた後は、村に来た司祭に丸投げしていた。

 なのでグリーグたちの態度が気になったのである。


「実をいうと我らは遠い昔オルデン大陸を追われた一族の子孫なのです。死を前向きにとらえる考えを徹底的に否定され、逃げてきたのです。我らは魔王の身内と呼ばれ忌み嫌われてきました。この島のことを山の魔王の宮殿と蔑称で言われています。もっとも嫌うのは人間だけで亜人の方々は賛同してくれますがね」


 背後にいるカスピトラの亜人であるアニトラたちがうんうんとうなづいた。

 なるほどそうかもしれないとプラタたちは思った。


 ちなみにペルギュンとは島のリーダーの名前である。当時は島の反対側に大きな洞窟があり、そこを根城にして島を開拓したという。その時人間たちは山の魔王の宮殿と揶揄したというのだ。

 ヒコ王国の場合はまったく気にしていない。人それぞれだと思っている。もちろん人間たちも魚人が多いヒコ王国を忌み嫌っていた。


「ところでオーセたちはなんでこの島を襲ったのだろうか?」


 ヒスイが言った。別に深い意味はない。なんとなくだ。アニトラたちがいない隙を狙ったのだろうが、あくまで偶然だろうと思ったのだ。


「それがどうも最初から狙っていたらしいですにゃ」


 白猫のケット・シーであるリジーナが右手を上げて言った。

 スナネコの亜人とタスマニアデビルの亜人、アジシニアンという猫の亜人が数人のゴブリンを縛り上げ、プラタたちの前に突き出した。

 おそらくオーセの仲間だろう。船に残っていたのを彼女たちが捕らえたのだ。ゴブリンたちは顔中ひっかき傷が走っていた。もうぐったりしており抗う気力も残っていないようである。


「……」


 スナネコの亜人はプラタたちを睨みつけた。ショールを羽織り、頭には鳥の羽根飾りを身に着けている。そして四六時中乾燥させた大麻に火をつけ、吸っているのだ。

 ちなみにスナネコはネコ科の哺乳類だ。かつては北アフリカから中東、ロシアにかけての砂地・荒地に生息していた。体長約50センチでイエネコに似るが、耳がやや大きく、足の裏は長い毛に覆われるのである。


「……なんだ? 俺に含むものがあるのか?」


 プラタが訊ねても答えない。男である自分がアニトラの友達になったことが気に入らないのだろうか。


「ごめんなさい。タイガーリリー、とても無口。代わりわたしオルガ答える」


 革製のチューブトップブラを身に着けたタスマニアデビルの亜人、オルガが代弁した。背中には大きな「く」の字形の木製の道具を背負っていた。

 ブーメランといい、投げると回転しながら飛行し、対象物に当たらないときはもとの位置にもどってくるのである。

 主に狩猟や戦闘に用いるのだ。


 タスマニアデビルとはフクロネコ科の哺乳類である。大体体長47~80センチほどで黒色で体のわりに頭と口が大きいのだ。タスマニア島だけに分布しており、ふくろあなぐまやふくろぐまとも呼ばれている。


 タイガーリリーと呼ばれた女性はこくこくと首を縦に動かすだけである。そして拘束されたゴブリンたちを指さした。


「こいつら、妖精王国の人間。本当は蟲人《インセクター》の国にいた。でもピエロのデカ頭やってきた。そいつ口笛拭いた。オーセ、突然この島行くと言い出した。それでおしまい」


 オルガはたどたどしい口調で説明した。聞く限りピエロのデカ頭はハーメルンヘッドである。おそらくアニトラだけでなく、オーセも操ってこの島を襲撃させたのだろう。


「よく調べてくれたな。ありがとう。おっぱい揉ませてくれ」


 プラタがオルガの胸を揉もうとしたら、ヒスイがかかと落としを食らわせる。


「ええ、わたくしが調べましたわ。このズーラ。人から物事を聞くのが得意でしてよ」


 アビシニアンのズーラが訊かれもしないのに答えた。アビシニアンとは 家猫の一品種でエチオピア高原かエジプトの原産とされていた。赤く短毛で、1本の毛が色違いになっていて、毛先ほど色が濃いのが特徴である。

