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その七
和泉さんはいま着ているもの以外服がなかったので、ぼくは〈お気に召すままーと〉の二階で衣類を買うよう勧めた。とりあえず二万円ほど渡す。
「すみません」
「あと必要な日用品も遠慮なく買ってください」
「はい」
「ぼくは、ここに座って待ってますから」
しばらくすると和泉さんはもどってきた。ポロシャツと短パンという身なりになっていた。
「制服は?」
「こっちの袋に入ってます」
「クリーニング出しますか」
このスーパーの横っちょにはクリーニング屋さんがある。きょう店に入ったとき、店番の婦人をチラッと見て、ちょっと色気があるなと思ったので、おぼえているのである。
和泉さんといっしょにその横っちょのクリーニング屋に行き、スピード仕上がりを選択する。
「あしたの午前十一時には仕上がります」
店番の婦人はぼちぼち愛想は良かったが、左手に結婚指輪をはめていた。すこし残念である。まあそれはともかくとして、肝心なのは和泉さんが時空学校で習った「他時空で迷子になったときの対処法」であった。
「え、あのう……子どもが食べるやつの、あの?」
「はい」
なんでもそれには駄菓子のよっちゃんイカが必要とのことだった。
そんなわけで、さっそくスーパーのお菓子コーナーを物色してみる。
「あっ、あった」
マンモスラッチーなことに〈お気に召すままーと〉によっちゃんイカは売っていた。
とりあえずぼくは三つほどお買い物カゴに入れる。
「マンモスラッチーって、どういう意味ですか?」
「最高に幸運ってこと」
「いろんな言葉知ってるんですね」
「まあいちおうオールイングリッシュ紳士という称号をいただいているからね」
「英語なんですね」
「ほかになにか必要なものありますか」
「あと、生のサンマとイワシも用意していただくと、ありがたいのですが」
「食べるんですか?」
「おもてで焼いてほしいんです。よっちゃんイカといっしょに――できますか?」
「カセットコンロも焼き網もあるから、ウチの庭で焼けますよ」
スーパーの鮮魚コーナーに行くと、本家本元の試食スター氏がマグロの刺身を試食していた。ぼくに気がつくとちかよってきて、
「これスジだね」
と耳打ちしてくる。
「刺し身の試食もあるんですね」
「週一でね。だいたいこの時間から出すんだよ」
試食スター氏は試食しながらまわりの客とコミュニケーションを取るのが得意である。
そして、そのさいに知ったことなどをほとんど受け売りでぼくに話すのである。得意になって延々話してくるのである。
「きのう隣の県で、クマが出たみたいだ」
「そうなんですか。怖いですね」
「今年は全国的にクマが荒れてるね」
「はあ」
ぼくは生サンマと生イワシを四匹ずつ買って、すみやかに鮮魚コーナーをはなれた。




