理解と侮蔑と
「新しく部屋を3課で用意した。荷物もすでに運び込まれているはずだ。セリアに案内させる。ではもう行っていいぞ」
皇都にもどって、報告書を提出すると、マリア局長にそういわれた。
「は?部屋ですか?今までの部屋ではいけないのですか?それに今回のヴィエナ行きの結果はいいのですか?」
「局長は忙しいので、その質問には私の方から道すがら答えましょう。こちらへどうぞ」
セリアさんにさらっと促されてします。どうやら俺には選択肢はないようだ。聖パルディア皇国の中心である教皇庁の教会に部屋をもらえるとは、すごいことなのだがなんだか気おくれしてしまう。
案内された部屋は、6畳ほどの一間だった。決して大きくもなく、質素な部屋だったが置かれている家具の一つ一つは高級品だった。窓もガラスのはめ殺しとかではなく、ちゃんと開閉式のガラス窓になっている。
「ここが、ロアンダールさんの新しい部屋になります。申しつけてくだされば、シスターが掃除もします。貴重品の保管はご自分でなさってください」
なんかホテルみたいだなーと思っていると隅に俺の少ない荷物が置かれていた。
「それと、食事や風呂、トイレなどは教会のものを利用可能です。なお食事につきましては、前日に申し込んでいただければお部屋まで持っていくことも可能です」
「なんだか、至りつくせりですね」
「ええ、すべては局長のご配慮です。そのせいでお遊び部隊だなんて言われていますけどね」
セリアさんがちょっといたずらっぽくいった。
「それでは、いい時間ですしお食事でもいかがですか?教会の食堂は豪華ですよ」
ヴィエナを昼に出てきたために今はちょうど夕食の時間になる。
「教会の食堂が豪華って…いいですかそれ?」
「いいんですよ。どんな政治だって腐敗しますからね。トップ層の食糧事情はどんな時でも安泰です」
(あれー?それって根本的に駄目じゃね?)
結局、二人で食堂に向かうことになった。たしかに、食事は豪華だった。新鮮な野菜、や肉にふんだんにスパイスを使っており、味も抜群だった。しかも、教会関係者はただという素晴らしさ。
(腐敗政治ばんざーい。血税でやりたい放題だぜーい)
セリアさんと血税でできたおいしいご飯を食べながら身の上話に花を咲かせていた。なんでもセリアさんは、もともと神殿騎士団とは全く無関係のシスターだったが事務能力の高さを買われてマリアさんに引き抜かれたそうだ。エンリコさんといいセリアさんといい引き抜きの好きな人だ…
3課には、今言った二人以外にも武官として実践戦闘を受け持つ2人がいるらしい。実力だけで言えば、レミーガさんに匹敵するほどの戦闘技術を持っているらしい。ただ、性格がおわっているため、3課に回ってきたとのことだ。
俺が5人目の3課員らしく、仲間が増えてうれしいと言ってくれた。
こうして美人で有名な3課のシスターセリアと人の多い食堂で楽しく食事をすることによって、外堀を埋められていったのであった。
「ん~んあ~」
久々にふかふかのベッドで眠って盛大な伸びをして起き上がる。今日は3日ぶりに訓練に参加できる。なんか、この怒涛の3日間が嘘のようにいい天気だ。
いまだ、冬の香りを残す朝の寒さを感じながら教会を出て、騎士団の訓練場へむかった。そこで待っていたのは、少しくらいかを押したヘルマンと不満で顔をいっぱいにしたカティだった。二人を見たおれは、なんだかうれしくなって機嫌よく声をかけた。
「おっす、おはようさん」
「おはようじゃねえよ!この3日間どうしてたんだよ!訓練も来なくてさ!それより、いきなり3課入り決定ってどういうことだよ!」
「そうだ、何があったか教えてほしいのだがいいか?」
カティは不満を隠そうとせずにぶつけてきてくれるが、ヘルマンの落ち着いた口調の中には静かな怒りがあった。
「何も相談せずに勝手に決めてすまん。ちょっと勢い余ってやらかしちゃってね。その処罰みたいなものかな…詳しい話は今ここではできないから、今夜の夕食の後に二人の部屋にいっていいか?」
視界の隅に映るエドガーとアルフレッドさんをとらえながら二人に言った。二人とも多少不満があったようだがしぶしぶ納得してくれた。
エドガーとアルフレッドが俺たちのそばまでやってきたときに気づいた。レミーガさんがいない。
(やっぱりレミーガさんはこないか…仕方ないよね、あんなことしたらね)
「カティとヘルマンは自主練習しておけ。ロアンダール!ちょっとこっちに来い」
アルフレッドは苦虫をかみつぶしたような顔をしていった。エドガーさんもいつもの飄々とした顔をしておらず、無表情だった。
カティやヘルマンから見えない物陰に移動すると、二人は俺を取り囲んだ。
「お前はいったい何を考えている?何をしたかわかっているのか?レミーガさんがあんなに落ち込んでいるのは初めてだぞ」
昨日からうすうす感づいてはいたが、俺が3課にいくことは完全に広まっていた。
「一応、1課の諜報でひましている奴らに今回の件の調査は頼んだ」
アルフレッドは、今回の件についてわかっているといった。
