プロローグ
プロローグ
――エルディア王国の王宮で、王が頭を悩ませている。
玉座に座る王の両隣には、頬杖をついて澄ました顔をしている姫の姿と、人格者であり次期国王に相応しいと評されている第一王子の姿があった。
どちらも整った顔をしているが、特に姫は、大きな青い瞳が長い睫毛で縁取られ、煌めく金髪の長い髪も合わせ、国一番の美人だという声が名高い。
王の前には、王宮を取りまとめている騎士団長が、膝をついている。
「――五人目です。メイドが担当を変えてほしいと」
「何故だ」
「姫、が」
「はあ……」
騎士団長が皆まで言う前から、王は大きなため息を吐き出した。
「今度のメイドも、もしや」
「ええ。茶色の髪をしていました」
「またか。お前は何度言ったら……」
王が額を押さえる。
視線を向けられた姫は、決して王と目を合わさない。
王も最初から返事を期待しておらず、額を押さえた後に首を振って顔を上げた。
「あいわかった。次の姫の給仕は、男のみとする」
「は?」
王の宣言に、今まで我関せずといった態度を取っていた姫が、初めて声を発した。
訝しげなその声に、今度こそ、王は姫に厳しい視線を送る。
「メイドに手を出すようでは、どんな噂が立つかわからん。屈強な男を宛がえば、お前も大人しくなるだろう」
「どうやって選ぶんだよ」
「募集でもするか、名うての戦士を」
「やめてくれ、考えただけで寒気がする」
「まあまあ、父上。騎士団の中でも、喜んで立候補する者がいると思いますよ」
「ふうむ……」
二人のやり取りを穏やかに見守っていた王子が進言すると、王が腕を組んだ。
騎士団長は、膝をついたまま顔を伏せて目を合わせまいとしている。
「まあ、考えておく。姫、お前は暫く謹慎だ」
「はあ!?」
「世話係が見つかるまでは絶対に外を出歩くんじゃないぞ」
王が真っ直ぐと姫を見据えて低い声で言うと、不満げにしていた姫が、「ちっ」と舌打ちをした。
しかしそれ以上は何も言わず、頭を下げて退室する騎士団長の背を見送っていた。
――世話係が見つかるまで、と王は言った。
「探してくる」
「は?」
「見つけてくりゃいいんだろ」
「いや、そうは言ったが、外に出るなとも」
王が引き止めるのを聞かずに、姫は、長いドレスの裾を摘みながら歩き始めた。
王室から一歩踏み出すと、姫は、一言も口を利かなくなる。
絶世の美貌を持つ姫の声を聞いた者は誰もいないというのが、街の人の証言だ。




