2-2 世話係ですが、安眠できません!!
2-2 世話係ですが、安眠できません!!
風呂から出た王子様の身体をタオルで拭いて、寝間着を渡すっていうことだけは渋々とやって、だいぶ冷めた残り湯が張ってある浴槽は有り難く使わせてもらった。俺が入るところを覗いて来ようとしたが、それは断固拒否で浴室から出て行ってもらう。ついでに掃除もしておいた。
残り湯と言えども、水よりは心地良い。
久しぶりに浸かる温かさに大きく息を吐き出し、束の間の休息を味わった。
「えーと、俺はどこで寝ればいいんですか」
寝間着に着替え、持参したタオルで濡れた髪を拭きながら王子の部屋に戻る。
王子はすっかり寛いで、天蓋付きのベッドに仰向けに寝転んで本を読んでいた。
俺の部屋はここだと言っていたけれども、ベッドも布団も見当たらない。
さすがに床ってことはないよなあ、と確認すると、王子が起き上がった。
「ここだ」
そして指差されたのは、王子が寝る天蓋付きの大きなベッド。
「いやいやいや」
いやいやいや。
一般兵が王子様と同衾するわけにはいかないでしょう。
首と手を大きく振ると、王子が眉を寄せた。
「どういうことだ」
「えっ、今までもメイドと一緒に寝てたんです?」
「は? そんなわけねえだろ」
どういうこと!?!
意思疎通が難しすぎて、王子が異世界から来たんじゃないかと錯覚する。
メイドには別に部屋が与えられてたってことですか?
「おまえの寝床は俺の隣だ」
「えーっと、辞職していいですか」
王族の男と寝る趣味はありません!
真面目な顔で進言すると、王子がふっと口端を持ち上げて笑った。姫様の姿では決して見られない表情だ。
「職を辞した瞬間、国家機密を知る者として監視の目がつくことになるが」
「俺の自由はどこへ!?」
うっ、うう。
毎日ふらふら街の護衛をしながら、美人に声を掛けるのが生き甲斐だったのに……。
あわよくばきれいな奥さんをもらって、娘を三人育てたかった……。
「あのー、本当に俺の部屋って」
「ない」
「プライバシーゼロー……」
はあ……。
床に寝るよりはいいのか。
「じゃあ失礼しますね」
諦めるしかない。
実家の俺の部屋ぐらいあるんじゃないかってほどの大きなベッドに乗り上げる。
有り難いことに広すぎるから、王子と接触することはなさそうだ。
「おい」
「なんで?」
それなのに、王子はわざわざ、俺の隣にやって来た。
思わず疑問が口をついて出る。
「俺の隣だと言っただろう」
「なんなんすかもー、王子わかんねー」
もう理解することも諦めて、そのまま大の字になってみた。
うわっ、ふかふか。
これは王族じゃないと味わえない、身体が沈むようなベッドの感覚を知る。
王子さえ気にしなければ、ぐっすり眠れそうだ。
「セシルだ」
「へ?」
「王子じゃない。セシルと呼べ」
「クレア様じゃねーの?」
公的には、姫の名はクレア様だ。
気付いたらすぐ隣で横向きに寝ている王子に顔だけ向ける。
青く大きな瞳が俺を見つめていた。
「それは姫の名だからな。俺の名はセシルだ」
「えー。公共の場で間違えてそっち呼んじゃったら俺殺されない?」
「そうだな」
「いやだー!」
真面目に頷かないで!!
うっかりミスに命が掛かってるとか洒落にならない。
「ダメか」
――うっ。
とんでもない美形が、眉を下げて上目遣いをしてくる。
こ、これは、歴代メイドさんもコロッと落ちちゃうかもしれない。
俺は目を逸らして、息を吐いた。
「二人のときだけ、そう呼びます」
「! ああ」
「絶対呼ぶとは限んないんで!」
「ああ」
「なんでそんな嬉しそうなの!?」
「ふ、」
俺が聞くと、王子――セシルが、笑った。
それは邪悪な笑みではなく、純粋な、きれいな笑顔だ。
思わず見惚れる。
「明日の朝食はカイルが持って来るんだぞ、忘れるなよ」
質問に答えてくれますか!?
さりげなく俺の名前を呼んだセシルはそう言うと、手を伸ばして俺の頬を撫でてきた。
な、なんなんだ。
「おやすみ、カイル」
「お、おやすみなさい。――セシル、様」
小さく呼んだ名に、セシルは笑みを深めた。
ああ、それは反則だ。
姫様だったら、邪な気持ちを抱いていた。
俺は思わずすぐに背中を向けて、丸まった。
非日常に放り込まれて安眠なんて出来ないと思っていたのに、ふかふかのベッドに包まれていたら、あっという間に眠りに落ちてしまった。




