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その六
義姉よりきいた試食お姉さんは、試食をしてはいなかったけれど、すぐみつけることができた。
きのう義姉さんがいっていたとおり、髪をピンクに染めていて、エレベーターガール然とした服を着ていたからである。
その制服は半袖で上着の色はライトパープルだった。まず、まちがいないだろう。
とりあえずぼくはこの制服の女性に声をかけてみる。やはりお金に困っているとのことだったので、
「好きなの選んでください」
とお弁当を買ってあげた。
「あっちのイートインのスペースで食べましょう」
「はい」
この制服の女性は和泉千鶴さんとおっしゃる方であった。ちなみにお召しになっているものは、なんでもお偉い方の介添え役用の制服らしい。
「社長の秘書とか、そういう感じですか?」
「王子です」
和泉さんの故郷は「ピーチオーレ帝国」というところで、そこの王子の世話役を彼女は担わされていた。
しかし和泉さんいわく〝時空飛行船〟でこのK市に到着すると、王子は和泉さんに、
「なあ、かくれんぼやろうぜ」
と唐突にいいだし、和泉さんが、
「もういいかい」
と目をつぶっていると、その隙に単独で飛行船に乗って、どこかへ行ってしまったようなのだ。
「『まーだだよ』とかもいってこなかったんですか」
「最初のほうはいってました」
王子はわがまま旅行の連れとして時空学校を出たばかりの新人を抜擢した。おそらくこれは、このように世話係兼見張り役を煙に巻いて自由に動き回るためだろう。
王子の作戦はだから見事に成功したということができる。しかし、とばっちりを食ったのは新人の和泉さんである。
旅行用の和泉さんの荷物はぜんぶ飛行船のなかにあった。つまり和泉さんは、いってみれば身一つで時空のちがうこのK市にポツンと取り残されてしまったのだ。
それでも和泉さんは時空学校で習ったとおり、他時空の国に行くということで、いわゆる〝かつあげ対策〟として靴下の中に千円札二枚を小さく折りたたんで入れておいた。
だからゆうべは健康センターでどうにか過ごしたとのことであった。
「うんうん、ぼくもむかし蕨の〈ジーピー〉とかに行くときは、いくらか靴下に別枠でしまっておきましたよ」
「やっぱり」
「でも二千円じゃ、もうお金ないんじゃない」
「そうなんです……」
和泉さんは今晩ぼくの住まいに泊めてもらいたいと願い出てきた。もしかしたら新手の美人局かもしれないけれど、そんな悪い人とも思えなかったので、ぼくは、
「ウイ、マ・シェール」
とそれを了承した。親切心やスケベ中枢の発動ではない。ただオールイングリッシュジェントルマンとして、つい発してしまったのである。
「和泉さん、じゃあさ、泊めてあげるからね、『蔵だより』の三リットルパック買ってきてくれないかな? 売ってるんでしょ、お国には」
「ええ――ですけど、いまのところ、故郷との通信もできなくて……」
「こういう携帯通信機みたいなものも、もってないんですか?」
ぼくはスマホを取り出して和泉さんにみせる。
「ええ。ピーチオーレには、そういう小型のものはないんです」
「そうですか……」
和泉さんはたいへんな状況に置かれていたが、それでも時空学校の二年のときに習った「他時空で迷子になったときの対処法」はひと通りおぼえていた。だからぼくは、
「まずはその対処法をやってみましょうか」
と山菜おこわ弁当を食べつつ励ましたのである。




