エピローグ
ぐちゃり
ナルさんの頭は踏みつぶされた。
そこにはカソックを身に包んだ神父-レミーガ・モカチェがいた。
「あ…レミーガさん」
なぜか、俺はいたずらの見つかった子供のような気分になった。今感じていた高揚感もしぼんでいく。
「吸血鬼にとどめを刺す時は頭部を破壊するのが楽だ。それでも心配なら焼却することをだ」
そういいながら、レミーガさんは部屋に入ってきた。
「ひどくぶちまけたものだな。なんというか…うん」
返り血でぬれねずみのような俺に向かってレミーガさんが話しかける。
「あの…レミーガさん。俺、急に3課に入ることになって…えっと」
急なことだったので覚悟ができておらず、レミーガさんにうまく言えない。
「ああ、その件についてはすまなかった」
「えっ?」
「もともとあれは1課と2課の争い。それに君たちを巻きこんでしまった。そして、すべての負債をロアンダール…君一人に押し付けてしまう形になった。本当にすまない」
「えっいえ…何も相談せずに勝手に決めてすいませんでした」
久々のレミーガさんとの会話。だけどこんな流れを期待していたわけじゃない。
何がしたかったわけじゃないが、レミーガさんに謝ってほしかったわけじゃなかった。
「謝ることなどないだろう。君はその場でベストな行動をとった。ほかに選択肢もなかっただろう。何もしなかったのは私たちの方だ」
二人の間に沈黙が落ちる。レミーガさんは、俺を責めることも怒ることもせず俺のことに対して責任を負っていたのだろう。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あの、3課もそんなに悪いところではなかったですよ?マリア局長も頼りになりますし、人のいい先輩もいますしね。エリートとは言われなくなったかもしれませんが、意外としがらみもなく自由に活動できそうです。」
「そうか、なら心配はないな」
そういうと、レミーガさんはさびしそうな、安堵したような顔をした。
「だが、ロアンはこれから十分エリートして扱われるはずだ」
「え?なぜですか?」
「なにを言っている。当たり前だろう。自分が何をしたかわかっていないのか?吸血鬼の原種を単独撃破したのだぞ?神殿騎士団始まって以来2度目の快挙だ。さすがは私の弟子だな」
そういって眩しそうに眼を細め、ポンと頭を撫でた。
俺の目にはなぜか涙がこぼれていた。
「そうか、そうか、ロアンダールは原種を殺したのか」
上機嫌なマリア局長が椅子に座りながら書類に目を通していた。
その向かい側にはソファーに腰を下ろしたエンリコさんが私の入れたコーヒーをすすっている。
「ええ、そりゃすごいものでしたよ。彼に気づかれないようにいるのも骨でしたけどね。結局、原種相手に終始圧倒していましたからね。安心してみていられましたよ」
「ほう。それほどか。で、この原種は、『ナイトメア』で間違いないのだな」
「ええ、真っ昼間から異能を使っていたようですし、間違いと思います」
『ナイトメア』はここ30年程前に確認された。原種で日中ですら不自由なく活動する個体として脅威認定されていたものだ。
「それとですがね、倒したのはロアンですけど、とどめを刺したのは1課のエースのおっさんですよ」
「レミーガが?あの男が現場にいたの?」
「いたっていっても、ロアンが原種を倒した後に現れただけですがね。醜く逃げる頭だけになった吸血鬼の頭を踏み砕いただけですよ」
それを聞いてマリア局長はしばらく黙って考え込んだ。
「セリア!」
「はい、こちらに」
「今回のロアンによる貴族の原種討伐の件だけど、レミーガが手伝ったっていう噂を流して」
「かしこまりました」
それを聞いて、エンリコが嫌な顔をする。
「いいんですか?正直レミーガは何もやっていませんよ」
「今回の件で、ロアンをさっさと騎士叙勲させて3課で働かしたい。だが、吸血鬼の原種を単独で撃破できるほどの実力があるとなると、どんな横やりが入るかわからない。だがこんなうわさを流しておけば、奴らは勝手に勘違いするさ。あいつの実力を知る人間は少なければ少ないほどいいさ。あれは3課の切り札になるのだからね」
「おい、聞いたかアルフレッド。ロアンのやつ、一足先に騎士叙勲を受けるらしいぜ」
今二人は、弟子が勝手に行動して、吸血鬼と対決に行った責任を取らされ、書類仕事をしていた。
「ああ、吸血鬼の原種を単独撃破したためらしいな。とうとうあいつは俺たちを追い抜いてレミーガさんのいるレベルまで到達してしまったのだな」
エドガーの書類仕事は全く進んでいないが、アルフレッドはさすがというべきかもう半分ほど終わっていた。
「そうそれだよ!なんか原種討伐にレミーガさんが手伝った―みたいな噂がさー」
「んーその噂の出所なら3課だぞ。どうせあの女狐がわざと流したんだろ。ロアンを1課に取られないようにな」
「そうかー、でも今からでもいいから1課に来てくんないかなーロアン」
「こないさ。ロアンはレミーガさんに似てかなり義理堅い奴だからな。そんな不義理なことはよっぽどの理由がない限り来ないだろう」
「ふふーん。それにしては楽しそうだねえ。アルちゃーん」
「気持ち悪い呼び方をするな。当たり前だろう、3課にロアンダールという原種殺しが入ることによって、神殿騎士団は変わる。今まで1課というエリート層と2課という落ちこぼれという不健康な構図から1課と3課で切磋琢磨する形に変わったんだ。」
「そうだね、3課は局長をはじめとして粒ぞろいだ。エンリコっていう諜報員も曲者だけど、実戦部隊には『白騎士』と『魔女』がいるからね。そこに『原種殺し』まで入ったら、余裕で1課と対抗できるね」
「そうだ、そこでエドガー頼みがある。コンビを解消してくれ」
1課では、単独で吸血鬼と渡り合えるということをうたい文句にしているが、実際は二人組を作戦遂行のための最小単位としている。
このため、1課ではコンビを登録しており、それぞれの作戦の時にコンビごとに必要数召集されるという形をとっている。
「ん?いきなりなんでだよ?俺が不満なのか!?俺に飽きちゃったのか!?」
「突然女に別れを切り出されたような反応はよせ、どうせ見当はついているのだろう。俺はヘルマンとコンビを組む。もうすぐあいつも騎士叙勲だ。だが、あいつに教え切れていないものが多くある。コンビを組むことによってあいつを育ててやりたい。あいつだってロアンに負けないほどの才能がある。それを咲かせてられないなどとは悔しすぎる」
「わかったよ。だけどな、ヘルマンだけじゃないぜ。カティだって天才だ。あいつは10年に1度現れるかどうかってくらいの天才だ。あいつが育ち切ったらどこまで行くのか想像だってつかないさ!カティは俺が育てる!」
二人はにやりと笑うと、拳と拳を打ち合わせた。
とりあえず、ここで騎士見習い編は終了です。やっと一区切りつけました。
これまで、評価してくださった皆様。お気に入りに入れてくださった方がた。
こんな駄文を読んでくれた皆様にお礼をいわせていただきます。
初めは、相手にされなかったらどうしようとドキドキしながらの投稿でしたが、23000PV3000ユニークも達成できてうれしい限りです。皆様の入れてくれる評価やお気に入りが原動力でここまで書くことができました。
今後もよろしくお願いしたします。




