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1-3 一般兵が、一般家庭に帰ります

1-3 一般兵が、一般家庭に帰ります





 来たとき同様、多くの騎士様たちに囲まれて家に帰ることになるのかと身構えたけれど、意外や意外、俺について来たのは同期のクリスくんだけだった。よかった。さすがに、ぞろぞろと騎士様を引き連れて家に帰ったら、家族がびっくりしすぎてどうにかなるかもしれない。うちの家族も、絵に描いたような一般家庭なんだ。不要な刺激は勘弁してもらいたい。

「ていうか、一体全体急になんなの。えっ、俺何かした? もしかして実は何かの罰だったり?」

 隣を歩くクリスに聞いてみる。クリスは、甲冑の兜だけを外していた。

 銀髪に紫の瞳を持つクリスはイケメンだ。士官学校時代も、女子に人気があった。街の女の子から手紙をもらっていたのを羨ましく見ていたのを思い出す。

 クリスは垂れ気味の目で俺を見て、小さく息を吐いた。

「罰の類じゃない」

「じゃあなんでー」

「さあな。だが、名誉なことじゃないか」

 出た、出ました。やはり真面目で一生懸命なクリスくんは、姫様の護衛兼世話係なんて、良い仕事だと思っているようだ。

「じゃあ代わる?」

「無理だろ。陛下も言っていたが、おまえにしか無理なんだと」

「いやそれがマジで意味わかんない」

 絶対、絶対、ぜーったいに、俺よりクリスの方が、いい仕事すると思う。賭けてもいい。

「正直、騎士団でも、どうしておまえがという話題で持ち切りだ」

「そうでしょうねえ……」

 俺なんて、騎士団の方々には名前すら知らない、ただの一般兵だ。

 そんな俺が、何をどうして、姫様付きの任務を与えられるんでしょうか。

 俺が一番知りたい。

「これはあくまでただの噂だが」

「噂?」

「姫様自身が街に視察に出て、おまえに決めたらしい」

「はあ?」

「見初められたってことじゃないか」

「はああ? いくら見初められても、外にも出られないし、姫様にどうこうもできないんでしょ!?」

「その発想自体、極刑でもおかしくないな」

「きびしー!」

 何をどうして俺が選ばれたんだ。

 ここ最近の俺は、花屋のミレイユさんをお茶に誘って断られ、防具屋のアニエスさんに声を掛けて眉を顰められ、酒場のセレナさんに酔って泣きついて叱られた。

 街の警護もしていたけれど、主な出来事はそれぐらいだ。

 そんな俺を、一体、どうして……。

 しかも、護衛についたら、王宮の外には出られないという……。

 じ、地獄……。

「ねえ……」

 隣を歩くクリスに声を掛ける。

「なんだ」

「クリスも王宮勤めなんでしょ。飲み行こうよ」

「外には出られないんだろ、おまえは」

「おまえは出られるっていうの!?」

「制限はない」

「ずるいー!!」

「諦めろ。何度でも言うが、名誉なことなんだぞ」

 繰り返すクリスは、真面目だ。

 俺は、名誉よりも、美味い酒が飲みたいし、美人なおねーさんと話がしたい。

 そんな自由が、なくなる、なんて……。






 「姫様の護衛兼世話係!?」

「あらまあ、よかったねえ」

「もう二度と帰って来なくていいよ」

 家に帰り、クリスが家族に説明したら、驚く父親、笑う母親、辛辣な妹と、それぞれの反応が違った。

 クリスが深々と頭を下げている。

「お話した通り、王宮に戻れば、なかなか自由な時間がなくなるかもしれません」

 随分丁寧に言っているが、外出禁止と言われたぞ。

 俺は息を吐いて、頭をかいた。

「クリス、やっぱりそれって断ること――」

「なにを言ってるんだカイル!!」

「そうよ、こんなチャンス一生来ないわよ!?」

 俺が全部言う前に、父親と母親が被せてくる。

「若い女の尻ばかり追いかけてきたおまえが王宮勤めとは……」

「ほんと、幾つになっても身も固まらないし、かといって出世もしないし、どうなることかと思ってたのよねえ」

 父親が涙を拭って、母親も頬に手を当てて吐息交じりに話している。

「うちの兄、返品不可なんで」

 まだ十代の妹が一番手厳しい。お兄ちゃん、何かしましたか。

 俺と同じ茶色の長い髪を、小さい頃によく三つ編みにしてやっていたのは俺なんだが。

「――ということのようだが」

 クリスが俺を見た。

 あーそうですね。これはもう、王宮に行かないと、家庭での居場所もなくなりそうだ。

 俺はやむなく荷物をまとめ、家を出ることになったのでした。

「カイル」

「ん?」

 父親に呼び止められて、振り返る。

「いいか、決して無礼なことはするんじゃないぞ。まかり間違って姫様に手を出すなんてことは絶対にするな」

「そうね。どうせ死ぬなら、姫様をお守りして死になさい」

「骨ぐらいは受け取りますんで」

 父親と母親は真面目な顔でそう言って、妹はクリスに向かってそう告げた。

 姫様に手を出して極刑を受ける前提で話を進めるの、やめてもらっていーですか。

「はいはい、そんじゃま、行ってきます」

「帰ってこなくていーよ!」

 妹はいつまでも反抗期だ。

 ひらひらと手を振って、クリスと並んで家を出る。

 まあ、こういうもんだよな、家族って。


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