2-1 姫様♂の世話係ですが、逃げ出したいです!
2-1 姫様♂の世話係ですが、逃げ出したいです!
姫もとい王子は、公務があるとき以外は、部屋から一歩も出ない。
だから俺の『世話係』の仕事は、王子の食事を部屋に持って来ることと、仕立て屋が用意した次の公務の洋服を持って来ること、逆に今まで着ていた服を洗濯すること。
そして一番重要なのが、湯浴みの準備だ。
俺は今、王子から仰せつかった通りに、でっかい桶を二つ持って、王宮の厨房まで来ている。
「すみませーん」
厨房では、王族の食事の支度をするのに、料理人が忙しそうにしていた。
「なに!?」
大きな音が行き交う厨房では、声を掛けるのも一苦労だ。
俺の声に気付いた身体が大きなおじさんが、大きな声でそう返した。
「お湯、もらえませんかー!」
「ああ、姫様のね。はいはい、どうぞ」
「ありがとうございまーす!」
俺も大声で返事をしながら、おじさんに案内された先は大きな釜だ。たっぷりのお湯が張ってあり、ぐつぐつと沸かされている。
それを桶に移していく。これ、大分重労働だぞ……。
お湯がたっぷり入った桶を、こぼさないように持って歩いて行く。
「今度は男なのか」
「何日持つかな」
コック服を着た料理人が、俺を見てニヤニヤ笑ってそう囁き合っているのが聞こえる。
「どーゆーこと? あんまり長持ちしないんすか、姫様の使用人って」
「おっと、聞こえたか」
「長くて一月、短くて三日か」
「ひえー」
「茶髪の女が多かったが、今度は茶髪の男か」
「茶髪フェチなんだな、姫様は」
はー? どゆことー?
茶色くて長めの髪を、俺は後ろで一つに結んでいる。
その髪をじろじろ見られて首を傾げた。
ていうか、今までの使用人も王子直々に選んでたってことか。
短くて三日って記録があるなら、俺も本気出しちゃいますか。
最短記録、目指します!!!!!
よいしょーっと。
離れにある王子様の部屋の近くに、王子様専用の浴室があった。
大理石で囲まれた部屋の中央に石で出来た浴槽があり、その中に、汲んできたお湯を入れていく。
湯気が出ているが、すぐに冷めてしまいそうだ。
これ、俺も使わせてもらえんのかな。
実家では湯浴みは週に一回程度しかできなかったから、王族の贅沢に便乗したい気持ちが沸いてくる。
「おい」
ごくりと息を呑んで浴槽に張った湯を眺めていると、後ろから声が掛かった。
「なんすかー、うわあ」
後ろを振り返れば、そこにはイケメン王子様が立っている。全裸で。
俺は思わず、首に掛けているタオルを身体に向けて放った。
「なんだ」
「男の裸見る趣味ないんでー」
あーあ。
これがほんとに、美少女のお姫様だったらなあ。
王子様は俺が投げたタオルを受け取って、肩にかける。いや、そこじゃない。下半身を隠せっての。
「おまえも服を脱げ」
「は?」
「俺の背中を流すのも、世話係の仕事だ」
「えっ、いやです」
「は?」
ちゃぽん、と足先から浴槽に着けながら不遜に告げられた言葉に、反射的に答えていた。
「いやっ、男と風呂に入る趣味はないっていうか」
「は?」
二回目だよ。
目を逸らして言うと凄まれる。
俺は慌てて王子の後ろに回って、その肩を押さえて浴槽に浸からせた。
「ほらほら王子様、早く浸かんないと冷めちゃいますよー」
「おまえは」
「だから入んないって。あ、あとで残り湯くださいねー」
「じゃあ一緒に」
「無理無理絶対無理」
「なんでだ」
「姫様だったらいいけどお」
「姫だったらやらせるわけねえだろ」
マジで口悪いっすねあんた!!
金髪の頭を見下ろして、悪態をつきそうになるのをぐっと堪える。
小さく息を吐いて、俺は王子の後ろ姿を見つめた。
姫様だと偽って一切バレていないことに納得できるぐらい、線が細い。
しかし筋肉はしっかりとついている。
――茶髪の女が多かったが、今度は男か。
厨房で聞いた噂話が頭をよぎった。
「も、もしかして王子、背中を流すと称してメイドさんにあんなことやそんなことを」
「それも世話係の仕事だろ」
「ひええ、なんってうらやまし……ッ、いやいや、ダメでしょ! 職権濫用!」
はっ!!
もし俺がこの職から逃げたら、新たな被害者(茶髪のかわいいメイドさん)が生まれる……!?
それは阻止しないといけない!! 決して羨ましいとかは思ってない、ほんとに!
「じゃあ、おまえがやってくれんのか」
「だから職権濫用はダメですってば!」
俺を見上げてニヤリと笑う王子は確かに美形だ。
美形だからって、誰もが絆されると思うなよ!!




