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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
見習い騎士編
28/33

対決

 吸血鬼に対して、初めにアクションをとったのは俺だった。

実力のわからない相手に先制攻撃をかけるのはつらい。だが、ヘルマンの血路を、レイラを助け出すだけの余裕を稼ぐためには動くしかなかった。

だが、多少の見当はつく。この吸血鬼が持つ異能が3つということは少なくともこの男の年齢は60以上100未満ということになる。年齢により強さが変わる吸血鬼の中でこの男は中堅といったところだろうか…

まだ、異能を隠している可能性もあるが、先ほどの様子を見ているとその可能性も低いだろう。持っていたら真っ先に自慢しそうだ。

慎重さとか用心深さとかとは、ほど遠いところに住んでいる生き物のようだ。出なかったら皇都で、おおっぴらに騒ぎは起こさない。

俺はハンティングナイフを左手で逆手に持ち、吸血鬼に突きをみまう。

ガリン

鉄と鉄がぶつかり合うような音がして、ハンティングナイフは『陣盾』に阻まれる。

だが、それも予想のうち、ナイフと『陣盾』の接地点を軸に吸血鬼の側面に一気に回る。そしてガードの薄い脇腹に渾身の拳を叩き込む。

ガチュ、バリン

ガラスが割れるようなけたたましい音と共に、吸血鬼は後ろへ大きく後退した。

だがダメージを追っているような気配はない。ギリギリのところで『陣盾』を形成して防いだようだ。

後ろでは、ヘルマンのツヴァイハンダーが唸る音が聞こえる。

正面の吸血鬼が何かを言いたそうにしているが、問答無用で追い打ちをかける。

2本の投げナイフを抜き出すと、連続で投擲した。投擲ついでに吸血鬼との距離を詰め、足払いを見舞う。

投げナイフは案の定『陣盾』に阻まれたが、足払いは大きく飛び退くことでよけていた。

(ふーん。『陣盾』の範囲はだいたい手のひらから円を描くように1mくらいかな。あと、こいつは武術を収めてないな…動きが素人だ)

 動きが素人だからといって油断することはできない。吸血鬼の原種の身体能力はその年齢に比例するように上昇し、年月を経た吸血鬼はその分強大になっていく。

 たかだか、20年ばかししか生きていないひよっこでは本来なら相手にすらならないのだ。

 吸血鬼と距離をとってにらみ合う形となった。

 その時、後ろから窓をたたき割る音が聞こえた。

「ロアン、先に戻っている。後は任せた」

 ヘルマンが一声かけて窓から脱出した。

使徒の怖さとは、その身体能力の高さと魔法による防御力にある。しかし生まれたばかりの使徒では魔法の習得が低く、ヘルマンの相手にすらならなかったのだろう。

ヘルマンはさっさとレイラを救出して脱出していった。

「おやおや、せっかくのギャラリーが逃げてしまいましたね。これからがいいところだというのに」

 全く残念そうな雰囲気を出さずに言われる。

「はあ?これだから露出狂はこまるわ。見られて喜ぶなんて趣味はないから、俺までつき合わさないでくれ」

(なんだか今日は下ネタしか言ってないな…まあそれだけ精神的に追い詰められているのかね?下ネタ言って気分を紛らわさないとやってけないぐらいに…)

「なにを言うかね。私の有志を!美しさを観衆に見せてあげようというやさしい心遣いではないか。露出だと?全くこれだから下品な輩は!育ちが知れるな!」

(あ…自己陶酔型の人(ナルさん)でしたか。これはこれは…)

「そうだ、唯一の観衆である小僧にいいことを教えてあげよう」

「いやいらないっす」

 ナルさんは、俺の声など聞こえていない風に悦に入って演説を続ける。

「我々、鬼族は年を経るごとに、固有異能といわれる異能をふやす!そして、力も何もかもが強大になっていくのだよ」

(やめて!しってから!そんなのしってから!)

「そして異能の数は年齢によって決まる!しかしこの年齢とは体の年齢ではないのだよ。そう、魂の年齢だ!魂の年齢が30・60・100と上がるにつれ異能の数は増えていく。魂の年齢は肉体の年齢と違って育ち難い。私のように100年を経た吸血鬼であるが、魂の年齢が70程度しかないようになかなか育たないものなのだよ!」

(ふーん。その程度か…前にやりあった鬼族はたしか300歳くらいだっけ?異能も4つ持っていたから魂の年齢も100オーバーだな。それを考えれば半分以下の強さってことか)

 ナルさんは陶酔の中、俺の値踏みするような視線に気づかず、演説は続く。

「しかし3つ目の異能というのが壁でな。魂の年齢が60になる前に死んでしまう雑魚が多いのだよ」

(はいはい。すごいすごーい。60オーバーなんてすごいなー感動しちゃうなー)

「そして、わが固有異能!『極夜』!日光の影響を無効化して、常に高潔なる鬼族の力を発揮させる素晴らしい異能だ!常に鬼族たる力を持つ私に、愚図な人間などはかないはしない!」

(はあ…鬼族同士の戦闘では糞の役にも立たない異能だけどな…まあ人間相手に弱い者いじめしている分にはちょうどいいスキルかもな)

「それでは、はじめようか!わがオンステージを!」

 そういうと、ナルさんは服をはためかせて突進してきた。

(はやい!?)