「お前がアベル教官を殴り飛ばしたことについては、何も言わない。むしろそこで何もしなかったら、俺がお前を殴って騎士団を追い出してやるところだ」
「そうだ、だがなんで3課なんかに泣き付いた?なんで、俺たちに何も相談しなかった?レミーガさんは『何もいうな』と言っていたが、これでは筋が通らないぞ?」
「ですが…あのときレミーガさんたちに泣き付けば、混乱が…」
「混乱?ふざけるな、今以上に同混乱するっていうんだ。お前が3課の女狐に泣き付いたせいで2課局の局長の首が飛んだんだぞ?先日の緊急会議で―ああ、なんだっけな、あのビア樽の名前が出てこない。その件の局長が、責任をとって退陣。2課は局長を付けずに、われわれ1課と3課の下部組織になった」
「ま…マジで…?」
(あの人…やることえげつない…今回の件でちゃっかり自分のとこの権力強化してやがる…女傑ってレベルじぇねえ)
「マジだマジ。あの女狐に取っちゃ2課の連中なんて使い捨てのごみなのさ。今までは、形だけでも俺たちと同格ってことでなんとかやってきたっていうのに、自分の権力強化のためにこの始末さ。まったく、俺たちの苦労も知らないで……」
「おい、そこら辺にしろ」
アルフレッドが、珍しく愚痴っているエドガーをとめた。
「別にあの女狐が2課にしたことはどうでもいい。なぜ、お前が俺たちを頼らなかったかだ。そんになに俺対は頼りなかったか?」
こうやって、淡々と言われると弱い。ちょっとうるっと来てしまった。俺は、二人に3日前に自分が置かれた状況を登場人物は伏せたがすべて吐露してしまった。
「それは…
話を聞き終えた二人は、絶句していた。
「それでレミーガさんは、何も言わなかったのか…」
「1課と2課が争うことになったら、神殿騎士団は完全にあの女狐に牛耳られていたということか」
「僕としても、アベル教官を殴る時にもっとやり方があったのではないかと反省はしています…」
「いや、あの陰湿な野郎を玉なしにしてやったっていうのは傑作だったぜ」
エドガーはもう元の飄々とした雰囲気に戻っていた。
「すまなかったな、ロアン。今回の件でお前のことをよく思っていない人間が俺たち以外にもいる。1課の連中には説明しておくが、何かあったら言って来い。俺たちはお前の味方だ」
呼称が『ロアンダール』から『ロアン』に戻っている。二人とも許してくれたのだろう。カティとヘルマンも許してくれるといいなあと考えながら3人で訓練場に戻るのだった。
今は神殿騎士団の方の食堂を使っていた。ひさびさにカティやヘルマンと食事をとっている。モカは体調が悪いらしく、講義後すぐに部屋に戻っていた。オルガとレイラは食堂でパンだけもらってモカの看病のためここにいない。
「なんかさ午後から、目線が痛いんだけど?カティなんかやった?」
午後の講義の時からずっと目線を感じていた。決して好意の含まれたものではないそれは意外に精神を削ってくる。
「はー?俺じゃねえよ。ロアンに決まってるだろ」
「なんでさ。身に覚えないんですけど」
「気づいてないのか?1課入りを確実視されていたロアンがここにきていきなり、お遊び部隊に過ぎない3課に入ることになったからだ」
「ん?どいうこと?」
「説明しよう!エリート街道爆進だったロアンダール・ラドヴィラが、ここにきてお遊び部隊などというところへ落第しことによる。つまり、エリート様ざまあああああああってことだ!」
「なんだろう、すごいカティの言い方にとげを感じるんだけど気のせい?気のせいって言ってよね?」
「なにいってんだ。わざとに決まってるだろーなんちゃってね。えへへ」
「答えになってねえし!そこはかとなくむかつくし!」
「食事も終わったし、それくらいにして、部屋に戻ろう。そろそろ肝心の話を聞きたいしな」
ヘルマンの一言で、和やかだった空気が凍りついた。真剣な顔をした3人が食堂から出ていく姿は、周りから見たら異様に見えたかもしれない。
神殿騎士団の寮から出て夜道を歩いている。今日は特に冷え込む日で、口から吐く息が白い。
カティとヘルマンは、俺の話をきいて今回の件は納得してくれたみたいだった。カティに至っては、モカが狙われたということを現実として受け止められないらしくかなり動揺していた。
(あいつにとって、モカは超人にでもみえているのかねえ…かわいそうに)
ヘルマンには、このことをオルガに伝えてモカに気を使ってくれるように頼んでおいた。
空には星雲が見える。ヘルマンたちにすべてを話し終わって、すごくすっきりした。本当に今回の件が終わったのだと、肩の荷が下りたと空を見上げながら思う。元には戻れないが、こうやって丸く収まってくれて神に感謝したいぐらいだ。
感謝ついでに神父らしく祈りの一つでも神にくれてやろうと珍しく教会の礼拝堂に向かった。さすがに、もう夜も遅く教会には人の気配がほとんどしない。
礼拝堂の扉を少しだけ開けて体を滑り込ました。それでも、音のない建物の中ではギィィィと大きな音をたててしまった。
その音に反応した黒い影があった。その見覚えのある影は入り口近くの椅子に座っていた。
プライドが高い人に限って、他人のことを馬鹿にする傾向がある気がする




