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その七十八
三色丼の材料で冷蔵庫にあるのは卵だけだったので、ぼくは帰りがけに鶏ひき肉とほうれん草を買った。桜でんぶではなく、ほうれん草と卵とそぼろの三色である。
お昼すぎにアンダーソンさんはピカチューくんのところよりもどってきた。
アンダーソンさんはピカチュー邸に遊びに来ていたプリントゴッコさんとすこししゃべったという。
「お二人の会話、けっこう衝撃的でした」
さらにアンダーソンさんはメールをみて衝撃を受ける。マロンオーレ帝国の皇帝が倒れたらしいのだ。
「皇后様もすぐ帰ってくるようにって、いってるみたいなので、いったん母国に帰りますね」
アンダーソンさんは三畳間に出してあった私物を急いでカバンに詰め直していた。
ぼくはそのあいだにもう乗せるだけになっていた三色丼の材料でお弁当をつくってあげる。
「はい、飛行船のなかで食べてください」
「ありがとう。新倉さんて、ホントにやさしいのね」
アンダーソンさんは子ども用ビニールプールでふわふわと上空に舞い上がると、やがて時空飛行船のなかに消えていった。
「やり手は忙しくてたいへんだなぁ……」
徐々に透明になっていく飛行船にいちおう敬礼したのちに一人で粛々と三色丼を食べる。
「うん、うまいうまい」
われながら、なかなか上手にできていた。これならアンダーソンさんも満足してくれるだろう。お片付けをしたあとは歯をみがいてお昼寝である。
なにかの夢をみていると、
「ん?」
スマホの振動音である。〝シュゾンちゃんのお母さん〟と画面に出ていた。時間は一時半すぎであった。きっとパートから帰ってきたのだろう。ともかく出てみる。
「もしもし」
「もしもし、いまシュゾンからききました。たいへんなご迷惑をおかけしてしまって」
「いえいえ。ぼくがあのお酒あげちゃったから、いけないんですよ」
シュゾンママは恐縮していた。
「立て替えていただいたお金は、すぐお返しします」
「シュゾンちゃん、自分で働いて返すっていってるんですよ」
「はい」
「だから、この流れをうまく利用して、労働の方向にもっていけばいいんじゃないですかね」
「え」
「忙しくしてたほうが、いろいろいいみたいだし」
「やっぱりニート塾の先生は、かんがえることがちがいますね」
「ニート塾?」
「ええ。えっ、ちがうんですか?」
「いやいや、まあ、なんていうのかな、だいたいそんな感じです、ええ」
おそらくピカチューくんがそういったのだろう。まえまえから思っているのだけれど、あいつには絶対にかなわないのである。そんな塾があったら、むしろぼくのほうが生徒として通うべきなのだ。ピカ氏はそれをおもしろがっているのである。
シュゾンママは、今後ともよろしくお願いいたします、といって電話を切った。




