1-4 一般兵が、姫様のお部屋に向かいます
1-4 一般兵が、姫様のお部屋に向かいます
家族と全然感動的じゃない別れをした後、クリスに付き添われて王宮に向かう。
途中で見かけたきれーなお姉さんに声を掛けようとしたら、クリスに首根っこを掴まれて止められた。なんでだ。
「王宮勤めになるなら、分別を持て」
「えー。暫く会えないなら挨拶しときたいんですけど。あ、酒場寄っていい?」
「ダメだ」
「けちー」
酒場だけじゃなく、花屋にもパン屋にも道具屋にも寄りたい。
まあでもきっと、俺が王宮から解放されて自由の身になる頃には、俺が目をつけていた美人なおねーさんたちは、いい人を見つけて結婚しているんだろうな……。うわっ、さみし! せめて結婚を祝わせてくれ!!
「ねークリスくん」
「なんだ改まって」
「街で美人が結婚するって話を聞いたら俺に教えて」
「は?」
「特にどこの誰かは詳細に伝えて」
「どうして」
「心の中で盛大に祝いたいから!」
「はあ……考えといてやるが、姫様の前で他の女の話はするなよ」
「なんで!?!」
「マナーだろ」
どう頑張ったって、姫様に手は出せねーのに!!?
納得いかないことばっかりだ。
真面目なクリスの横顔を見ながら、大きなため息を吐いた。
見上げた空は、雲一つない晴天だ。こんなときに限って!!
どこか不貞腐れた気分のまま、クリスに連れられて、王室の中に入った。
王室の中では騎士団長はじめ王宮騎士の皆さんに囲まれ、王と姫と王子に見下される。
「ただいま、連れ帰りました」
クリスがハキハキとした声でそう宣言する。
騎士団長が頷いて、王に向かって頭を下げた。俺も一応頭を下げておこう。
「よく戻った。それでは、カイル・フォードよ。改めて告げよう」
ごほん、と王が咳払いをした。
俺も背筋を伸ばしながら身構える。
「本日より、姫・クレア=ヴァルディエの護衛兼世話係を任命する」
高らかな宣言は、俺にとっては自由剥奪の宣告だ。
ため息を吐きたいのを、頬に力を入れて堪えた。
「はい」
絞り出した声で返事をし、頭を垂れる。
「騎士団の者よ。姫ともども、補佐を頼むぞ」
「はっ」
騎士団長が敬礼し、クリスをはじめとした団員たちがそれに続く。わーお。
その仰々しさを見て、改めて、大変な任務につくことになってしまったと肝が冷えた。
粗相をしたら、騎士団の皆さんに串刺しにされるんじゃねーかな……。
処刑される未来を想像しながら、「では、姫の部屋へ」と促されて、そのまま歩き出した。
はあ……。
一体全体、どーなっちゃうの、俺の生活。
国一番の美人と噂される姫様を狙う不届きな輩は、後を絶たないらしい。
そういう理由で、姫の部屋の場所は、騎士団長しか知らされていないようだ。
騎士団長が立派な甲冑を揺らしながら王宮の細い廊下を進み、俺はその後をついて行く。
世話係なら王宮勤めのメイドさんと出会えるかもしれないという一縷の望みを抱くが、メイドの気配はどこにもなかった。
むしろ、王宮に入ってから、男の姿しか見ていない。なんでだ。
姫が美人なのはその通りだが、かわいいメイドとか美人なコックとか、いてもいいんじゃないでしょーか。
「ここだ」
騎士団長が足を止めたのは、細い廊下の先にある一室だった。
部屋に繋がる扉は豪華だが、王宮の中でも、隔離されているように感じる。
「ここからはお前しか入れないが……いいか、カイル」
「はい?」
「この中で見たこと、知ったこと、聞いたことを、少しでも外部に洩らしてみろ」
「え」
「俺がお前を殺すことになる」
「ひえ」
騎士団長は兜を脱がない。その素顔を見られないまま、低い声で、腰に携えた剣を握り締めながら囁かれ、背筋が震えた。
「騎士団員ですら知らない国家機密扱いだ」
「お、重いっすね」
「そうだ」
なんとか絞り出した言葉に騎士団長は頷いて、剣から手を離す。
「そうならないことを祈るよ。あとは、まあ、頑張れ」
「えっ?!」
「じゃあな」
頑張れってなに、どういうこと!?
喋らない寡黙な姫様が、この部屋の中にいるんじゃないんですか!!?
片手を挙げた騎士団長は、そのまま背を向けて細い廊下を歩き出した。
ひ、ひええ……。
早くも逃げ出したいけれど、逃げたところでまた屈強な男たちが俺を探し出して連れ戻されるんだろう……。
はあ……。
致し方なし。
俺は一歩足を踏み出して、扉に手を掛けた。




