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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
見習い騎士編
22/33

初めてのおつかい

 朝日がかんかんと照っている。普段なら今頃、カティやヘルマンたちと一緒に運動場にいっているだろう。だけどいま、教会前で合流したエンリコと一緒に馬車に乗っていた。

 昨日マリア局長から言い渡された課題は、皇都から1日ほど行ったヴィエナという都市において吸血鬼が存在しているという噂の真偽を確かめに行くというものだった。いきなり新人を一人で行かせるわけにもいかず、3課の諜報部所属であるエンリコさんが付き添う形となった。

 あのあと、局長室を後にした俺はエンリコさんと別れて、24時間戦えますのウルさんのところへ行った。案の定、夜の12時を回っても忙しく働いていたウルさんに会えた俺は都市ヴィエナの詳細な情報がほしいと告げた。

 突然のことにもかかわらず、ヴィエナの人口から始まって特産品や街の地図、さらには領主の性癖まで書かれたレポートを受け取り、危うくウルさんに惚れそうになった。

 一晩かけて、レポートに目を通し怪しい場所の目星をつけていたために昨晩は一睡もできていない。

「おお、ロアンダール君緊張しているのかい?目の下にクマなんて作っちゃって。まーまー、気楽にやりなさいって。俺らは吸血鬼とガチムチに戦うわけじゃないしな」

「ロアンと呼び捨てでいいですよ、エンリコ先輩。それで、今回の件で僕は詳しく聞いてないのですがなにか情報ってありますか?」

「ふむ。そうだな。今回の騒動は、変死体が見つかったことが発端らしいな。首筋に2つの穴が開いている若い女性の死体が町の真ん中の噴水から見つかったという報告がある」

「なんかいかにもって感じの事件ですね。その穴は吸血根なのですか?」

「さあ、どうだろう?俺も実際に死体を見たわけじゃないからな」

「向こうについたら、検死からですかね」

「いや、もう火葬して埋めてしまったらしい。別に吸血されたから即吸血鬼になるわけじゃないが、昔からの迷信で吸血されたら吸血鬼になるっていうのがあるから死体はさっさと処理されるなあ」

 めんどくせえとエンリコさんがつぶやいている。

「それでも、死体を焼く前に検死ぐらいは現地でしていますよね?」

「だといいがな…」

 エンリコさんは疲れた顔をしている。いままで検死せずに火葬されていたことがしばしばあったのだろう。

「そうそう、言い忘れていたけどな。今回現地で活動できる日数は2日だ。この2日で、吸血鬼のかかわりの有無、関わっているのなら吸血鬼に関する情報をできるだけ収集する。この情報量によって、実際に戦う武官の生存率が左右されることを肝にめいじておいてくれ」

 エンリコさんは声のトーンを一つ落として真面目にいった。仕事にプライドを持っている(おとこ)の渋さがにじみ出てくる。

(やっべ、渋い!ぶさめんなのに渋い!かっけえ)

「まーつっても今回はおれがいるから、やりたいようにやればいいさー」

 なんとも緊張の持続しない人である。

「わかりました。胸を借りるつもりで、がんばってみます」

「まーそー硬い口調で言いなさんなって。いいか、俺がお前ぐらいんときにはなー…」

 なんだかよくわからないがそのまま、エンリコさんの昔話になっていった。この人もわりと数奇な人生で馬車が目的地に着くまで全く飽きなかったが…



「ついたー!ここがヴィエナ!ここから東に見えるのが男のロマンと性病の町!」

(あー、賭博場と風俗街ね)

 おれたちは、ヴィエナの入り口についていた。ヴィエナは城塞都市というわけではなく、周囲を特に壁で覆われてはいなかった。なので、周りにはちらほらと民家が見える。目の前には広い一本道が続いており、その先には領主の館が鎮座していた。

「そして西がアリの巣と祭りの町!」

(ただのベッドタウンと酒場ね)

「そしてまっすぐ見えるのが、この町の脳みそさ!」

「えっと、説明ありがとうございます?それでとりあえずどうします?」

「町についたらまず宿の確保だろ!股間に病気を持っているお姉さんを買うならいらないがな!」

「いえ、宿に行きましょうか」

 すこし、エンリコさんのテンションの高さに疲れを感じた俺は、宿に向かうことを促した。今は、カソックを着ておらず、諜報活動中は目立たないために旅行者の格好をしているため、各地の教会を利用することができない。

「では、宿をとったらそこから3日間自由行動だ。待ち合わせは2日後の正午にこの場所で。遅れたら、おいてっちゃうからなー」

 もうなんか、ノリは旅行である。これから仕事をする気配なんてみじんもない。



 エンリコさんと別れて、俺はのんびりと観光をしていた。ウルさんの資料でだいたい目星はついていたので、特に聞き込み調査をする気はなかった。

可能性の一つとして、まず領主の館が怪しかった。今回の騒動は、何の前触れもなく起こった。通りがかりの吸血鬼の仕業と考えるよりは、どこかに隠れ家があると考えた方がいいだろう。そこで、隠れられる可能性がある場所として領主の館が考えられる。

