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その八十五
そばを食べ終えると、愛しの愛さんは、
「ごちそうさま」
と帰っていった。入れ替わるように今度は和泉さんがチャイムを押す。
「あれ、行かなかったんですか、田上温泉旅館」
「行ってきました。でも王子はもうあの旅館をチェックアウトしてしまっていたので、帰ってきたんです」
「そうでしたか」
きょうの和泉さんは三輪バイクである。これで島から帰ってきたのか、きのうのクルマはどうなったのかは謎である。
「あの絵画を描いた方にお会いしたいのですが」
「戸賀先輩の製作所にだいたいいますよ」
「その方、お名前はなんていいましたっけ」
「笠戸さん。いまメール入れておきますね」
「すみません」
和泉さんは戸賀先輩のところへ向かった。
「しかし王子はなにやってんだろ――めっちゃ風来坊だな」
さて、仕切り直しである。ぼくは押入れから「四十路の女たち」を出して、またぞろ鑑賞する。
「ごめんくださーい」
「あれ」
またまた来客である。玄関を開けるとアンダーソンさんであった。
「皇帝だいじょうぶだったんですか?」
「それが仮病だったんです。ご公務さぼりたかったみたい」
アンダーソンさんはモデルの春代さんにお金を渡すとのことだった。
「いまどこにいるか、確認してみましょうか」
「お願いします」
電話してみると、春代さんはやはりピカチュー邸にいた。
「あいつ、絵描くことだけは真面目だからな」
「創作、進めてくれてるようね」
普段ぼくのように歩くことを心がけているアンダーソンさんは徒歩でピカチュー邸に向かった。
「おれもきょうは歩くか」
目標は三時間越えウォーキングである。距離にすると十八キロである。歩きながら買い物も済ませる予定だ。オムライス用の鶏肉とたまねぎはぜったいわすれてはならない。
「まず買っちゃって冷蔵庫に入れてから、また歩こう」
すこし遠かったが〈ハムレット〉に向かう。一つは歩行距離を稼ぐためである。そしてもう一つは試食スター氏がこのスーパーの鶏肉を褒めていたからである。
道すがらにあった一度も入ったことのないホームセンターにまずは寄ってみる。ホームセンターにも酒を売っているところがあるからだ。
しかしこのホームセンターは蔵シリーズは取り扱っていないようだった。缶チューハイの種類はぼちぼち多かったけれど、それ以外はとくに際立った特徴はない。調査は打ち切りである。
「あっ、そうだ」
ぼくは「ランチジャーはどのあたりにありますか」と店員にたずねた。
シャミー用の弁当箱である。サーモスのけっこういい感じのやつがあった。スマホで調べてみると、アマゾンでの販売価格とさして変わりはない。
「デカいやつのほうがいいだろ」
ぼくはその保温弁当を購入した。




