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その八
はなれにもどったのちにまず実家へおもむく。カセットコンロと焼き網を借りるのである(最近はなれでは、IHのクッキングヒーターを使っているのだ)。
「義姉さん、おれ、いまからイワシとか焼くんだけど、このウチワ、使っていいですか」
「いいわよ」
納屋の横っちょにある縁台を中央に移動させ、そこにカセットコンロと焼き網を用意する。
「サンマとイワシ二匹ずつでいいかな?」
「はい、じゅうぶんです」
最初からぼくはサンマとイワシの半分は今晩のおかずにしようと思っていたのである。焼き魚だと骨を取るのが面倒なので、甘露煮にするつもりだ。圧力鍋でつくればあっという間である。
「よっちゃんイカも同時に焼くんですか?」
「はい。よろしくお願いします」
しばらく魚を焼いていると、案の定ものすごく煙が出てきた。
「うわぁ、目に染みる」
ハンカチで涙を拭いていたので、すぐには気づかなかったが、いつのまにか庭には野良猫たちが何匹か入ってきていた。
「やっぱりこの匂いを嗅ぎつけてきたか」
猫はベニカナメモチの生垣の隙間からさらに何匹か侵入してきた。ぜんぶで十匹ほどだ。みんな喉を鳴らしてサンマやイワシやよっちゃんイカを狙っている。
和泉さんはその猫たちに本国への伝言を低姿勢で頼んでいた。どうやらこれが時空学校で教わった他時空の国で迷子になったときの対処法のようである。
しかし当然ながら野良猫たちは和泉さんのそのお願いを、きいているようにはみえなかった。
和泉さんに一つもらったよっちゃんイカに食らいついていたチャトラの猫もゴロゴロいっているだけで、和泉さんの訴えをあからさまに無視している。
「キャオ」
ぼくはこう発すると、しばらく硬直してしまった。猫たちに混じって一匹だけ犬がいたからである。
もちろん犬がいたくらいではここまでは驚かない。その犬が〝ロボット犬〟だったから、こんなにびっくりしてしまったのだ。
昔ソニーがつくっていたアイボみたいな感じのロボ犬が、猫たちよりちょっと遠目の位置からこの様子をじっと観察していたのである。
「い、い、い、和泉さん!」
「はい」
「コココ、コイツですよ、ぜったい。こっちに伝言頼んだほうがいいですよ」
「でも、それ犬でしょ?」
「犬だけど、猫よりちっちゃいじゃないですか。子猫くらいですよ」
「学校では大人の猫って、習ったんです」
「でもほら、このイワシ食べてる猫みてくださいよ。大人の猫だけど、ぜんぜん伝言のことなんか、あたまにないでしょ。こっちのロボット犬だったら、なんか時空超えて、いろいろやってくれそうじゃないですか」
「でもお魚食べないんじゃないかしら」
ぼくは試しにサンマをロボット犬の前に提示した。
ロボット犬は若干首をかしげて魚を凝視していたが、食べることはしなかった。薄汚れた白猫にやがて横取りされても無表情である。
ぼくは和泉さんの代わりにこのロボット犬にピーチオーレ帝国へのSOSをいちおうお願いしておく。
「あのう、こちらの和泉さんという女性がですね、そのピーチオーレ帝国の、わがまま王子の道楽旅行の世話係としてこちらに来ましてね、それでですね、かくれんぼやってるうちに、まあ王子に撒かれちゃいましてね、で、お金もないし、なにもなくて困ってるんですよ。ん? わたしですか? わたしはあのう、『蔵だより』の三リットルパックを探してましてね……でまあ、それだけじゃなくて、もちろんね、スケベ根性も発動してますよ、まえの章ではジェントルマンとしてついいっちゃったみたいに記してますけど、そりゃあ、たしょうは発動してますよ、旦那。うんうん、もうなんだかんだね、三万くらいつかってるんですよ。いやいや、そんなすぐにはナニしようとは思ってないですよ。あくまでも人助けで出しただけですからね、うんうん。でもまあ今晩ウチに泊まることになってますからね、うーん、うんうん、まあ初日なんでね、ぼくは静観してようとは思ってるんですよ。ん? いやいや、まあほら、今回はエロ描写は控えめにしようと思ってるから――」




