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その七十四
シュゾンママにきいた〈ハムレット〉というスーパーは「蔵人三代」を置いていた。しかし〈河内屋〉よりも三十円ほど高かった。
「大関のものも」の値段はがんばっていたけれど、ぼくにとってのものもは高級酒なので、たいして意味がなかった。ブラックニッカはぜんぜん高い。ぼくは肩をすくめたのちに鮮魚コーナーに移った。
「キャオ」
いきなり試食スター氏との遭遇である。スター氏はホタルイカを試食していた。ぼくは声をかける。
「おお、お兄ちゃん」
「どうです、それ」
「たいしてうまくもないな。このスーパー、鶏肉はいいの、いつも置いてるけどな。鶏以外は長所ない」
「へー鶏肉、そうなんですねー。あっ、ところで、こういう女の子見かけませんでしたか?」
ぼくはシュゾンちゃんの写真をスター氏にみせた。
「うん、見た見た」
「ええ! ホントですか!」
「うん、きのうか、おとといか、わすれちゃったけど」
「どこで会ったんですか」
「やっぱりここだよ。このあたりでイカの塩辛さがしてたんだ、その子」
「うんうん! すごい! それで?」
「それで、酒臭かったから、昼間から、どうしてそんなに飲んでるんだって、きいたんだよ」
「スターさん、素晴らしいですよ。はじめていいこと、いいましたよ」
「そしたらね、失恋したから、やけ酒飲んでるんだって、その子いうんだよ」
「最高! ぜったいシュゾンちゃんだ、これは」
「だからさ、そういうときは集会みたいなのに出たほうが立ち直るの早いよって、おしえてあげたの」
「集会の場所とかもおしえたんですか」
「おしえた」
「キャオキャオ」
「お兄ちゃんさ、〈川中島〉っていう昔のレンタルビデオ屋おぼえてる?」
「はいはい、おぼえてます。会員でしたから」
「あそこずっと空きテナントだったんだけど、最近ようやく借り手が入ってね」
「そこが、失恋の集会のあれなんですか」
「そう」
「のっけから、大収穫です。スターさん、貴重な情報、ホントにありがとうございます」
ぼくは深くあたまをさげた。
「もう一つ貴重な情報おしえてあげようか」
「ぜひ」
「イオンに売ってる『住乃井、生貯蔵酒』と〈ベルク〉で売ってる『くらしにベルク生貯蔵酒』、あれ、中身おなじとかいってる奴いるけど、若干ちがうからね。〈ベルク〉で売ってるやつのほうが辛いから」
ぼくはこの〝もう一つの貴重な情報〟のほうには関わりたくなかったが、いちおう大げさに反応しておく。
「蔵シリーズばかりじゃなく、たまにはそれも飲んでみな」
「はい」
「飲んだことある?」
「ないです」