 それは想像以上に早かった。さすがは100年生きた吸血鬼というところだろう。

 だが直線的な動きであったために予想は楽だった。ふるわれる爪に合わせてハンティングナイフで防御する。

 硬質な音が室内に響き渡り、ナイフと爪が交差する。だが攻撃はそこでは終わらない。

 もう片方の腕で下から掬い上げるように斬撃が飛んでくる。それをスウェーバックでギリギリかわす。

 突き、袈裟切り、薙ぎ払い、逆袈裟切り…目にもとまらぬ連続攻撃が繰り出される。

 その一つ一つをぎりぎりでよけ、払い落としていく。その間に、自然と口がにやける。

(ああ、ナルさんにはサラさんやパパンほどの威圧感も怖さもない。あの俺を殺しかけた鬼族にすらほど遠い)

 武術とは、言ってみれば、いかに効率よく力を伝播させ攻撃力を上げるか、いかに速く動き攻撃を対象に当てるかということになる。

 鬼族としての身体能力の高さは、武を学ぶ必要もなく、人など枯れ木のように破壊し、そのスピードは目にも止まらない。

 このため、中途半端に武を修めるよりも鬼族として身体能力を伸ばす方が確かに効率はいいかもしれない。

 だが、鬼族同士の戦いとなると話は変わってくる。身体能力がかけ離れていれば、吹けば飛ぶような差でしかない。しかし、実力が拮抗してくれば、その差は明確な差となる。

 だからこそ俺は負ける気がしなかった。20歳と100歳…圧倒的に違う差だが、鬼族としての身体能力に聖術の気功のバックアップを得て、その身体能力の差はほぼないと等しかった。

 ナルさんの放つぬるい攻撃を素手ではじく。

(なにより、俺はいまだ固有異能を使ってはいない!)

 いまだ、攻撃は交差している。ナルさんの攻撃をギリギリでよけているために、俺のカソックはすでに爪で引き裂かれている。

 一方、ナルさんも先ほどからだんだんと俺のナイフによって切られだしてきた。切られた部分が再生し、ピンクの肌を見せている。

 たった紙一重の差…だけどその差に俺の心の中にあったわだかまりが少しずつ溶けていくのを感じた。

 じっと、ナルさんを観察して、固有異能を使うタイミングを計る。

 ナルさんみたいに、手の内を明かす気はない。固有異能を使うときは、相手を殺す時だ。

 そのとき、当たらない攻撃に焦れたのか、ナルさんは後ろ回し蹴りを放とうとしてきた。それは素人目に見ても軸がぶれ、対して威力の乗らない蹴りだった。

 だが、その技の最中に俺はナルさんの視界から完全に消えた。

 そのタイミングを利用して固有異能『隠匿』を発動、天井めがけて飛び上がる。同時にもう一つの異能である『韋駄天』も発動しその移動力は倍加した。

 ナルさんのけりは完全に外れ、俺を見失う。

「く、逃げたか!?」

 異能を発動した俺は、もう無意識下の気配察知では探ることはできない。そのためにナルさんは逃げたと勘違いした。

 その時にはもう、俺はナルさんの背後で、ナイフを振りかぶっていた。

 グジュリ

 ナルさんの心臓を狙ったナイフは、狙いを誤らず突き刺さり腕ごと正面に突き抜けた。

 ナルさんは、何が起こったかわからず胸から生えた上を凝視している。

(この程度じゃ鬼族は死なない!)

 そう思った俺は、ナルさんの傷口に手をかけて体を左右に引き裂いた。

 それは、骨、筋肉、腱の抵抗はあったものの強化された力で無理やりに引き裂いた。

 その音は、布を引き裂くよりひどく、骨が折れるより汚い音をたてた。そして部屋中に血のシャワーをまき散らす結果となった。

 その返り血を浴びながら、俺は満たされていく。

(いい、復讐だった…気分爽快だな)

 しかし、半分に引き裂かれたナルさんはいまだに生きていた。片手で地をはい、部屋から逃げ出そうとしている。だがそのスピードは遅々としてすすまない。

「まるで、ゴキブリだな…ああ、これどうやって殺すんだっけ?」

 そのままぼんやりと、ナルさんが出口に出ていくのを眺めていた。


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