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その七十六
怒涛のルーティンののちに晩酌の支度をする。用意がすべて整ったころ、アンダーソンさんが、
「こんばんは」
とやってきた。
「お疲れ様です。どうぞ、あがってください」
「お邪魔します」
とりあえず地味に乾杯である。アンダーソンさんは「蔵だより」を冷やで飲みはじめた。ぼくはおなじく「蔵だより」のぬる燗でスタートする。
「おいしい」
とアンダーソンさんが食べたのはサバの味噌煮であった。ぼくはひじきの煮物にまず箸をつける。
「将軍、素直に予算出してくれてよかったですね」
「あそこはブレーンがしっかりしてるんですよ」
干し柿国の話をざっとしたのちにいよいよ本題である。
ぼくは旧川中島の跡地に入っている例のテナントのことを話した。
「たしかに安易に入らないほうがいいわね」
「ですよね」
アンダーソンさんは百科事典を引いてくれた。
「あっ、新倉さん、グリーンスネーク、交渉に使えますよ。まずはグリーンスネークに代理で問い合わせてもらったら、いいんじゃないかしら」
ということでわたくし新倉三千世は、さっそくグリーンスネークを呼び出してみる。
「グリーンスネーク・カモン」
リコーダーをデタラメに吹くと、グリーンスネークは壺から出てきた。
「プリーズ交渉、オーケー?」
グリーンスネークはお口を音を立ててパクパクッとやった。どうやら了承してくれたようである。
「スローダウン」
アンダーソンさんがいうには、シュゾンちゃんがピカチューくんをわすれて立ち直るためには、とにかく忙しく働くしかないという。
「うーん……でも、あの子、働くの苦手みたいですよ」
「そうなの?」
「うん。さっきシュゾンちゃんのお母さんに電話したとき、ちょこっと、きいたんですけどね」
「ピカチューさんがてきとうにいった〝塾〟っていうのも、じゃあ新倉さんがシュゾンさんを指導してると思ってるんですか? シュゾンさんが働けるように」
「なんか、そういう節があります」
「あはははは、新倉さん、困ったことが、また一つ増えたわね」
「のらくらしてるぼくが、指導できるわけないですけどね」
ふと思いついて、アンダーソンさんにピーチオーレ帝国のことをきいてみる。
「うーん、その国は知らないわね」
「アンダーソンさんでも知らない国あるんですね」
「知らない国のほうがずっと多いわよ」
「そういうものなんですか」
「でも、王子が行方不明なんて、そのお付きの和泉さんて方もたいへんね」
スマホを取り出して、東横インの空き部屋状況を調べていたアンダーソンさんは、
「この三畳間、あれから宿泊の予約入ってない?」
ときいてきた。だからぼくは、
「入ってませんよ。好きなだけ居てください」
とこたえた。




