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その八十九
「ピンクスネーク!」
とアンダーソンさんは叫んだ。和泉さんはハンカチで涙を拭っている。ぼくはあまりの衝撃にただ呆然としていた。
「ピンクスネークに敬礼」
艦長がこういうと、軍の方々は握りしめた右の拳を左胸に当てていた。和泉さんもアンダーソンさんもこの敬礼をしているので、ぼくも右拳の親指側を左の胸に当てて背筋を伸ばす。
「ピンクスネークよ、ありがとう。きみは英雄だ。今夜は『くらのすけ』か『蔵そだち』か『蔵だより』か『蔵人三代』を飲んで、きみを弔います。本当に本当にありが、あれ?」
長々の胴体がなくなった〝あたま〟だけのピンクスネークが動きづらそうにしつつも、こちらに這ってきた。
「なにげに生きてるよ、ピンクスネーク。みじみじだけど」
ぼくはアンダーソンさんにまたぞろたずねてみる。
「ピンクスネークは自爆して胴体を失っても、壺に入って静養していれば、元の長さにもどります」
アンダーソンさんは百科事典をこう読み上げた。
「そうだったのか」
ぼくたちは笑った。軍の方々も笑っていた。
「スローダウン」
戦艦にもどると和泉さんは、ピーチオーレの皇帝に王子が無事救出されたことを通信機で報告していた。
「皇帝がみなさんにお礼をしたいとおっしゃっているのですが」
「え」
「これからピーチオーレにお越しになりませんか」
これをきいたアンダーソンさんは、
「わたしピーチオーレ行ってみたい」
とはしゃいでいた。竹膳さんも和泉さんに誘われて完全に行く気になっている。
「どうするかな……」
ぼくもできることなら行ってみたかったが、プリントゴッコさんから、
「雑誌、新刊できあがりました。これから持っていきます」
というメールが送られてきていた。遠出している旨を真摯に伝えたとしてもぜったいゴッコさんは当日に応対されなかったことを深読みしてイジケたり落ち込んだりする。それにシャミーの晩飯の問題もあった。
そんなわけでぼくは和泉さんにシャミーの晩飯問題のほうだけを話して、ピーチオーレには行かずにまっすぐ帰ることにした。
「やっぱり奥さんのことが心配なのね」
アンダーソンさんがぼくの腕のあたりをポンポンと軽く叩いてきた。
「奥さんじゃないですよ。シャミーは」
「でもゆうべ、シャミーちゃん、そういってたわよ」
「わたしもそうききました」
「しょうがない子だな」
竹膳さんは軍の方々が着ている軍服に興味をもっていた。
「これヤマトのやつみたいですね。めっちゃ、かっこいいですなー」
「戦艦の倉庫にいっぱいありますよ。一着あげましょうか」
「マジですか。ぜひください! いやぁ、超うれしー」
「何色がいいですか?」
「うーん、赤もいいけどな」
竹膳さんはしばし迷ったすえに白地に青い線の入ったやつにしていた。ぼくは白地に赤のライン、アンダーソンさんは黄色の生地に黒い線の入ったタイトフィットの軍服を一着もらった。
「シャミーさんにも一着もっていってあげたら」
と和泉さんが提案してきた。
「そうですか。じゃあ、よろこぶだろうから」
「何色にします? 女子用はこのへんなんですけど」
「ああ、黄緑の生地に黒のラインのタイトフィットあるんですね」
「ええ」
「じゃあ、これにしておこうかな」




