1-1 一般兵ですが、ナンパしてたら急に拉致されました
1-1 一般兵ですが、ナンパしてたら急に拉致されました
花屋のミレイユさん、パン屋の娘のルチアちゃん、お色気たっぷりヴィオラさん。
この街は美人が多くて気に入っている。
今日も今日とて、街中の見回りと称して美人さんの元へと挨拶に行く。
やっぱりいいな、美人は。姿を見るだけで元気になってくる。
あわよくばお付き合いなんかして結婚して三人の娘に囲まれた生活をしたいと夢見ているのだけれど、なかなかどうして、みんな手強い。
声を掛ければ、にこっと笑ってくれるのに、デートの誘いは断られ、いつの間にかいい人を見つけて結婚している……なんていうのがザラだ。
あっという間に二十六歳、同期は順調に出世しているけれど、俺は永遠に一般兵のままです。いいんだけどね、安全だから。
死なない程度に頑張って、平和な家庭を築ければ順風満帆な人生だと思っているが、一向に相手が現れない。
よし、今日はこのまま、酒場が開く時間を待って、看板娘のロザリアさんの顔でも見に行こうかな……。
そう思っていたら、買い物帰りらしく、たくさんの荷物を持っている女の子を見つけて駆け寄った。
「おっと」
紙袋から落ちたりんごを拾い上げる。
「あ、ありがとうございます」
「いーえ、転がんなくてよかったね」
「ふふ、本当に」
上品に笑うのは、道具屋の娘のタニアちゃんだ。
りんごを手渡すと、白くて細い指が俺の指に当たる。
「ここで会ったのも運命だと思って、どうかな今夜は俺と、」
「まあ」
タニアちゃんの紫の瞳を見つめて言うと、タニアちゃんが声を上げた。
ざっ、ざっ、ざっ。
それは俺への反応ではなく、物々しい足音と、甲冑のガチャガチャいう音に驚いた声だった。
え、なに、なんですかこれは。
気付いたら俺とタニアちゃんは、甲冑を着た王宮の騎士団の皆さんに囲まれていた。
「カイル・フォードだな」
一歩前に出た騎士の一人が、俺を名指しで呼ぶ。
一般兵の俺とは装備からして違う、大層な人たちが、一体なんの用なんでしょーか……。
「そうですけどお」
「来てもらうぞ」
「え」
「あら」
タニアちゃんが口許に手を当てて驚いている。
「いや、どこにですか。俺今見回り中なんすけどー」
「いいから来い」
「わお強引」
不審者を抑えるには、両肩をそれぞれ一人ずつ持つのがいいって士官学校で習いました。
それを実行している騎士の二人を交互に見て、小さく息を吐く。
「タニアちゃん、落ち着いたらご飯行こうね」
「よくわからないけど、気をつけて」
手を振るタニアちゃんに向かって言うけれど、このご飯の約束(?)は、一生叶わないことになるなんて、そのときの俺には知る由もない。




