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1-5 一般兵と姫が出会います

1-5 一般兵と姫が出会います




 ギィ、と軋んだ音を立てながら重たい扉を開けると、そこはまるで、別世界のようだった。

 部屋の奥には天蓋付きの大きなベッドが置かれ、その手前にある丸いテーブルと対になった椅子に、姫が座っている。

 窓が開いて、シルクのカーテンが揺れるのと同時に、姫の長い金髪が靡いていた。

 一枚の絵画のようで、俺は小さく息を呑んだ。

「しっ、失礼、します」

 俺の存在に気付いた姫が、視線を向けた。

 長い睫毛に縁取られた青い大きな瞳と目が合って、はっとして今更ながら挨拶をする。

 完全に、見惚れてしまっていた。

 王室で長い階段越しに見上げたときと違い、圧倒される美しさがある。

 街の美人なおねーさんで鍛え上げられた俺ですら、目を奪われた。

 もしかしてこれは、意外に、いや、相当? ラッキーな任務なのでは……。

 手を出すどうこうは置いておいて、こんな美人の傍に毎日いられるってだけで、ハッピーになりそうだ。

 しかもこの姫、声を出さないはず。

「よく来たな」

 ――ん!?

 声を聞いた者は誰もいないはずの姫が、薄い唇を動かしてそう言った。

 しかも、声、低くない!!?

 こんなに可憐で美しいから、しゃべるんだったら鈴の鳴るような可愛らしい声を想像していたんですけれども……。

 椅子から立ち上がった姫が、カツ、と床を鳴らして歩いて俺の前に立った。

 目線は俺より低いが、女性にしたら背は高い方だろう。つまり、スタイルもいい。

 ふんわりとしたスカートの水色のドレスもよく似合っています。

 あ、首元のネックレス、それ、高いヤツですね。さすがです。お似合いです。

 なんて軽口を言う前に、目の前にいる姫が、腕を伸ばして俺の顎を掴んできた。なんで!?


「今日からお前は、俺のもんだ」


 ふっと口角を上げた姫は、低い声で確かにそう言った。

 ――俺!?!?!?


「んん!!?? 俺!!!?? いや俺が!!?? えっ!!?? どーゆーこと!!??」


 頭の中で処理しきれない。

 完全にパニック状態の俺を見て、姫は片目を細めた。

 そして。

 長くてきれいな金髪の髪に手を掛けたと思ったら、その髪を――取った!!?

 代わりに、同じ金髪でも、短い髪が現れる。ええ……付け毛だったの、姫様……。

 衝撃を受ける俺に構わず、姫は、水色のドレスに手を掛けて、それも脱ぎ始めた!

「ちょっ、えっ、ええ!? 姫様!!?」

「うるせえ少し待て」

「いやなにどうなってんの!?」

 口、わっっっる!!!

 うるせえって言った、今!?

 背中の留め具を器用に外して、水色のドレスを脱いで椅子に掛けた。

 姫様は、いや、俺が姫様だと思っていた人は、細身で筋肉のついた白い上半身を晒し、下半身に下着しかつけていない姿になる。

「なっ、えっ、な!? なんで!?」

 なんで俺は、姫様の護衛を任されたのに、姫様の部屋で、半裸の男と向き合っているのでしょうか……。

 戸惑う俺を無視して、その男は、短い金髪をかき上げて目を細める。

「第一王子は死んだって話があるよな」

 街の噂話だが、姫様が表に出るようになってから、確かに、第一王子の姿を見た者はいない。

「そ、そーですね」

 俺はこくこく頷いた。

 その話が、なんで今出てくるの?

「あれは、嘘だ」

「へっ」

「寡黙な王女、それが第一王子である俺だ」

「ええっ!? ――ええええ!!?」

 二回驚いてしまった!!

 第一王子は死んでなくて、なんでか姫の振りをして生きている??

 そして俺は、その、第一王子の世話役になる??

 ど、ど、どういうこと!?

 ていうか!!!

 これが、騎士団長が言っていた『国家機密』――!!?

「そ、それって、国家機密じゃあ」

「そうだな」

 あっさり頷かないで!!

「ななななんでしゃべったのーーー俺殺されるじゃんーーーやだーーーーーーー」

 ああもう敬語なんて使う気がしない。

 この部屋から逃げ出さないとと思った瞬間、首根っこを掴まれた。

「お前が今日から、俺の護衛兼世話係だ」

 いやいやいや、あんたその筋肉があれば護衛なんていらないでしょ……。

「ちゃんと仕事しろよ、カイル」

 うわあ名前覚えられちゃったんですね……。

 口角を上げて笑う姫様、いや、王子様は、それはもう美形だったけれど、もう俺はときめきません……。

「ち、ちなみに……」

「あ?」

「なんで俺なんですか」

 ちらりと視線を向けて尋ねると、王子様は一度瞬いた。

 それから、ぱっと俺の首根っこを掴む手を離すから、バランスを崩しかける。

「わっ」

「さあな」

「へ!?」

「世話係の仕事を教えてやる。ちゃんと叩き込めよ」

「ええー今から!? もー休ませてー」

「おまえの部屋はこの部屋だ」

「どういうこと!!?」

 し、寝食をともにするってこと? この王子と?!

 ぜっ、ぜっ、絶対イヤなんですけど!!!!

 ドレスじゃなくて部屋着に着替える王子の背中を見ながら、どうやって脱走しようかと一日目にして考える俺だった。

 早く、街の警備をする一般兵に、戻りたい!!!!


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