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その九十
ピンクスネーク大活躍の巻から二日後の午後である。きのうシャミーは仲麻呂といっしょに抹茶オーレ帝国へ廃棄の報告をしに行った。
シャミーが愛さんに妊娠うんぬんと偽ったのは、愛さんに、
「シャミーちゃん、ちょっと太ったんじゃない」
といわれたからのようである。
きのうぼくはシャミーにそういう一連のことをきちんと訂正しておくようにと、ややきつめにいっておいた。
イナバ物置経由での帰郷のさいは、行きか帰りどちらかで愛さんに会うはずだから、そこで今回の誤解は解かれることとなるだろう。
さて、これからぼくは青空市に行って、手作りのめんこを何個か買う予定である。アンダーソンさんより頼まれたのだ。
「あの、子どもの遊びのやつの?」
「ええ。マロンオーレに欲しがってる人がいるのよ」
きょうのアンダーソンさんはまたべつの時空の国で、なにかしらの仕事をしているらしい。竹膳さんもそうだが、やり手の方はのらくら者のぼくとはちがって、つねに忙しいのである。
というわけで、まずは自転車で〈きなこ神社〉に行ってみる。
「うーん……」
しかしきょうは手作りめんこを売っている人は出店していなかった。それでも例の手作りクッキーを売っている三十五、六の子はいたので、ぼくはしばらく神社をぶらつくことにする。
「あのう、森野さんのお知り合いの方ですよね」
ぶらつくといっても先の子の近辺ばかりをうろうろしていたので、こう話しかけられた。まともにお話しするのは初めてである。
「ええ、そうです」
「わたし、ちょっと飲み物買ってきたいんですけど、ここ見張っててもらえませんか」
「いいですよ」
ぼくは靴をぬいでブルーシート中央の店主の位置にすわる。やがてクッキーの子はもどってきた。
「すいません、助かりました」
「いえいえ」
「新倉さんですよね」
「ええ」
「森野さんから、たまに新倉さんのお話、きいてるんです」
ぼくは森野さんにも丸先輩にも、このクッキーの子が好きだと何度もいっている。夢に出てくる頻度などもかんがみると、いちばん好きなのではないかと思うときもある。
「新倉さんて、きき酒師さんなんですか」
「いやいや、パッケージがちがうだけで中身はおなじの安酒を延々検証してるだけなんですよ」
「そんなのあるんですか」
「ええ――クッキー、どれでも全部一四五円なんですね」
「はい。わたし身長一四五センチなんで、そうしてるんです」
「そうなんですか」
「新倉さんて、小柄系童顔熟女大好き紳士なんですよね」
「あはははは、そうなんですよ、じつは」
「森野さんにきいたんです。わたしのことも好きそうですもんね」
思わぬ展開である。こういうことがまれにあるから、人生はマ・シェールなのである。ボンジュールなのである。ぼくの異性にたいする渇望をつかさどる男性ホルモンだかスケベ魂だかが一気に沸点に達した。ここは勇気をもって攻めるべきである。
「お嬢さん、お名前は?」
「三永モモヨです」
「モモヨさん、今度ふたりで居酒屋に行きませんか」
「え、いきなりですか」
「ウイ」
「わたしお酒弱いですよ」
「ちゃんと送ります」
「送るだけですか?」
「介抱もします」
「どうやって?」
「そのポロシャツのボタンを二つ、はずしてあげます」
「新倉さんて、おもしろいですね」
ぼくたちはアドレスを交換した。