そんなことは、後回しにしてみんなへのお土産をさがす。なんか、行動にエンリコさんが乗り移った気がするが気にしないでおこう。



夜、窓から飛び出した俺は、屋根を飛び移り全速力でかけながら領主の館へ向かった…という妄想をしながら、夜のヴィエナの町をてくてくと歩く。屋根は走るところではありません。

大通りを抜けると、そこは領主の館だった。館の周りは2メートルほどの鉄柵で囲まれており、正面には豪勢な門が立っていた。正面から入るほど、マゾくはないので裏に回り、一気に鉄柵を乗り越えた。

 勝手口の鍵を分解の魔法で破壊して侵入し、一晩かけてじっくりと屋敷を探し回った。まず向かったのが、領主の執務室と資料室だ。吸血鬼とつながる重要書類が見つかればとおもったが、館の地図しかなかった。地図をもとに、怪しいところを探し、隠し部屋を次々と物色していく。

 何もなかった…吸血鬼はおろか、虐待を受けているえろえろ奴隷も、隠し財宝も、悪魔崇拝も、なにもなかった。隠し部屋は全部数十年使われていないみたいで、ほこりがもっさり積もっていた。ただ一部屋、SM部屋らしきものはとてもきれいに整理整頓されていた。

(初めて見たよ…低温ろうそくとか叩いても痛くない鞭とか三角木馬とか!いい趣味だな、おい)

仕方がないので寝ている美人なメイドさんの巨乳を堪能して、領主のダンディなオジサマの顔にらくがきをする誘惑に抵抗しながらなんとか調査を終えた。

 この屋敷はグレーゾーンを通り越して、真っ白だった故の余裕だった。しかし、メイドさんを視姦したことにより、熱いリビドーがたぎって風俗街に繰り出したくなったのが弊害だった。だけどエンリコさんにさんざん性病の巣だとおどされていたので、その日は帰ってから悶々とするはめになった。

(くそう、無駄足だけならいいけど…これは…なんだかすごく損した気分だよ…)



 領主の館でのお仕事を終えて1時間ほど仮眠をとり、朝食の場でエンリコさんと一緒になった。

「おっはよーん。どうよ?初日どうだったよ?」

「おはようございます。あーそうですねーお土産いっぱい買えました。後は、なにもないですねー」

「そかそかー、まだあと1日のこっているからのんびりやりーやー」

 それだけいうと、エンリコさんは飯をかっ込んで出て行ってしまった。

「あーそうそう、くれぐれも女買いには行くなよ。未使用のそれを傷物にしたくないだろ?」

「どど、ど、童貞ちゃうわ!」

 出がけに、余計なことをきっちり言っていった。



 昨日の夜がんばったので今日の日中は眠ってもよかったのだが、さっさと終わらそうと思い、現在もう一つの可能性を探るために町の東にきていた。

(ここでエンリコさんに見つかったら何言われるか…)

 東町に向かうにつれて、石造りの邸宅はどんどん貧相になっていく。東町の表通りはまだぎりぎり石造りだが、一本裏に入ればあばら家然とした家々が並んでいた。

「く…臭い…臭すぎるだろ、この町…」

あまりの臭さに自然と口に出ていた。それは、人の油の発酵したにおいや夜のあれの匂い、糞尿の匂いなどがいい感じにブレンドされて異様なにおいを醸し出していた。

(夜来なくてよかった…あまりの臭さに失神してかも知らん)

 鼻をつまみながら、目的地へ駆け足で向かう。だって臭いんだもん。

 目的の賭場には10分くらい歩いたらついた。なぜ賭場かっていうと、この町で吸血鬼をかくまえるクラスの組織は、領主かこの賭場を仕切っているヤクザ屋さんしかないから。

 そういうことで、現在賭場の屋根からお送りしております。屋根板をむりやりべりっとはがして中に侵入。ささっと賭場の裏に入りました。まだ賭場が開場している時間ではないので、あまり人もおらず閑散としていた。

(人がいなくて、いい感じ。とりあえず、日当たりのいい部屋から探してみますかね)

 位置取りがいい部屋こそトップが使っているだろうとの予想のもとに南向きの部屋を探す。いくつか南向きの部屋がある中で一つだけ扉のしっかりした部屋があった。近づいてみると中から声が聞こえる。

(ビンゴかな?隣の部屋に入って聞いてみますかね)

隣の部屋に侵入して、聖術により体に気を巡らせると吸血鬼としての身体能力がもどってくる。すると、隣の部屋の会話をとらえることができた。

「…次にですが、先日の変死体の事件を探っているやつがいます」

「あの件は、もう死体だって焼いたし、証拠は残っていないだろう。で、どこのやつだ?」

「どこの手のものかはわかりません。昨日この町に来た2人組のようです。片方は観光しかしていませんが、もう一人がうるさく嗅ぎまわっています」

(ん?エンリコさんばれてね?あれ?先輩がんばってよ!超がんばってよ!)

