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その八十六
〈ハムレット〉で鶏肉などを買う。二千円以上買うと福引ができるらしく、ぼくはうながされるままにガラガラをまわした。
「ああ、惜しいですね、お客さん」
ウェットティシューの小さいパックをもらう。まあチロルチョコやうまい棒よりはマシである。店を出るとシュゾンママにばったり会った。
「あら、新倉さん」
「こんにちは。シュゾンちゃん、どうしてますか?」
シュゾンママはここ数日のシュゾンちゃんの健闘ぶりをおしえてくれた。
「甘酒デニッシュをトラック三台ぶんも、もう売っちゃったんですか」
「ええ。こんなことは、若いころの竹膳さんですら、なかったようですよ」
「甘酒も売れてるんですかね」
「それが甘酒自体はまだなかなか売れないらしいんです。ですけど、チュツオーラさんで出してる『ヤシ酒サワー』っていう缶チューハイは二箱ほど売ったみたいで」
「すごいな。向いてるんじゃないですか、こういう仕事」
だがしかし、トラック三台ぶんの甘酒デニッシュをお買い求めになったそのお客様は、竹膳さんがあとでお金をもらいに行っても、なかなか代金を支払ってくれないのだという。
「シュゾンちゃんはどこかの業者に売ったんですか?」
「いえ、個人に売ったみたいです」
「個人がトラック三台ぶんもデニッシュを爆買いしたんですか」
「そういってました」
その件にかんしては竹膳さんがいま対応しているようなので、きっとなんとかするだろうが、売ったはいいがお金はもらえないということになると、ある意味のっけから大チョンボをやらかしてしまった、ということになってしまうのかもしれない。
シュゾンママと別れたあと、ぼくは竹膳さんにメールを入れてみた。
「いやぁ、参りましたよ」
しばらくすると竹膳さんは電話をかけてきた。
「まだお金もらえないんですか?」
「そうなんですよ。最初はなんか中古の船みたいなの質に入れるとかいってたんですけど、さっき交渉に行ったら、今度は逆に身代金要求してきましてね」
「何なんですか、それ。めちゃくちゃですね」
「そうなんですよ。シュゾンちゃんの初仕事だから、うまく白星にしてあげたいんだけど、これはわたしをもってしても半ばお手上げですね」
「爆買いしておいて、身代金要求って……誰か人質でも取ってるんですか」
「ええ。旅先で知り合った連れを人質に取ってるんです。シュゾンちゃんが御用聞きに行ったときはその二人、仲良く酒盛りしてたみたいですけどね。いま人質になってる人が缶チューハイ二箱も買ってくれたんだから」
「そっちはお金もらえたんですか?」
「はい、そちらの方はその場で支払ってくれたようです」
「で、竹膳さん、身代金どうするんですか?」
「もちろんそんなもん払いませんよ。見たこともきいたこともないそんなピーチオーレとかいう架空の国の王子のためになんか」
「ん!」
「わはははは、傑作でしょ。なにが王子だ」
「竹膳さん、いま、どどどどこの国って、いいました?」
「ピーチオーレ帝国。バカにしてますよね。そんな国あるわけないのに」




