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その七十三
九時すぎにシュゾンちゃんの母親から電話がかかってきた。
もしかしたらピカチューくんの冗談かもしれないとも思いはじめていたのだが、やはりさっきの話はほんとうだったようだ。
とりあえずぼくは、
「いまからうかがいます」
と先手を打つ。まえの章で記しているが、ぼくはシュゾンちゃんを送っているので、家は知っているのである。
自転車でおもむき、チャイムを押す。
「お忙しいところ、すみません」
「いえいえ。シュゾンちゃん、ぜんぜん帰ってこないんですか?」
「そうなんです」
「電話とかメールは?」
「あの子、スマホ置いて行っちゃったんです」
シュゾンちゃんが失踪(?)したのは、きのうだという。つまりぼくたちと飲み会をやった翌日のお昼には、もうどこかにいなくなってしまったということなのだ。
シュゾンママはその日はパートだった。午前八時から午後一時まで食品関係のお仕事をされているということである。
「朝は会ってるんですか」
「ええ」
「なにかしゃべりましたか」
「お腹すいてないから朝食はあとにするといってました」
「あとは」
「イカの塩辛ないかって、唐突にきいてきたんです」
「で?」
「ないって、いいました。ウチ、ほとんどイカの塩辛は食べないんですよ」
シュゾンちゃんはママがパートに出ると、ぼくが前夜にあげた「蔵そだち」をさっそく飲みはじめた。
つまみはイカの塩辛がなかったので、シーチキンの缶詰と自分で蒸したサツマイモである。
「いつも食べたものはちゃんと片付ける子なのに、パートから帰ってくると、サツマイモとシーチキンの缶詰とお酒がそのままになってたんです」
「『蔵そだち』はどこですか」
「いまもってきます」
ぼくは手にもって酒の残りの量を計ってみた。半分以上なくなっている。
「そのあとこの酒、誰か飲みましたか」
「いいえ。誰も飲んでません。ウチはあの子以外、誰もお酒は飲まないんです」
ということは、シュゾンちゃん一人で七合くらい日本酒を飲んだことになる。
「うん! だいたいわかりましたよ」
「まさか誘拐とか……」
「いやいや、きっとイカの塩辛を買いに行ったんですよ」
「それは、どうして」
「酒飲みは酔っ払うと、その勢いで、食べたいつまみとか、足りなくなった酒とかを買いに行ったりするものなんですよ」
「そういうものなんですか」
「ええ。ぼくの友人なんか台風の日に『どうしても食べたい』って、緑のたぬき買いに行って、びしょびしょになって帰ってきたこともあるんです」
酔っ払って衝動的に買い出しに出たからスマホもわすれているのであろう。シュゾンママがいうには家のカギもかかっていなかったらしい。
ちなみに緑のたぬきを買いに行ってずぶ濡れになった人はお察しの通り山城さんなのだが、まあそれはともかくとして、
「うーん、よし!」
まずはもよりのスーパーに聞き込み調査をおこなうべきだろう。ぼくはやってる感を出すためにシュゾンちゃんの写真はないかとシュゾンママにきいた。
「これなんか、どうですか」
ママは自分のスマホに入っている写真をみせてくる。
「ああ、これで、いいですね。ぼくのスマホに送ってください」
とりあえず下準備はオーケーである。やってる感もじゅうぶんに醸し出したはずである。
そんなわけでぼくは、シュゾンちゃんちがいちばんよく行くスーパーにまずは向かった。