「どうせ、うちの組にはたどり着けないだろう。無駄に手を出すことはない。あの件はもう終わった」

(んー?おわった?なんか吸血鬼をかくまっている雰囲気じゃないな?どういうことなの?こいつらがかかわっているのは確実だから本人から詳しく聞き出そうか?)

「ですが、昨日はしつこくうちの組織について探っているようでした。若い者にも言い含めてあるので、何も伝わっていないと思いますがどうしますか?」

「ふむ…あの時に使った道具はあるか?」

「はい、ここに持っております。今後も偽装に使うためにとってありますが…」

(偽装?…ん?もしかして、あれかい?吸血鬼の仕業に偽装したの?なぜに?教えてわくわ○さーん)

「いや、足がつかねえようにつぶしておけ。ここの領主が薬打った女がすきなんて変態なうえに、薬打ちすぎで女殺すなんてあほなまねしやがって!そんな死体をさっさと処理しなきゃいかん。まったくいまいましい」

(あ、説明ありがとうございます。っていうかお前ら全員グルかよ!しかも吸血鬼関係ねーし!もう、神殿騎士団(うち)の仕事じゃないな…あーでも、偽装に使った道具とか回収しておいた方がいいかな?あと、八つ当たりだけどお灸も据えておくか…) 

 そう決めてから、部屋を出て隣の部屋のドアの前に立つ。懐から愛用のハンティングナイフを抜くとおもむろにドアを開けた。

ギィィィィィ

 ドアは、きしんだ音を立てながら開いた。中にいるのは2人。二人とも、突然開いたドアに驚きの表情を挙げていた。部屋の中に駆け入ると、すれ違いざまに手前にいた男の喉をかき切り机に座っている男の頭をつかみ机にたたきつけた。

 のどをかき切られた男は首に手を当てながら膝をついている。それを確認して、目の前で苦悶のうめき声を立てている男の後頭部に話しかける

「神殿騎士団だ。貴様らが、死体処理を馬鹿みたいに吸血鬼騒動にするから俺たちが出張ってくるはめになった」

 ハンティングナイフの柄で頭をコツコツやりながら続ける。

「俺たちも暇じゃない。今回はこれで許してやるが、次、俺たちに無駄足を踏ませたら皆殺しにするかな。そのつもりでいろ」

 そういうともう一度頭を机にたたきつけて気絶させる。当たり所が悪かったら死ぬかもしれないが、知ったことではない。喉を掻っ切られた男の方に振り向き、男のポケットから今回の件で使った道具を回収する。

 組織の人間が音を聞きつけたのか、ドアの外がうるさいのでさっさと窓から脱出することにした。窓から出て、表道理に回るころにはナイフも隠し、聖術も解き、観光客に成りすまして宿に戻った。



「これが報告書か」

 マリア局長は2枚の報告書に目を通していた。片方は俺の、もう片方はロアンが提出した報告書だ。ロアンは先ほどシスターセリアに連れられて、3課の用意した新しい部屋に連れられて行った。

 しばらく報告書を眺めていたマリア局長だったが、ふっと珍しく笑った。

「良い買い物したものだ。半年後の騎士叙勲を待たずに働いてほしいものだ。よんでみろ」

 そういうと、ロアンの書いた報告書を投げてよこしてきた。

「読んでもよろしいので?」

「ああ、それを読んで一生精進した方がいいな。まったく、どこでこんな技術を学んできたのか…」

 そこに書かれているのは、全く持って異常だった。俺がこの2日間でつかんだ情報は、この件において吸血鬼がかかわっていないかもしれないという可能性が高いこと。今回の件に関わっている可能性が高い勢力が領主と賭場を仕切るヤクザであることだった。

 しかし、ロアンの報告書にはその二つの勢力の精密な調査及び吸血鬼騒動が偽装であった件、また今回の騒動で使われた道具も添えられていた。

 こちとら、もともと軍の諜報部に所属しており何年もこの仕事に従事している。それだけではなく、優秀をもって3課のこの人、マリア・クリスティーネ・フォン・パルティアに引き抜かれた身だ。ぽっと出の小僧が、自分より優秀とは信じがたい。

「2日でここまでとは…即戦力ですね。彼は諜報畑の人間なのですか?」

「いや、そんな報告は聞いていない。ただの貴族の次男坊にして優秀すぎるがな…いつかロアンの調査をしてもらうかもしれないな」

「ぞっとしないですね。ロアンには味方でいてほしいものです」

「まったくだ。それと、次の仕事だが次はブローニュにとんでほしい…」

 ひさびさに機嫌のいいマリア局長をみていると、これからロアンが3課に及ぼす影響に明るい気持ちになった。


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