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その五
この界隈のイオンには、おそらく「くらのすけ」しか売っていない。だからつぎの日のぼくは午前九時半から店を開けている〈スーパーバリュー〉にまず行ってみることにした。
「うーむ……」
しかし〈スーパーバリュー〉には「蔵そだち」はあったけれども「蔵だより」は売っていなかった。この二種はおなじ売場には共存しない。まあこれがマナー(?)なのである。ぼくは二店目に向かった。
おつぎの店は〈ロピア〉である。ここにも「蔵そだち」しかなかった。つぎに寄った〈ベルク〉には「蔵だより」はおろか「蔵そだち」も「くらのすけ」も「蔵人三代」も売っていない。
このあと〈マルエツ〉や〈カスミ〉など四、五店ほどおもむいたが、すくなくとも「蔵だより」の三リットルパックはどこも置いていなかった。
ぼくはいったん自宅にもどって昼飯を食べることにする。小休止である。
義姉のクルマが空いていたら午後は市外を調べる予定である。メールで問い合わせてみると、乗っても良いとのことであった。
「よーし」
こうなったら意地である。握り拳である。なんとしても「蔵だより」の三リットルパックを探し出してみせる。
実家に行くと、義姉はすぐクルマのカギを渡してくれた。
「クルマ使うなんてめずらしいわね。急用?」
ぼくは理由を話した。義姉は、
「じゃあわたしも、どこか行ったら、ざっと探してみるね」
といってくれた。たぶんこの界隈には売っていないが、いちおうぼくは、
「お願いします」
といっておいた。義理である。最後にガソリンを満タンにしておくのも義理である。
しかし義理をはたしてもオブリゲーションとオールイングリッシュ紳士としていいなおしても隣の市の主要スーパーのどこにも三リットルパックは置いていなかった。
さらに他県まで単身出向き、血眼になって各スーパーの酒類コーナーを物色したのだが、他県のあの〈河内屋〉にすらも「蔵だより」の三リットルはなかったのである。
「マンモスアンラッチーだな……」
ぼくはきょうのところはあきらめることにした。ガソリンを満タンにして義姉にクルマを返す。
「義姉さん、ありがとう」
「お酒みつかった?」
「ダメでした」
「わたしきょう〈お気に召すままーと〉で、まえに三千世くんがいってた〝試食スターさん〟に会ったわよ」
義姉がいった〈お気に召すままーと〉というのは、ぼちぼち近所のスーパーである。
「よくしゃべるでしょ」
「いや、どちらかといえば、おとなしいお姉さんて感じだった」
「じゃあぼくがいってるスター氏とちがいますよ。ぼくがよく遭遇するのは、おじさんだから」
「おじさんだったっけ……でもその人も試食販売のこと、けっこう知ってたわよ」
「おじさんのほうの試食スターはいつも物知りぶってるけど、ただの受け売りっていうか、思い込みみたいな感じですけどね」
「わたし、そのお姉さんのほうの試食スターさんに『蔵だより』の三リットルパックのこと、きいたのよ」
「うんうん」
「そしたらね、やっぱり三リットルはこの界隈じゃ売ってないみたい。でもそのお姉さんの故郷の酒屋さんには置いてあるんだって」
「キャオ!」
これが本当であればたいへんな吉報である。ぼくは義姉にその〝試食お姉さん〟の特徴をきいた。
「細身できれいな人なんだけど、ちょっとお金に困ってるみたいだった」
「細身ね……身長は?」
「わたしよりちょっと小さかったから一五五センチくらいかな」
「お金に困ってる感じって?」
「サトウのごはん、スーパーの電子レンジであたためて、試食販売されていたウインナーをおかずにして食べてたの」
「へー」
「でも格好はね――」




