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その四
山城さんから先のように指示されたとき、ぼくは心のなかで「蔵だより」ならば、もよりの〈ビッグエー〉に売っているから、散歩のあとにささっと買えばいいなと思っていた。
しかしそのもよりの〈ビッグエー〉には「蔵だより」の二リットルパックしかなかったのである。置いてあるものと高をくくっていたぼくは泡を食ってしまった。
夕方ウォーキングしたあとに店に寄ったので、もう晩飯時である。迂闊であった。
いろいろ言い訳もかんがえたが、首をかわいくかしげてよくよく思案してみると、それほど重大なことでもないような気がしてきたので、山城さんには正直に謝ることにする。
山城さんはすぐ、
「そうでしたか。しかたないですよ」
とメールを返信してきてくれた。だからぼくも、
「あしたは午前中から真面目に捜索します」
と再度送信する。
風呂に入ろうとすると、またまたスマホが振動した。義姉からの電話だった。
「はいはい義姉さん」
「ああ、三千世くん。いま電話だいじょうぶ?」
「平気ですよ」
「あのね、いまさっき、油小路さんちから新米届いたのね。で、お義父さんに『三千世に電話して取りにこさせろ』っていわれたの……」
「うんうん」
「どうする?」
「じゃあ、いまから行きますよ。親父にへそ曲げられても困るからね」
「そうよそうよ。じゃあ待ってるわね」
義姉がいった〝油小路さんち〟というのはお袋の実家のことである。お袋の生家は米農家なのだ。
ぼくの実家は毎年一年分の米をここから買って納屋に保管しておき、そのつど精米して食べるのである。ちなみに実家はこの旧大伯母邸から歩いてすぐのところにある(実家の敷地内にこのはなれがあるということもできる)。
ぼくは空になっているほうの五キロの米びつを自転車のカゴに入れて実家へおもむいた。
義姉に米びつを渡したのちに親父がいる仕事部屋みたいなところにいちおう義理で顔を出すと、親父は何かの書類をみながら、
「おお、ちょっとそこ座れ」
とぼくにいってきた。親父を怒らせると、たちまち現在ののらくら生活は成立しなくなるので、ぼくは素直に従う。
「最近、仕事忙しいのか」
「ええ、いま、手のかかる一件にかかりきりでしてね。あしたも午前中からその仕事に真面目に取り組むことになってるんですよ」
親父はぼくが〝奉仕家〟の仕事をしていると思っている。以前仕送りを止められそうになったとき、義姉が、そうでっちあげてくれたのだ。
「じゃあ、その仕事が片付いてからでいいんだけどな、また田上のところに行ってほしいんだよ」
「あの温泉旅館ですか?」
「そう。おまえに頼みたいことがあるようなんだ」
「はあ……」
「ちょっと遠いけどな」
「ええ……」
「ご苦労だけど、行ってくれるな」
「は、はい……」
「じゃあ、田上の奴にそういっとくぞ」
親父がいっている〝田上〟とは親父の幼なじみの頼子ちゃんが嫁いだ先の旅館の経営者である。親父はどうもこの頼子ちゃんが好きだったみたいで、なにかにつけ親切にしているのだ。
A島にあるこの田上温泉旅館は「大日本探検愛好会」や「全日本妖怪同好会」や「新日本UFO親睦会」などの常宿になっている。
しかし近年はこの旅館周辺に出没するといわれていた宇宙人だかお化けだかも活動拠点(?)を変えてしまったみたいで、だからぼくは先の〝奉仕家〟という肩書の関係から宇宙人ともお化けともいわれている「ミック・タイガー」なる生物を創作し、かつ実演までして旅館サイドに何度か寄与しているのである。
「今回もミック・タイガーやっておけばいいだろ」