 薄い白い布を胸部と腰だけ巻いていた。なんともエキゾチックな容貌である。それでいて高貴な雰囲気もあった。


「うふふふふ。わたくし、こいつらの爪に針を刺してやりましたわ。でもすぐ吐き出してしまったので拍子抜けしましたわ。どうせなら歯を食いしばり長く耐えてほしかったですわ。ああ、男が苦痛で歪む声を聞くと子宮がきゅんきゅんと響きますわ!!」


 ズーラは悶えていた。よだれを垂らしながら悦に浸っている。ヒスイたちはドン引きしていたが、プラタやグリーグたちは普通であった。プラタはともかくペルギュン島の住民にとって彼女の性癖は知られているのだろう。ただし関わりたくないだけかもしれない。


「タイガーリリーはニューエデン合衆国で、オルガはウルル共和国、それでズーラはアトゥム共和国出身なんだな」


 プラタが言い当てた。アニトラは意外そうな顔をした。彼の知識が広いことに感心していたのだ。


「さすがはネプチューンヘッドの息子だな。もっともおっぱい好きなのが玉に瑕だね」


 ヒスイたちも無言だが同意する。


「しかし奇妙ですな」


 グリーグが神妙な面持ちで答えた。


「なぜピエロのデカ頭はわざわざアニトラ殿を操ったのでしょう。オーセも同じように操ったとしても理由がわかりません」


「そりゃあ、この島のみんなを苦しめたかっただけだろう? 世の中おやじみたいなものわかりのいいビッグヘッドはいないんだからさ」


 プラタが言った。そもそもビッグヘッドがしゃべるなどありえない。彼が常人とずれていることに気づいてないのだ。

 グリーグは続けた。


「それならアニトラ殿を使えばいいのでは? わざわざアニトラ殿を追い出してオーセを呼び寄せる意味が分かりません」


 確かにその通りである。ハーメルンヘッドが動物だけでなく人も操れるなら、アニトラたちをヒコ王国まで差し向ける必要などない。アニトラたちにペルギュン島の住人を殺させればいいのだ。そちらのほうが手っ取り早い。

 それがなぜオーセをペルギュン島へ連れてきたのだろうか。手間がかかるだけである。


「オーセ、自分の国、追われた。賞金かけられている。オーセの遺品、持ち込めば、お金、もらえる。ヒコ王国にある、妖精王国の大使館でも、もらえる」


 オルガが再び説明した。オーセは妖精王国では悪名高い賞金首だったという。殺しはもちろんだが多くは取り巻きのゴブリンたちがおこぼれをもらうために窃盗や殺人を犯しており、そのせいで賞金がうなぎ登りになったそうだ。


 生き残ったゴブリンたちは奴隷にして売ることにする。ナトゥラレサ大陸ならそこそこの値で売れるだろう。船も一緒に売りさばく。それがアニトラたちの仕事だ。彼女たちは海賊を襲ってはそいつらを捕らえ奴隷商人に売るのだ。ある意味オーセたちより質が悪い。どっちもどっちである。


「金は興味ないな。アニトラがもらいに行ってくれ。その金はこの島のみんなのために使ってほしい。俺はこの島にあるチークを探しに行くよ」


 プラタはそういうとチーク探しに行くことにした。グリーグからはその道は巨大生物が徘徊しているので気を付けるように言われた。

 タイガーリリーはピーターパンの登場人物の名前です。オニユリの英名でもあります。

 オルガはオーストラリアのノーザンテリトリーの岩山の名前です。

 ズーラは最初に見つかったアビシニアンの名前です。さすがに虎繋がりは難しいですからね。

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